カイトとミサ
口笛を吹くのがカイトの癖らしいですが、気付かなかったので全部カットしてしまいました。
原作とひどく乖離していますが、今更修正はできないので諦めます。
~前回のあらすじ~
カイトたちがウォーターボールで空中散歩中に、突然襲ってきた大鷲の様な二羽の魔物。
魔物の攻撃で、カイトのウォーターボールに罅が入る。
魔物の攻撃に耐えられなくなったカイトのウォーターボールは砕け、カイトは宙に投げ出される。
~カイトとミサ~
オレの呟きは誰の耳へ入ることもなく、ただただ虚空に溶けてく。
打開策などが思いつく筈もなく、滲む涙を隠すように瞼を閉じる。この期に及んで張るべき意地があるとも思えなかったが、涙を見せながら死んでいくのだけは嫌だと思った。
「なに諦めてんのよっ! 見捨てるわけないでしょ! 今行くから、そこで待ってなさい!」
今までに幾度も聞いた甲高い怒声は、不思議と心地よく耳に響いた。
ミサに気付かれないよう頭を抱えて笑う振りをして涙を拭う。正しく意地を張る場面が来たのだ。
たとえこれが夢であろうとも。
いや、きっとこれは夢じゃない。
オレはゆっくりと瞼を開ける。
視界に、激しく火を噴くホバーボードが映る。
手を抜いてみたり、助けてみたり、よくわからない女だ。
案外、仲間とはそんなものなのかもしれない。見捨てられたなどと思った自分の方こそ、本当の薄情者であるような気がして、変な笑みが零れた。
ネロとはぐれてしまうことになるが、あいつならオレよりも上手くやる。
そんな安穏とした思考は、ミサを目掛けて急降下する大鷲によって遮られた。
どうやら、諦めてくれる気はないらしい。
「ミサ! 後ろだ!」
「知らないわよ! あんたがなんとかしなさい! こっちは助けるので手一杯なの!」
……それもそうだ。
魔物の相手も、オレの救出も、全てを他人任せでは情けないにも程がある。
深呼吸をしながら、腰の自動拳銃を抜く。
いつまで経ってもオレの身体が叩きつけられないことに小さな違和感を覚えたが、そんなことを考えている余裕はなく、すぐに思考を切り替えた。
見ると、大鷲の背部からは二本の鋭い触手のようなものが生えていた。
あんなもので貫かれては、人間の体が生命活動を続けることは不可能だろう。
ミサに弾丸が当たってしまわぬように注意を払いながら、ただ一点だけを狙う。
右手で拳銃を持ち、左手でそれを固定する。拳銃に装填されているのは、非殺傷のとりもち弾。
変に殺傷性のある銃弾であったのならば、金属製の骨格に弾かれてしまう可能性もあったが、とりもち弾ならば確実に仕留められる。
数秒、深く集中してから引き金を引く。
放った弾丸は吸い込まれるように羽根の付け根へと向かっていき、白いとりもちが付着する。
バランスを崩した大鷲は空の王者にあるまじき不細工な様子で、ミサとは見当違いの方へと墜ちていった。
「流石に、暴徒鎮圧用は一味違うね」
騎士団からくすねた銃だが、あとから確認すると殺傷タイプの実弾は一つもなかった。
やはり、オレ程度が進入できる場所に実弾は置いておけないということか。
もっともそれが功を奏したような気もするため、一概に残念とも言い難い。
「あぁもう! 間に合わない!」
いよいよ以ってミサが諦めたのかと思ったが、そう叫ぶが早いかオレの体を再びシャボン弾が包み込んだ。
このシャボン玉で再びネロのところまで向かうのかと思ったが、風の都合でできないとでも判断したのか、ゆるやかに下降していく。
少なくとも、これで墜落死は免れたわけだ。
「……最初からこれ使えば良かったんじゃないか?」
「うっさいわね! あたしの魔力はそんなにないの!」
そう言い放つミサの表情には疲労の色が浮かんでいた。
シャボン玉の維持すら辛いのか、ミサは自分の手を掴めと言わんばかりに腕を突き込んでくる。
ミサの手を取ると、シャボン玉はゆるやかに溶けていった。
見下ろすと、未だに地面は遠かった。
既に何分も落ち続けた気がしていたが、自分の錯覚だったのだろうか。
「やっと掴んだ……」
ミサの後ろに立つオレに表情を伺い知ることはできなかったが、その声色は優しかった。
「ありがとな」
少し気恥ずかしかったが、助けられたのは事実に違いない。
「べ、別にっ。ま、まぁ幼馴染だし? ネロに言われたし? 死なれたら後味悪いし? そう、仕方なく……仕方なくよ!」
なんともわかりやすい狼狽の仕方であったが、それを口に出すのが野暮だということは流石のオレでも理解できる。
「ふんっ……でも喜んでばかりもいられないわよ」
「助かったろ? ネロのことか? あいつなら大丈夫だろ」
「ネロが大丈夫てことは、あんたの百倍理解してるわ。問題なのはホバーボードの方ね」
一拍置いたあと深刻そうに溜息を吐きながら、
「残念ながら、あと数秒で燃料切れね」
そう言った途端、ホバーボードのファンの回転が弱くなっていくのがわかった。
「いい? 墜落するけどホバーボードは壊しちゃダメよ。なくしてもダメ」
オレが口を開くより先に、起用に振り返りながらミサが早口でまくし立てる。
「あとは絶対に死んでもダメ。二人ともね」
ミサが喋っている最中にも見る見るうちにホバーボードは活動を停止していく。
「これで最後だけど……あたし、別に手抜いてないから!」
言い終えると同時にミサの息が荒くなっていく。ミサの体調に呼応するように、ホバーボードも沈黙してしまう。
「おい、ミサ!」
ミサは弱く微笑む。
「んじゃ、あとよろしく……」
それだけ言うと、ミサはオレの胸に倒れこむようにして意識を失った。
どうも魔力切れの影響らしい。
左腕でミサを抱えながら、右手でホバーボードを掴む。
しかしながら安全に着地する術をオレが持っている筈もなく、できるのは精々川を目掛けて落ちていくことくらいだった。
下手をすれば溺れて二人とも死ぬが、できればミサだけでも助けたいものだ。
全てを運否天賦に任せ、落ちていく中でそんなことを思った。
ミサもうざいと書きましたが、原作を読むとカイトが一番うざいです。
助けられた挙げ句に礼も言わない主人公は流石にありえないと思います。
全ての他人は自分に尽くして当然だと考える主人公が、ひどく気に入らなかったので修正してしまいました。
申し訳ありません。