第06話
そういえば、この神社に祀られているものって結局なんなのだろうか。
丸石の禿げた地面を直しつつ、これまで何度か考えたことを再度考える。
あれほどの人数を向かわせるというのだ。
それほど重要な何かがここにあると考えていいだろう。
今の時代、価値の高いものといえば、思い浮かぶのは前時代の遺物だろうか。
だが、価値が高いといっても、ここまでしなくとも手に入るものばかりだ。
お金を積むにしろ、物品交換にしろ、手に入れる方法はいくつもあるのだ。
信頼という、町を経営するのに代えがたいものを犠牲にしてまで、手に入れるものではない事は確かだ。
もしくは、それほどの価値のある前時代の遺物があるとでもいうのだろうか。
いや、それはほとんど考えられないだろう。
この神社周りに生えている木は、ほぼ100年は経っていないであろう若いものばかりだ。
神社自体も新しさの残るつくりのように見える。
少なくとも建造されて100年は経っていないだろう。
人の出入りもないこんな場所では、遺物が入ってくることはほぼありえないと思われる。
では、前時代の遺物でないというのならなんだろう。
価値のあるもので、次に思い浮かぶといえばマジックアイテムの類だろうか。
しかしこちらも、ほとんどの効果のものがお金で取引され、物品で交換されている。
考えられるとすれば、何らかの偶然によりできた無二の効果を発揮するもの。
確かに価値は高いが、ここまでしてまで手に入れるような事だろうか。
となると本当になんだろう。
こうして答えの出ない問いに頭を悩ませつつ、ぼんやりと神社内を掃除していると、ソウが訝しげに近づいてきた。
「……どうしたの?」
「ああ、いや」
この際、聞いてしまえばいいのかもしれない。
そう思い、予てよりの疑問を投げかけてみる。
「この神社に祀られているものってなんなのかなと思ってさ」
「……”なにもない”」
「それがいまいちよくわからないんだ」
そう、ソウに聞いても何もない。の一点張りだ。
ただ、ソウの言う”何もない”というのが、”何もない”という”何か”があるように聞こえるんだ。
「”何もない”何があるんだ?」
「……”なにもない”があるの」
「……むぅ」
やはり、よくわからない。
「……気になるなら、見てみる?」
「いいのか?」
「……盗ったりしないでしょう?」
「しないけど」
盗んだり、壊したりには興味がない。
純粋に見てみたいという気持ちがあるだけだ。
しかし、
「そんなに簡単に見せてもいいものなのか?」
「……トキなら、別に」
「俺なら?」
「ご飯作ってくれるし」
「……」
「……どうしたの?」
いや、信頼してくれるのはありがたいんだけど、ご飯効果かー。
おいしいご飯作ってくれるなら、誰にでもほいほいついて行きそうな娘だ。
「いや、見せてくれるなら見てみたいな。お願いしてもいいか?」
「……ん。でもひとつだけ」
「何だ?」
「……その刀は、置いてって」
「これ?」
「……ん、それ、魔法を斬ってた」
「何のことだ?ああいう魔法は衝撃を与えれば」
「……斬ってたでしょう?」
「……わかったよ」
確かに、この刀は特別製だ。
魔力を通せば”魔法を斬れる”。
ただそれだけのマジックアイテムだ。
確かにユニークアイテムではあるものの、使いどころはあまりない。
対上位魔法使い戦なんかでは意表もつけるし、重宝する……だろう。
上位魔法なんて使えるなら町の衛兵にでもなったほうが早いし、そんな奴らと対人戦なんかやる理由もなく、使われることはないのだ。
村を出る時に魔法鍛錬師見習いの妹分から選別と言って渡された物なので、愛着はあるけどな。
だが、よくあんな一瞬でよくそんなこと見抜けるものだ。
精霊でも視えないとそんなこと……極位魔法使えるようだし、視えるのか?
