そのビール、生?それとも瓶?クーイズ☆
暇だ。暇地獄だ。
現在時刻は十三時。場所は料理研究部の部室。室内にいるのは僕と顧問の外山先生の二人。
土曜日の部活は自由参加なのだが、家で特にすることもないので、僕はちゃんと部活に来た。そんで来てみたら先生だけ。さっきから待っているけど誰も来ない。
仕方がないので先ほどから二人で椅子と机を駆使して、色んなポーズでぐでーんとしている。そんなことをしていたら僕が部室に来てから一時間半が過ぎた。まだ一時間半か…。
「暇だー」
「暇っすねー」
「ジェンガでもするか?」
「嫌ですよ、外山先生バレてないと思って机を揺らすから」
「そうかー、バレてたかー。暇だー」
「そうっすねー何か無いっすかねー」
僕と同様、ぐでーんとしていた先生が急にパッと立ち上がった。どうやら何か思いついたらしい。
「よし風早、先生とクイズで対決だ!」
「急に何!?その昔のクレヨンしんちゃんのゲームみたいなノリは。友達の子供におばさんって言われたショックで頭おかしくなっちゃったんですか」
「うるさい!過去の傷を掘り起こすんじゃない。そして例えが分かり辛い。まあいい、早速始めよう!」
え、何、もうやるの?展開が早くないかしら。
「題してえー!『そのビール、生?それとも瓶?』クーーイズ!!いえーーい!!」
「全然イエーイじゃないんですけど。何、ビール?僕高校生なのに?題材おかしくないですか?」
「それではクイズの説明だ!よく聞いておくように」
こっちの話を全然聞いてねえこの人!
「まず、私がこれからビールを飲むシチュエーションを言います。そしたら風早は、そのシチュエーションに合うビールは生ビールなのか瓶ビールなのかを答えてください」
…何この死ぬほど生産性の無いクイズ。考えたヤツ呼んで来いよホント。普段から真面目で、一度もお酒を飲んだ事の無いこの僕が、このクイズに答えて面白くなる要素なんて一つもないだろう。
しかし先生はやる気満々のようで、嬉しそうにニヤニヤしながら「いっくぞー♪」と僕に合図をした。子供かお前は。
「第一問!あなたは夏の会社の打ち上げをビアガーデンで行っています。小さいグループの打ち上げなので、人数は六名です。そこで上司が言いました。『風早―、取りあえずビール頼んどけ』。さて、あなたが頼むのは?生、それとも瓶?」
「…生?」
ピンポンピンポーン!!
あ、何か正解っぽい音が鳴った。
「だーーい正解ィ!!やるなあ風早!」
うん、嬉しくない。
「…言葉選ばずに言うと、クソ漏らすくらいつまらないんですけど、このクイズ」
僕の不平を一切聞き入れず、先生はそのままクイズを続けた。あなた私の先生だよね?生徒の話は聞かなきゃダメだぞ☆
「第二問!あなたは忘年会に参加をしている新入社員です。今回の居酒屋は三十名座れる座敷タイプの居酒屋。あなたの会社の色んな部署も合同の、大きな飲み会です。あなたの知らない会社の先輩も当然います。そこで上司が言いました。『風早ー、取りあえずビール頼んどけ』。さて、あなたが頼むのは?生、それとも瓶?」
「…生?」
ブッブー!
あー、不正解か。
「残念、不正解!おいおい、風早ー。お前は知能ゼロのエテ公か?まだタラバガニの方が脳みそつまってるぞ?」
「なっ、不正解だとすっごい罵声飛ばしてくるこの人!!ちょ、そもそも高校生に生とか瓶の違いなんて分からないですから!」
「全く…お前にはイメージが足りないんだよ、イメージが」
先生はオーバーリアクションな外国人のように両腕を広げて、やれやれと言いたげな腹の立つ顔をした。SHIT!!
