第09話
「……うん?」
鍛錬を終えてソウのほうを見ると、そこには幻想が広がっていた。
いや、ソウがくるくると踊っていた。
ソウの周りでは、赤青黄色と様々な色の光が点滅しつつ廻っている。
「……へぇ」
自分の剣舞なんかとはとても比べ物にならないような、見ごたえのある舞だ。
と入っても、ソウ自体はくるくると廻っているだけなんだが、容姿や光と合わさって触れがたい何かを感じてしまう。
ゆっくりと、ソウにあわせて廻る光たち。
あの一つ一つが、ソウに憑いた精霊なのだろう。
其々に意識がある所為か、光の一つ一つは規則性のあるものではない。
ただすべてがソウにあわせている為、ひとつの舞のようになっている。
くるくる、くるくると只管廻るその光景に、俺はため息しか出なかった。
「……っ」
「あ」
ソウがこちらに気づいたようだ。
舞が終わり、くるくると廻っていた光はもっと踊りたそうにふらふらとている。
ソウがこちらを向いて不満そうにしている。
「……見ていたなら、言って」
「いや、すまん」
どうやって声を掛ければいいか分からなかったんだ、とは言わないでおく。
結果的に盗み見たような形になってしまった。
ああ、でも、
「いいものを見せてもらったよ」
「……はずかしい」
今の光景のどこに恥ずかしがるところにあったんだか。
あんなの見せられたら俺の剣舞なんて恥ずかしすぎて見せられたものではない。
ん?ソウがこちらをじっと見ている。
見つめ返すとふいと目を逸らし、そのまま自室のほうに戻っていく。
「……もう、寝る」
「そうか、おやすみ」
「……おやすみなさい」
ぱたんと、ソウの部屋の扉が閉じる音が聞こえる。
さて、俺も部屋に戻って寝ますかね。
―――がさ
突然の茂みの動いた音に、俺は警戒しながらいつでも抜刀できるように構えなおす。
が、数秒待っても何か動きがあるわけではない。
気の所為だろうか。
しかし、この森には生き物が居ないのだ。
ソウの話では精霊は居るらしいが、今感じたのは何かが動くような気配。
心当たりがあるのは襲撃、だろうか。
そろそろ来てもおかしくはないと思ってはいたが、どうだ?
まったく動く気配のない相手に、痺れを切らしてゆっくりと茂みに近づいていく。
いつ攻撃が来ても問題がないように警戒しつつ、茂みを掻き分けて中をのぞく。
「これは……お、おい、大丈夫か?」
そこに居たのは先日の部隊の一人らしき、ローブを纏った女だった。
だが、着ている服はあちこち破れ、フードも無くなっている。
くすんだ灰色のをした髪色には見覚えもないから、おそらく防衛を一人でやっていた娘だろう。
服の破れた隙間からは、魔法を食らったであろう痛々しい素肌が覗いている。
確かに先日のソウの魔法で多少破けてはいたものの、これほどボロボロにはなっていなかった筈だ。
あの後に仲間割れでもしたのだろうか。
いや、仮に仲間割れをしていたとしても、見た限りこの子が一番のやり手だ。
残りの奴らは、束になってようやく上位魔法使い一人分って強さだろう。
よほどの事がない限り、この娘があの程度の奴らにやられるって気はしない。
だとすると、
「……罠か」
「……罠を、張るとしても、ここまでしないわよ」
「む、意識があるのか」
「なん、とかね。ぎりぎり、逃げられたし」
浅く呼吸を繰り返して、苦しそうに話している。
動くのもつらいのか、目にかかった髪の毛すら払わず、目線だけをこちらに向けている。
俺は腰に携えた刀を抜いて、彼女の目の前に突きつける。
「ふむ、じゃあ言い残すことは?」
「ま、まって、この状況で、止め刺しに来るの?」
「俺はソウと違ってやさしくはないからな」
「やさしさとか、そんなレベルの話じゃ―――っ、ぐぅっ」
「……大丈夫か?」
あんたの所為でしょう!とばかりに睨まれてしまった。
……見たところ、あちこちの骨も折れているだろう。
罠だとしてもここまで痛めつけるだろうか?
