絶体絶命
あらすじ除くと本文1500字くらいしかないんですけど…
~前回のあらすじ~
カイトとネロは姿を変えた魔物の攻撃を食らう瞬間、幼馴染のミサに魔法で助けられた。
高台で束の間の休息を得るが、再び魔物に襲われてしまう。
そして、魔物の攻撃でカイトのウォーターボールに罅が入る。
~絶体絶命~
「おい、ミサ! なんでオレのだけ罅が入ってるんだよ!」
オレはあまりの恐ろしさに身震いしながら、ミサに食ってかかる。
まさか、こちらのだけ精度を下げたとか、そういう話じゃないだろうな。
「ごめんっ! カイトのは、ちょっと手抜いちゃった。ネロは特別だから、ね?」
そのまさかだった。
悪びれる様子もなく胸の前で両手を合わせて、可愛らしく舌を出し形だけの謝罪をするミサの姿は、魔物よりも恐ろしく見える。
特別扱いをしたネロに向かってウィンクをして点数を稼いでいるつもりなのかもしれないが、それで評価が上がると思っているのであれば、ミサの脳内には花畑が広がっていると見て間違いない。
きっとダリアやらスノードロップやらでで埋め尽くされた花畑に違いない。
「ネロ、お前からも何か言ってやれ!」
ミサとまともな意思疎通ができるとは思えず、まだ話の通じそうなネロに救いを求めてみる。
しかしネロはデジタル腕時計を弄りながら、メガネのレンズを通して砲撃がどこから飛んできたかを索敵するのに夢中なようだ。そもそも、意思疎通ができるできないの問題ではなく、初めからするつもりもないといった風だった。
「大丈夫、心配しないで。ネロとあたしは助かるから。短い間だったけど楽しかったわ……あぁほら、しっかり供養とかはするから、許してね?」
優しげな微笑を浮かべたあと、対して形式も知らないであろう十字を切る仕草をした。
供養と言ったあとに十字を切っている辺り、形式どころか宗教の違いすら理解していなさそうですらある。
「ふざけてる場合か! 何かくるぞ!」
こちらとしてはふざけているつもりなど毛頭ないのだが、ネロの目にはそう映らなかったらしい。
きっとオレがネロの立場だったら同じことを思っていた。
辺りを見回し敵を探そうと身構えたものの、そうするまでもなく敵が自らの居場所を教えてくれた。
振り向くとオレたちのシャボン玉を追うかのように、二羽の大鷲がけたたましい悲鳴を上げながら飛来してくるのが見える。
風に乗って颯爽とこちらへ向かってくる様は美しくすらあった。もっとも、その骨格が金属でできておらず、なおかつ開いた口の中から機関銃が覗いていなければの話だが。
二羽の大鷲は機関銃をこれでもかと言うほど撃ち続け、それに呼応するかのようにシャボン玉の罅が大きくなっていく。
ネロのシャボン玉に目をやると、衝撃は全て外壁の部分で吸収されているらしい。
おおかた、内壁と外壁を別の魔法でそれぞれ構成すべきところ、オレのものだけ外壁を適当に構成したというところだろう。
衝撃を吸収、或いは緩和されて到達すべき部分に、直接弾丸を撃ちこまれては耐えられる筈もない。
ミサはホバーボードに乗りつつ、自身を守るように青白い障壁を展開している。
命がかかっている場面で好きな相手を特別扱いした挙句、もう片方は手を抜きましたなど冗談で済まされる問題ではない。
オレたちが11歳という事実を差し引いても、精神が未成熟なんてレベルを超越している。
こうなってしまった以上オレにできることは、
「おい、なんとかしろよ!」
必死に壁を叩きながら他人に全てを投げ打つことくらいである。
口内の機関銃を撃ち尽くしたのか、大鷲は両翼の先端の筒からミサイルのようなものを発射した。
飛来するミサイルを眺めながら、オレは舌打ちをした。
結局、どうすることもできないだろう。
既に大きな亀裂の入ったシャボン玉が、あれに耐えられるとも思えない。
果たして、ミサは本当に手を抜いたのだろうか。
どちらにせよ、シャボン玉は事実として砕ける。
それだけの話だ。
「不味いぞ! カイトをなんとかしろ、ミサ!」
ネロの叫びには、焦りのようなものが見えた気がした。
ネロの言葉に少し遅れて、もう何発目かになるミサイルが直撃した。
攻撃を受け続けたシャボン玉は、ついにガラスの割れるような音とともに砕け散る。
宙に投げ出されたオレは吸い込まれるように大地に引っ張られる。
みるみる小さくなっていく二人を見て、オレは手を伸ばしながら小さく名前を呟くことしかできなかった。
シャボン玉って表現が絶望的にお洒落じゃないと思います