ソティラス全滅
マサガガにステマ遺跡のワープゾーンへ連れてこられたアルフとマジョルカは、泉の前で、今日初めて聞いた魔法というものを待っていた。マサガガは慣れた感じで、
「ナオス デオス プロセフホメ エニャ アプリナミア!」
三人はすうっと泉に吸い込まれて、姿を消した。
シューという音が消えたかと思うと、マサガガの頼りげない声が聞こえた。
「着いたぞ」
アルフとマジョルカはいつの間にか閉じていた目を、そっと開いた。すると、そこに懐かしい、見慣れたギギガの背中があった。アルフとマジョルカの目にみるみる涙が溜まっていく。泣きそうになるのを必死で堪えるが、声が震えていた。
「じいちゃん……」
「おじいさん……」
ふたりの呼びかけにはたと振り返ったギギガは、誰だか気づいて、
「お前たちも来たのか」
のんきな言葉をかけた祖父に、アルフは走り寄って、
「じいちゃん、心配したんたぞ。戻って来ねえから」
ギギガに抱きつき、涙をこぼした。それをそばで見ていたマジョルカも一緒になって泣いた。数ヶ月ぶりの再会だ。一度は死んだかもしれないと諦めていた。そのため、再会の感動はひとしおだった。
それから三人は、灯草の露集めにいそしんだ。マサガガとクピルは戦いの合間を縫って、家々を回り、事情を説明し、水を分けてもらった。
ソティラスたちは、次から次へと現れる敵と戦いながらも、学園で休息する時は、アルフたちから、エガタの生活や研究などの話を聞かせてもらった。中でも、的はエガタの高度技術に興味津々。アルフとマジョルカを質問攻めにしては、彼らが答えるという日々が続き、的とアルフ、マジョルカは親友となった。
そして、一週間後。
灯草が導く、ステマ遺跡の入り口で、
「これで、十分足りるじゃろ」
ギギガはコリンバッグに、水を詰めながら言った。コリンバッグとは、物理的に圧縮、軽量化し、大量のものをコンパクトに運べるバッグのこと。
アルフはソティラスたちと、手伝ってくれたクピル、マサガガと握手しながら、
「サンキューな」
嬉しそうな顔を見せた。マジョルカは一人一人に丁寧に頭を下げ、
「ありがとう、これでみんなの病気が治るわ」
ソティラスたちはそれぞれの方法で、アルフたちを見送る。
「元気でね!」
「元気で!」
アルフたち三人はそれに応えるように、力一杯大きく手を振って、
「マジでサンキューな。落ち着いたら、また来るからよ」
「それじゃ」
マジョルカが言うと、アルフたちは遺跡の奥へと消えていった。
★ ★ ★
一週間ぶりに、エガタのステマ遺跡へ、アルフたちは戻ってきた。
「さて、歩くかのう」
歩き出したギギガに、マジョルカが続こうとすると、アルフの待ったの声がかかった。
「こっから、行けるって」
マジョルカは振り返って、怪訝そうな顔で、
「えっ? でも、それは呪文がないと……」
「覚えたんじゃな」
ギギガは孫の語学力の良さをよく知っていた。
「おう!」
アルフは元気よく答え、目を閉じた。マサガガの言っていた呪文を、オクト遺跡へとアレンジする。
「ナオス デオス プロセフホメ オクト アポミナリア!」
三人は泉に吸い込まれるように、突如消えた。
昼過ぎに、エガタへ戻ってきたアルフたち。その後、マジョルカの研究所のつてを伝って、灯草の水は、最先端の運搬システムで、あっという間に各地に行き渡り、夕方ごろには、全ての人の闇目病は完治していた。
アルフとマジョルカは、オクト遺跡近くの原っぱに、肩を並べ座っていた。相変わらずのどんよりした空。ゴォォォーッという地鳴り、絶え間なく揺れ続ける地面。そんなエガタでも、アルフとマジョルカの心は幸せで満たされていた。
アルフはふーっと大きく息を吐いて、草原に寝転がった。
「的たちには、礼を言いに行かねえとーー!!」
彼は急に飛び起きた。マジョルカは少し驚いて、
「どうしたの?」
アルフは彼女の方には目もくれず、ここでないどこかを見るような瞳で、神経を研ぎ澄ましていた。
「何か嫌な予感すんぞ……」
「どういうこと?」
マジョルカの質問には答えず、アルフは素早く立ち上がり、
「的たちが危ねえ!!」
原っぱを駆け下り始めた。彼の背中に、マジョルカは問いかける。
「何でわかるの?」
「わかんねえけど……」
アルフの声がどんどん小さくなっていく。
「オレと的が似てるからじゃねえか? とにかく、エガフォスに戻んぞ」
のんびりと立ち上がったマジョルカは、アルフの背中に忠告。
「ちゃんと準備してから行かないと、私たちも危ないかもしれないわよ」
ふたりの頭上には、地上で起こっている何かを予感するかのように、不気味な雲が広がり始めていた。
★ ★ ★
その頃。
エガフォスーーセフィスの地上では、いつも通り、救援要請を受けた、的たちソティラス第一班のメンバーは、全員、口から血を流し、倒れていた。特に目立った外傷はなかったが、彼らの息はもう虫の音だ。敵の姿はすでになく、アメティスとルヴィニの月影が、彼らに冷たく降り注いでいた。まわりの草木は焼けたように、ただれており、何ひとつ動くものはなかった。
後編へ続く
ここまで、読んでいただき、ありがとうございました。
後編からは、さらに新しい人物が登場します。
ご期待ください。




