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ゾッ帝 パティシエ修行編  作者: mしぃ
禁断の森の奥
6/19

川に流されて と 白色のドラゴン

不要だと感じた部分を削っていったらあまりに短すぎたため、二話分をまとめて投稿します。

~前回のあらすじ~



墜落して死にそう。



~川に流されて~



 オレの小さな脳みそに思いつく策などは何一つなかった。

 ただ、今の速度で水中に激突したら無事で済まないことだけは確実にわかる。何より、オレが助かったとしても意識を失っているミサは確実に死ぬ。

 それでは、意味がない。

 

 手の汗で滑り、ホバーボードがオレの手から離れていく。

 しかしそんなものを気にしている余裕はなかった。

 何をどれだけ考えたところで、現状を打破できる気は微塵もしなかったが、頭の中で思考を巡らせていなければ心が壊れてしまうような気がして、ひたすらに意味のない逡巡を繰り返す。

 不思議と空いた右手は首飾りを握り締めていた。



 水面も間近になりオレの頭が絶望に支配されていた頃、握り締めていた首飾りが眩く輝き出す。

 指の隙間から漏れ出す青白い輝きはオレの体を包み込み、落下の勢いを急激に殺していった。

 

 ――オレの体を。

 

 この不思議な現象で水面に達することなく済んだのはオレだけで、ミサは輝きに拒否されるかのようにはじき出されてしまった。

 輝き始めた瞬間に落下速度が緩やかになっていたこともあり、命に関わるような怪我はしていないようだったが、ミサは水流に流されていってしまう。



 オレの体が完全に空中で静止すると、首飾りは役目は終えたとでも言うかのように輝きを失っていった。

 輝きの消失と同時に水中へと落ちたオレは、口に水が入るのも気にせずミサを追おうと水中を蹴る。

 うつ伏せのままに流されていくミサは、恐らくそう長くは持たない。そして早急にミサを救出しなければ低体温症でオレの命も危うい。

 

 思ったより流れが速く追いつくのは困難かと思ったが、幸いにもミサは茂みに引っかかってくれたため、なんとかミサを陸へ引き上げることができた。



「ミサ、しっかりしろ!」

 横たえたミサの胸に耳を当てる。

 本来聞こえるべき鼓動は既になく、ただ川の流れる音だけが異常なほど大きく聞こえてきた。

 ただ水流にかき消されているだけだと自分に言い聞かせながら、再び耳を当てて鼓動を確認しようとするが、やはりそこに音はなかった。



「おい、ミサ……嘘だろ……」

 返事が返ってくることは当然ない。



 ミサの生命活動が停止している以上、オレにできることは総合学校で習った心肺蘇生くらいだった。

 胸骨圧迫と人工呼吸を繰り返す。

 人工呼吸はこんな場面でもなければ、恥ずかしさの一つでも覚えたかもしれない。

 オレの胸は焦燥感で満たされていた。



 幾度か心肺蘇生を繰り返すとミサが息を吹き返したものの、飽くまでそれはスタートラインに過ぎず焦燥感が消える理由にはならない。

 このままではオレもミサも低体温症で死んでしまうのは時間の問題だろう。

 

