表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゾッ帝 パティシエ修行編  作者: mしぃ
禁断の森の奥
10/19

修正

収集付かないんで禁断の森は終わりますね。

~前回のあらすじ~


 龍が強い。


~修正~


「危ないところでしたわね。お姉様ではなくこの子がですが」


「やはり貴様も目覚めておったか」


 既視感。

 今始めて見た筈の黒い龍を、オレはどこかで見たことがあるような気がする。


 暴君竜の前でフラッシュバックを体験して以降、オレは不思議なズレを感じ続けていた。

 少女は意識を失うことなくオレと邂逅する筈だったし、オレはディーネではなく黒い龍の背に乗ることになる筈だった。

 本来辿るべき世界でなく、元来あるべき世界ではない。

 そんな根拠のない思い込みが、心の中で大きなわだかまりとして残っている。

 乗っ取られたと感じたものこそ、オレが持ち得るべき思考だったのではないだろうか。


 記憶の齟齬。

 知識として持っているだけで記憶ではないのかもしれないが、この世界での動きをオレは二種類持っているような気がする。


 黒い龍が受け止めるべきは少女でなくオレだった。

 龍の名前は――


「フィーネ……」


「あら、どうしてあたくしの名を知っていますの?」


 ……どうして。

 ……わからない。


 頭が痛い。


「お前はフィーネで……そう、神の塔。古代王ウィリアムの復活を阻止するとか、そういう流れだ」


 自分でも何を言っているのか理解ができなくなっていく。

 それでも頭に浮かんだ言葉を次々に吐き出し続ける。


「貴方、一体なんなんですの? その通り……確かにその通りですわ。でもあたくしは貴方にそれを言った覚えはありませんし、そもそも初対面ですわよね」


「それもオーヴの力で知ったのか? オーヴが力を使ったのならば、儂も感知できる筈なんじゃが……」


 違う。

 これは正しい筋書きではない。


「そもそも、神の塔の復活は飽くまであたくしの立てた仮説にしか過ぎません。にも関わらず貴方はそれを知っている。どういうことか、説明してくださいます?」


 言葉が出ない。

 オレは同じような流れを既に一度体験しているのだろうか。


 オレは頭を必死に回転させ、二つの記憶を照合させる。

 一方ではハンターどもを制御する方法などなかったのに対し、この世界ではハンターを制御下におく術があった。

 一方ではやたらと美味いカレーを食ったのに対し、こちらでは川魚やら果実だった。

 一方ではハンター相手に苦戦したのに対し、此処では龍が蹂躙するだけだった。


 思い返せば同一世界にありながらも二つの記憶には様々な差異がある。

 どちらが正しい在り方なのか。

 そんな疑問が頭に浮かんでは露と消えていく。

 延々と続く没交渉。

 無関係の自分が別のどこかにいて、今のオレをあざ笑っているような感覚。


「どうした! ご主人!」


 まるで気付いていけないことに気付いてしまったかのような後悔にも似た罪悪感が、深く心の底に根を張っていくのを感じる。


 世界から排斥される予兆。

 思考が乱れていく。


 自分の手から思考が転がり落ちたような感覚。言い換えれば思考が盗まれたような……それが堪らなく嫌で思考を閉ざしてしまいたくなるが、どうしてもオレの頭脳は考えることを辞めない。

 しまいには頭蓋が砕ける。あまりの頭痛にそんなことを思った。

 自分とバトルだ。頑張って、記憶を完成させよう。諦めなければできる。

 まさか。

 出来る筈がない。


 乱れた思考が奔流となって意識を混濁の海へと引きずり込もうとする。

 誰かが何かをオレに叫んでいる。ディーネか、フィーネか……それともミサかネロか。


 うちの

 オレの

 オレが

 うちの頭の

 オレの頭の


 今回はまず記憶、記憶の整理をつけて、まずつけて、整理つけて、まあ今の記憶っていうか記憶をつけて……だからまず頭の中に答えを持って、その上に矛盾を見つけて、思考して、記憶を上に塗ってこれを……


 自我と記憶が乖離していく感覚が、蕩けるように脳で広がっていく。

 なんと心地よく、なんと恐ろしいことだろう。

 全ての感覚を司る脳が死んでいく快楽に身を任せながら、胸の辺りで何かが暖かくなるのを感じた。

 もはや何も感じない筈なのに。

 その暖かさがほんの少しだけ、オレの思考を今へと押し留めてくれた。


 思考とともに落ち続ける感覚が帰ってきた。

 オレはこれからどこへ行くのだろうか。

 ただ落ち続けて、どこに辿り着くのだろうか。

 どこまでも落ち続ける……まるで悪い夢のようだ。


 やがて落下する感覚すら腐っていく中で、不気味に微笑む男を見た気がした。


 おい、それって……


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