これでは動くこともままならない。
行動に支障をきたすような怪我をしてしまっては、罠を張る意味がない。
捨てるつもりなら戦力の低いほうを出すだろうし。
結論、つまりこれは罠ではない。
ならば……
「……助けてやるから、何があったかと敵の情報を教えてくれ」
「願っても、ないわね。こちらこそ、お願いするわ」
とりあえずは、ソウが寝付いてしまう前に呼びに行かないとな。
毎朝のあの状態を見るに、一度寝付いたら絶対に起きなそうだ。
ソウを呼び戻し、魔法で怪我を治せないかと聞いてみたのだが、ソウは少女の体を見つめると首を振った。
「……だめ」
「む、魔法で治せないのか?」
「私も、試したけど、へんな水を、掛けられてから、魔法が」
「……精霊が、嫌がってる」
「精霊が?」
「……たぶん、その水の所為」
「精霊が嫌がる水、だと?」
そんなものがあったら魔法使いの天敵じゃないか。
要は掛けられた時から風呂にでも入るまで、魔法が使用できなくなるのだ。
ソウほどの力を持って魔法が使えないとなると、並み居る魔法使いは全滅だ。
そんなもの、前時代ですらなかった技術だろう。
精霊が嫌がると言うのなら、過去主流だった法術や魔術も同様に使えなくなる。
そんなものがあるならもっと早く、いや、大崩壊すら起こっていない可能性がある。
とにかく、これは最重要の注意事項だ。
万が一にもソウがその水を掛けられれば、こちらの負けはほぼ確定してしまう。
なんせソウの魔法を除いたら、俺の小手先技しか残ってない。
「……先に、体を清める。トキは」
「あー、自室に居るよ。終わったら―――「待って」ん?」
「先に、話を」
「急ぎか?」
少女は弱弱しく首を縦に振る。
自分の体より優先って事はなにやら重要な話らしい。
「ソウ、先に話を聞こう」
「……ん」
「助かるわ」
浅く息を吐き、ゆっくりと少女は話し始める。
「あいつら、目的のものが手に入らないと見て、この場所ごと壊してしまうつもりよ」
「壊す?」
「そのための準備を、森の奥でしているわ」
「この数日はその準備か」
「破壊するのはやりすぎだと反対したら、へんな水を掛けられて、このざまよ」
「魔法が使えなくて良く逃げ切れたな」
「私は、傭兵だもの。切り札のひとつくらい、持ってるわ」
傭兵ね。
道理であいつらよりも錬度も高く、場慣れしているわけだ。
下位無詠唱ができる上位魔法使い傭兵、と聞くとなにやら聞き覚えがあるが、それはこの際放置で良いだろう。
あいつらが本腰を入れて攻めてくると言う情報は貴重だ。
奪うための攻めと、壊すための攻めでは話が違う。
ただ壊すためだけなら交渉なんてまどろっこしい事はせず、神社に火でもつけてしまえばいいんだ。
それこそ、火矢や大砲でも―――どがんっ―――そう、どかんと。
……どかん?
「……っ」
「あ、ソウっ」
なにやら爆発音がした瞬間、ソウが其の方向に走り出した。
その先には夜の闇を照らすような明々とした……炎。
どうやら、対策する暇もなく、襲撃が始まってしまったようだ。
俺も向かいたいが、この傭兵をどうするか。
下手に置いておいて、火の手が廻って戻ったら手遅れでした、なんていうのは目覚めが悪い。
「ったく、そんなに無いから、あまり使いたくないんだが」
文句を言いつつ、腰に下げた道具袋から、魔法薬を取り出す。
魔法薬は、魔法の効果を閉じ込めた薬、とでも言えばいいのだろうか。
飲む事で、その薬にこめられた魔法によって体力や状態異常が回復する。
基本的には即効性の薬と言う認識でかまわない。
と言うか調薬は専門外なので、それくらいしか俺には分からない。
魔法が使えないのは精霊がいない所為と言うのなら、すでに発動している魔法がこめられた魔法薬なら多少効果はあるだろう。
問題があるとすれば少々高価で、用意してあるのが2つ程度と言う数の少なさである。
渋ってもしょうがない事ではあるんだけどな。
「ほら、こいつを飲め」
「……これは」
「回復したら自分で動ける場所まで逃げてろよ」
説明もそこそこに、傭兵を草むらに隠し、ソウを追いかけるために掛け出す。
「待って、これをっ」
草むらから何かが飛び出す。
慌てて掴めば、それは小さな碁石位の宝石。
だが結構な魔力を感じる。
これが、切り札とやららしい。
「これは……分かった、ありがとう!」
礼を言うのもそこそこに、破壊音のするほうに走り出す。
こうしている間にも、断続的に爆発音が聞こえてきている。
「魔力をこめれば……って、もう、居ないし」