 そんなことを考えていると人の気配に釣られてきたのだろうか、二匹の狼に似た魔物がこちらへ向かってきた。

 金属製の骨格が未だ露になっていない生物としての体を為す二匹の魔物は、どこか愛らしい獣のようにも見える。

 オレは自動拳銃を抜き、弾丸を装填し直す。先ほどまでのとりもち弾ではなく、戦闘能力のない照明段へと。

 いくら獣型とはいえ、ミサを守りながら戦うのは不可能だと思った。



 他の魔物よりも先にネロがミサを見つけてくれると信じ、宙に向けて引き金を引く。

 大きな音とともに、空高くで赤白い煙が舞う。

 既に陽が昇りかけていたが、その音と発煙は十分目立つものとなった。



 そうしてオレは二匹の魔物へと向かって駆け出す。

 二匹の魔物の間を縫うようにして走ると、案の定魔物はこちらを追ってきた。



 逃げ切れる気はしない。

 それでも刺し違えるくらいならできるような気がする。

 ただミサの命が助かればいいと、今はそう思う。



 木々の間を縫い、ミサからある程度離れたところで剣を抜き魔物と対峙する。

 いよいよ互いに動き出そうかというところで、異様に大きな羽ばたく音が聞こえてきた。



 どこから現れたのかもわからない“それ”はオレだけでなく魔物をまでも畏敬させる、まさしく天災と揶揄されるものだった。

 

 龍。



 地域、時代を問わず世界を震撼させ続ける脅威。

 白い体躯に青い瞳を持つ巨大な龍が見せ付けるように虚空へと火を吐きながら近づいてくる。

 遥か空中の出来事であるにも関わらず、龍の吐く炎はこちらにまで熱を伝えた。



「感じる、感じるぞ! オーヴの力だ! 儂の眠りを醒ます力! 久しく待ち望んだ力!」



 高位の龍は人語を解すると聞くが、白い龍は歌うように歓喜の声をあげながらオレを見つめていた。

 気付けば、何よりも恐ろしい生物である龍を前に、オレと対峙していた魔物もどこかへと逃げ去っている。

 オレもそれに倣うべきだったのかもしれないが、もう遅い。

 

 何よりもオレは龍の美しさに目を奪われ、思うように足が動かせなかった。



 龍を前に立ち竦んでいると、唐突に首飾りが輝き始めた。

 首飾りにどのような意味があるかは全く理解できないが、不思議とその輝きは大丈夫だと教えてくれているように思えた。

 再び宙に浮き始めるオレを見て、龍は少しだけ感嘆したような声を漏らす。



 オレの体がある程度の高さまで浮き上がったのを確認すると、龍は一度頭を伏せてからその背にオレを乗せて大きく羽ばたいた。

 

「おい待て! 下ろせ!」



「ほぅ。疲労はとうに限界だろうに、よく吠えるのう、ご主人」



 ご主人……?

 こいつは一体何を言っているんだ。

 

 いきなり現れた龍はオレを乗せ、川沿いをゆっくりと飛んでいく。

 川沿いに目をやると、黒装束の複数人が銃器を構えながらミサに近づいていくのが見えた。



「いいから早く下ろせ! ミサを助けないと!」



「倒れてる娘のことかい? あの黒いのは奥の野営地に陣取ってる連中みたいじゃな。だが、あれを呼び寄せたのは儂ではなく、お前じゃろう?」



 黒装束の連中はミサを担ぎ龍を一瞥したあと、特に何をするでもなく整然と自らの陣へと動き出した。



 オレの放った照明弾は、ネロでも魔物でもなく連中に見つかってしまったということか。

 だがしかし、魔物に見つかるよりかはマシかもしれない。

 少なくともすぐに殺しはしないだろうし、最低限の命の保証もされるだろう。

 そう自分に言い聞かせたが、保証されるのは命だけであって人間の尊厳が保たれることはないと思った。

 やはり、助けに行く以外の選択肢はない。



「ミサを助けに行く。野営地へ行ってくれ!」

 

「儂ではなく自分の体に聞いてみるといい。きっとご主人の未熟な精神よりも、正しい行いを示してくれる筈じゃ」



 龍の言葉を聞いて、今まで蓄積された疲労が一気に襲い掛かってきた。

 ただ夢中で行動していたうちはなんともなかったのに龍の背で安堵でも覚えたのか、今まで忘れることのできていた疲労までをも思い出してしまったらしい。



 とうに限界の来ていた体をどうすることもできず、意思に反してオレは深い眠りへと落ちていく。



「オーヴを使った割には、持った方じゃ。うむ、悪くない」



 最後に聞いたのは楽しげな龍の言葉だった。


このあとオーヴの説明とかあるんですかね。

なかったら話の広げようがないんですが。

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