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疾風怒涛  作者: 小椋稚内
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プロローグ

 ヴェルギリウスは弦を引き絞ると、敵の首ど真ん中をぶち抜いた。矢はトップレベルの堅固さを誇る竜の鱗を突き破り敵の息の根を止めた。白銀の竜は力尽き、猛吹雪が晴れ渡った。金髪の女がヴェルギリウスに近寄って剣を天高く挙げた。かくして王国の頭痛の種の一つが消去された。


 北海より侵入した氷竜はいつもとは様子が違った。巨大な種族である竜種の中でもさらに二回り大きいそのドラゴンはブレンダンの港を強襲し、ブレンダン軍を軽くあしらうとブレンダン南方に位置するヴァッソ荒野を我が物顔で領有し始めた。これを重く見た北ダルマティア国王フランツ=ハイドリヒ7世はブレンダン軍の生き残り及び周辺都市の軍隊を編集して氷竜討伐隊をヴァッソに差し向けた。しかし氷竜は生半可な強さではなく、軍人共を皆殺しにし、ヴァッソを正しく死体ワール野原シュタットへと変貌させた。



 だから。



「お前がどんなにすげえ弓使いだか身に染みて判っているがな、一人じゃ物理的に不可能なんだよ。今回の氷竜討伐なんてな」


「いや一人じゃないけどな」


「一人も二人も変わんねぇよ。あの個体は異常に成長していたらしい。圧倒的な加速、火力。ブレンダンは瞬く間に陥落してしまったようだよ」


 ヴェルギリウスは馴染みの酒場でギルドマスターに捕まっていた。彼の名前はアントン=アントニン。既に400年程生きている若い人間種だ。


「これを見ろよ」


 と、言い出すなりヴェルギリウスはポケットから白銀の鱗を出した。間違いない。氷竜から剥ぎ取った勝利の証だ。


「おいおい......マジかよ。本当に堅牢な竜の甲殻を突き破ったっていうのかよ」


「勿論弓はブチ壊れた。真っ二つになってしまったよ......」


「そりゃそうだろうな」


「新しい弓を作るのに金が要る。氷竜討伐したんだから金を寄越せ」


 ヴェルギリウスがそう強請ると、アントンはため息をついた。幾度と無く見たことがある光景だからだ。


「お前......刹那主義的生き方をまだやめてなかったのか」


「人はどうせいつか死ぬ。それまで最大限に楽しめれば良いんだよ」


「それを最初に言い始めてから300年は経った。いい加減に学習しろ!」


 そうどやすも、アントンは目の前の弟分のことを心配していた。


(こいつ......高い給料さえ払えばバンダルに鞍替えしそうだしな......ダルマティア人としてはそれを許すわけにはいかない)


「良いだろう。だがお前には払わん。チェスカちゃんに管理してもらうんだな」


「や、やめてくれ......。チェスカは財布の紐が堅いんだ」


「だからあの子に渡すんだろう」


(色々な意味でお似合いだろうよ。後はチェスカちゃんがほんの少し勇気出すだけだな)


 アントンはヴェルギリウスの相棒の可憐な顔を思い浮かべてため息をついた。





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 人間種の寿命が天文学的な数字になったここ数千年。ダルマティア旧王国とダルマティア王オットー4世を生贄にして人間は半永久的な不老不死の術を手に入れた。ダルマティアは南北に分割され、南部、そして中部に位置する旧王都エンシュブルク、歴代ダルマティア王の居城ゼヒツィヒ城は人が住むことの出来ない魔境と化した。ゼヒツィヒ城には魔界を管理する魔王が棲んでいると言われ、南部ダルマティアの奪還を目指す北ダルマティア王国や、領土拡張を目論むバンダル王国の前に立ちはだかってきた。彼らは決して北側には侵攻して来ず、その立ち位置からエンシュブルクの番人と呼ばれている。


 魔王が人類なのか、それとも人非ざるものなのかは誰にもわからない。


 そんな南部ダルマティアに浪漫を感じ、進入する不届き者は後を絶たない。しかしながら入ったら最後帰ってくる者は皆無で、北ダルマティア政府は中部および南部ダルマティアの侵入を無期限に禁止した。そんな中であろうか。

 

 傲慢な人間は不老を勝ち得ると、今度は刺激を求めた。

 ここ数百年、ダルマティア北方の大北海から侵入してくる竜種の被害が増大している。暇を持て余した彼らはそのドラゴンを狩る事にした。表向きは日々の生活の安寧を求めて。しかし本心は名誉と、名声と、浪漫と、スリルを求めて。その中でも一目置かれて、その嵐のような剣戟と、怒涛に弓矢を雨あられと敵にぶち当てることから疾風怒涛シュトゥルム・ウント・ドランクと呼ばれた者たちが居た。

 

 これはそんな竜殺し達の物語。


魔の物、と言いつつもドラゴンと人間ばかり出てくるアホな物語の予定です!

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