なにやら後ろのほうで嘆いたのが聞こえたが、気にせずに走っていく。
作者 「ハイどうもこんばんわ、毎度おなじみ後書き対談の時間です」
作者 「ハイどうもこんばんわ、毎度おなじみ後書き対談の時間です」
トキ 「ちわーす。本日もどうぞよろしく」
作者 「と言う事でとても短い今回ですが」
トキ 「いやいや、なんか前回長くなるとか言って無かったか?」
作者 「分けるって言ったじゃないですか。自分で書いていてなんですけど、これ何分割されるんですかねぇ」
トキ 「構想は?」
作者 「んー、少なくともこの神社の戦闘回で2回分、でしょうか」
トキ 「あんたの構想は基本倍くらい行くから、4回ってところか」
作者 「ばかなっ」
トキ 「大体今週ぜんぜん進んで無いだろ?」
作者 「ですねぇ、一勤はだめですね。残業が体力を削る削る」
トキ 「毎日午前様とかなぁ」
作者 「そして来週もそんな気配」
トキ 「おい、進むのか?」
作者 「そして私の腰がやばい気配」
トキ 「おい、動けるのか?」
作者 「そして干し肉も悲しい気配」
トキ 「おい、それは本当に食えるのか!?」
作者 「……干し肉だけ過剰に反応しましたね」
トキ 「こちらの干し肉にもかかわるからな」
作者 「でも本当に食えるかは怪しいと言うね」
トキ 「……最悪捨てよう」
作者 「とまあ、冗談はとにかく、この話は書き始めれば早いので、キットすすみます」
トキ 「書き始められればな」
作者 「戦闘を文章化するって難しいのですよ」
トキ 「戦闘の動きは決まっているのか?」
作者 「いくつか分岐であるんですが、あらかたは」
トキ 「分岐?」
作者 「簡単に言うとゲームで言う選択肢と言うか、その結果でトキの損傷具合が変わるような」
トキ 「……一番怪我が無いのを頼む」
作者 「しかしそれは書ききるまで分からないと言う」
トキ 「おい!?」
作者 「書きながらノベルゲーを読んでいるようなイメージなのですよ」
トキ 「書きながら読むってまた器用な……」
作者 「書き物をしている作者ってそんな感じなんじゃないかなと想うのですよ。……え、ちがうの?」
トキ 「いや、知らんけど」
作者 「あくまで私のやり方なので他のヒトがどうだろうと気にはしませんけど」
トキ 「……いいけど」
作者 「そして、ふだんなら下手したらすでに書き終えている文章量で未だに本文の事なにも話して居ないのですが」
トキ 「おいぃ!?」
作者 「まあ、いつもの事なんでいいのですが、本題入りましょうか」
トキ 「……自覚あるなら治せよ」
作者 「さて、今回はトキ視点に戻り、ソウの踊りを見ましたね」
トキ 「あれは幻想そのものだな。ソウさえやってくれるならまた見てみたいもんだ」
作者 「精霊は楽しい事が好きなので、ソウの様に魔力があるヒトの周りには度々ああして現れます」
トキ 「うん?あれはソウの操っていた精霊と言うわけではないのか?」
作者 「もちろん、普段ソウに手を貸している精霊も居ますが、今回見たのは規模が違います」
トキ 「ああ、そうだな、結構な数いたし」
作者 「基本的に精霊にソウが好かれている故ですけどね」
トキ 「つまり、俺には無理と」
作者 「……んーそうでもないと言うか」
トキ 「出来るのか?」
作者 「さて?」
トキ 「出来ないんじゃないかー」
作者 「……さて、その後になりますが、傭兵さんが合流いたしました」
トキ 「すでに戦闘不能っぽいけどな」
作者 「でも貴重な情報をくれたじゃないですか」
トキ 「そうだよ!何だあの水」
作者 「そんな水がそうそうあるわけ無いので限りあるわけではありますが」
トキ 「どういったものなんだよ」
作者 「作中で出ていた通り、精霊が嫌がるにおいを出しているので、かぶると近くに精霊が居なくなって魔法が使えない」
トキ 「憑き精霊も居なくなるのか?」
作者 「そちらは正確に言えば体内に引っ込んで出てこなくなります。なので無理やり引っ張り出せれば魔法は使えますね」
トキ 「無理やり引っ張り出せる物なのか?」
作者 「精霊の事を認識していて、無理やり力を借りる事の出来るほどの同調、そして魔力があればなんとか」
トキ 「……ソウ?」
作者 「ソウでも数発中位魔法が撃てればいいほうなんじゃないですか?」
トキ 「どちらにせよ掛けられたら負けか」
作者 「普通にやればまけますね」
トキ 「ふん、で、あの傭兵」
作者 「ああ、そういえば意味深な事考えていましたね心当たりがどうとか」
トキ 「傭兵で無詠唱が使える割と美人な女に、心当たりがあっただけだ」