「お前、考えて見ろ。いるか?初対面の先輩に挨拶に行くのに生ビールのジョッキ持って座敷をウロウロするヤツ」
「ぐっ…確かに言われてみれば、あのキリンのロゴが書いてあるちっさいコップを持って注ぎつ注がれつしてるサラリーマンの方が目に浮かびます…」
「そう言うことだ。次からはちゃんとイメージして答えるようにな。じゃあ第三問!あなたは終電を逃したのでカプセルホテルに泊まることにしました」
「ちょ、ちょっと待った!シチュエーションが高校生には無理ゲーすぎる!!」
「まあいいから聞け、そして想像するんだ。えー、カプセルホテルに泊まることにしました。大浴場でひとっ風呂浴びたあなたは、風呂上がりということで喉が渇き、小腹も空いてきました。そこで上司が言いました。『風早ー…』」
「待て待て待て待て!!!!さっきの上司まだいるのかよ!どんだけ仲良いんだよ気持ち悪い!付き合っちゃえよもう!」
「じゃあ上司は無しにするか?」
「無しです無し!消してください」
「えーっとじゃあ、あなたは上司を消すために、彼を大浴場で湯船に沈めました。一仕事したあなたは喉が渇き…」
「怖えええわ!!しかもその後に酒飲もうとしてんじゃねえよ!!サイコパスか!!」
「じゃあ上司はどうするんだ?」
「上司は最初からいないの!上司はちゃんと終電に乗れたの!帰ったの!」
「お、いいな風早。自分で設定を追加してくるなんて、やる気が出て来たか?」
先生は微笑みながらサムズアップを僕の方に向けた。やめてホントに。
「先生のクイズがややこしいんですよ…もういい次!!」
「じゃあ第四問、これが最後だ。最後の問題を正解するとなんと百ポイント!」
いままでポイントなんて無かっただろうが。
「えー、あなたは付き合っていた人にフラれて落ち込んでいます。一人では気持ちを落ち着けることが出来ず、友達を呼んで話を聞いてもらうことにしました。そこで上…」
「だから、いないって!上司はいないの!!出てくるとややこしいから。ていうかきっとその『フラれた相手』が上司だから!ここには絶対いない!」
「いちいち割り込むなよ。まあいい。上司は無しな。続きから行くぞ?えー、友達を呼んで話を聞いてもらうことにしましたと。そこで友達が言いました。『そんな暗い顔するなよ、取り合えず何か飲もうぜ』。さて、あなたが頼むのは?生、それとも瓶?」
すげえ難しい!!生ビールだと、お祝いとか、お疲れさま会とか、おめでたいイメージがあるんだよな。でも、同年代の男二人で瓶ビールを注ぎ合うって気持ち悪いような気もする。ていうか想像がつかない。あーでもなー、フラれて凹んでるときに生ビールって頼むのか?瓶でちびちび自分の分を注ぎながらって感じか?
…あ!今すっごいちゃんと考えてる!完全に先生の思うつぼだ!まあいい、答えは決めた!百ポイントゲットだぜ☆
「瓶です!」
ダンダダダダダダダダダダダダダダダダ…
お!ドラムロール鳴り出した!流石最後の一問!こんなクソみたいなクイズだけど緊張してきた!!
ダダダダダダダダン!!
ブッブー!
だああああああああ!!悔しい!違うのかよ!!えー生なの!?落ち込んでるときに生で乾杯なの!?
「残念不正解ィー!正解は、『そんな軟弱男は梅酒でも飲んでろ』でした」
「おいいいいい!!ズルすぎるだろ!!生か瓶のクイズじゃねえのかよ!!!」
「ふふっ、甘いな風早。いいか、人間というのはいかなる不測の事態にも…」
「もういい、止めです止め!」
僕は先生の言葉を遮り、再び二つの椅子をくっつけて寝そべった。
「そうか、じゃあ次は『そのビール、生?それとも瓶?占い』を…」
「もういいわ!!!」