作者 「まんまあの娘じゃ無いですか」
トキ 「いや、違うんだけど、いやな予感もするんだよな」
作者 「まあ、そうでしょうね」
トキ 「……やっぱり、あいつと関係があるんだな?」
作者 「簡単に言うと弟子ですね」
トキ 「気づけ!本編の俺!」
作者 「まあ、無理ですね。ここでの記憶はロックとかで無く、ここに置いて行くので完全に切り取られてるので」
トキ 「コピーペーストにしないか?」
作者 「あくまで切り取りです」
トキ 「ぬあー!?」
作者 「まあそんな先のねたを話してもしょうがないので簡単に傭兵さんの紹介、は今はいいか」
トキ 「やらんの?」
作者 「正式に本編で絡みだしたわけではないので、もう少ししたら本編で自己紹介でも入るでしょうし、そのときに」
トキ 「ふうん、じゃあ傭兵の渡したのって?」
作者 「んー、それは使うときのお楽しみにして起きましょう。トキがあの時点で気づいているかって言うのもありますし」
トキ 「なんか今回後回しばかりだな」
作者 「本当はもっと長くなって後書きで書ききれないーってなる予定だったんですけど」
トキ 「こんなに短く切るとなぁ。あとは魔法薬についてか?」
作者 「魔法薬は、特殊な製法により、魔法と同じような効果を再現した薬になります」
トキ 「ん?まて、それだと効果は魔法によるものではないのか?」
作者 「んー、”魔法”と言うくくりは主に精霊によって起こされる神秘なのですが、色々な素材を使用し、精霊の力を借りずして魔法と同じ効果を発揮させる。所謂科学の範囲に近いですね」
トキ 「ずっと魔法を特殊な液体に溶かし込んだものだと想ってたんだけど?」
作者 「まあ作るに魔力を使ったりもしますし、間違っちゃいませんね」
トキ 「あー、何が違うんだ?」
作者 「要は精霊の補助無くしても発動できる魔法。でも素材などが高価なものが多いため、とても高くつきます」
トキ 「じゃああの場面で魔法薬を渡したのは正解って訳だ」
作者 「見返りもいただきましたし、まあ正解と言っても良いんじゃないですか?」
トキ 「ただ、金銭面にダメージを受けたがな」
作者 「後は残りひとつしかないって言うのもお忘れなく」
トキ 「ふん、攻撃を食らわなければ良いだけだ」
作者 「ちなみに、調薬系の知識はトキもソウもありません」
トキ 「俺は作中でも言ってたが、ソウにもないのか?」
作者 「大体の魔法は無詠唱で行けるソウに、媒介使った魔法が必要だと想います?」
トキ 「まあ確かに」
作者 「つまり、無くなればおしまいですね」
トキ 「……まだ他のがあるぞ?」
作者 「でも限りもある」
トキ 「まあ、そうだな」
作者 「そう言えばトキはソウほどやさしくないんでしたっけ」
トキ 「む?そうだな。やさしいわけ無いな」
作者 「その割には魔法薬を恵んでやると言う、つんでれですか?」
トキ 「ちげーよ。あんなところで後で見たら焼死体とか目覚めが悪すぎるだろ」
作者 「はいはい」
トキ 「違うからな?なんか分かって無い返事だけど」
作者 「さて、ではそろそろ次回の話ですね」
トキ 「流すなよ!?違うからな!」
作者 「次回はがっつり戦闘回になります」
トキ 「……はぁ、魔法もがっつり出てくるが」
作者 「無詠唱はひとつ二つですし、ここでの紹介もそんなに大変じゃないです」
トキ 「……いやな予感しかしない言葉なんだが」
作者 「想像にお任せします。が、問題はその戦闘が何回分続くかですね」
トキ 「一回にまとめろよ」
作者 「きりいい感じのところですでに3000字くらいですね。ぜんぜん戦闘序盤なのでまだ倍は伸びます」
トキ 「今週書ければな」
作者 「書きますよ。いい加減」
トキ 「期待はしないでやってくれ」
作者 「なんか引っかかりますが、まあ良いです。と、今回はこの辺で」
トキ 「ずいぶん長かった気がする」
作者 「事実、どっちが本編だか分からないレベルに長いです」
トキ 「おいぃ!?」
作者 「いやー、こうゆう対談って止めどき分からなくなりますよね。気がつけばいくらでも書けるので」
トキ 「そういう小説でも書けば良いんじゃないか?」
作者 「それは読みづらそうです」
トキ 「確かに」
作者 「では、次回も、終わる事の無い夢の中でお会いしましょう」
トキ 「お疲れ様でしたー」
作者 「実際考えて書いた事もあるのよ」
トキ 「どうだったんだ?」
作者 「私の文章力の無さが露呈しただけでした」
トキ 「……想像はついていたな」