魔術や法術の時代には、それぞれの属性の精霊が現象を起こしていたという。
魔法の時代になってからは実際にどうなっているか確かめた人は……いるかもしれないが聞いたことはない。
「精霊が視えるのか?」
「……ん、視える」
「ふうん、実際に視える奴がいるもんなんだな」
「……たぶん、トキも練習すれば、視える」
魔法が使えない俺には無理だろうよ。
と、ぼやきつつ刀を腰止めから外し、縁側に置く。
「これでいい?」
「……ん、こっち」
いつの間にか箒を置いたソウが先導してくれる。
ゆっくりとしたその歩調にあわせ、俺もその後ろに続いた。
「……これは、確かに”なにもない”な」
「……ん」
本殿の地下、一見隔離されたようにぽつんとある障子張りの扉を開けると、そこは木張りの一室。
そこには家具などの装飾品は一切存在せず、一見ただの空き部屋だ。
しかし確かにその部屋の中央に”なにもない”と言う”なにか”がある。
特にその場に象徴的な何かがあるわけでもなく、魔力が固まっているような空間の歪みでもない。
そこには本当に何もないのだ。
―――でも、わかる。
この場所には、その位置には”なにか”がある。
俺は、思わず息を呑んでソウに問うた。
「ここに、精霊はいるのか?」
「……いない。この部屋には”なにもない”」
精霊でもない、魔力でもない、見えない何か。
一体それは何だと言うのだろうか。
「……だからこそ、これが、この場所がこの神社の祀りもの」
「これを見せられたら確かに、納得なんだけど」
こんなもの見せられたら、よくある教会の十字架や神様の像なんてただのオブジェだ。
何が何でも手に入れたいと思ってしまう人がいるのも、わずかながら納得してしまう。
「でも、こんなものどうやって奪おうって言うんだか」
「……わからない、けど」
「そもそも触れるのか?これ」
「……だめ」
「いや、触らないけど」
「……触ると侵食される」
え、こっちが危ないの?
侵食って……危険物だったのかこれ。
少し腰が引けていると、ソウが帯に挟んでいたのか長めの棒を取り出した。
すっ、とその場所に突き出すと、その先端が……黒く歪み、そして棒全てが消失する。
「本当に危険物だし」
「……人が触るとどうなるかはわからないけど」
「いいよ、ろくなもんじゃないだろうし」
と言うかあいつらほっとけば勝手に触って消えるんじゃ?
そう伝えると、ソウはこちらを攻めるような瞳で見てくる。
「……なくなると、困る」
「あー、わるい。確かに、少し考え無しだった」
「……ん」
しかし、これならば確かにあの刀はもって来ないほうがよかったな。
もしかしたら、これを斬れるかも知れない。
なんてったって偶然の産物だし。
魔法が斬れるって言うのも、やったら出来るってだけでその効果で確定しているわけではない。
もしかしたらこんな訳のわからない”なにか”も斬ることができるのかもしれない。
万が一に越したことはないだろう。
「もういいよ、ありがとうな」
「……ん、じゃあ片付けの続き」
「へーい」
いくらやっても終わる気がしないんですけどーと、文句を言いつつ、ソウと共にその場を後にする。
ソウが扉を閉める瞬間、”なにもないなにか”が胎動するように歪んだ様な、そんな気がした。
そんなことがあった次の日の昼すぎ。
昨日のことで荒れた境内もほぼ片付け終わり、今はいつも通りの掃き掃除中だ。
それもソウが腕を組んで満足げなので、もうすぐ終わるようだ。
後は神社の建物内なのだが、そちらは今までソウが一人でやっている。
「今日はこれでおわり?」
「……ん」
それじゃあ今日はこれからどうしようか。
また罠作りでもして奴らに備えるか、それとも刀でも研ぐか。
「……どこいくの?」
「うん?やることがないから、どこかに行こうかと」
「……中の掃除」
「手伝ってもいいの?」
「……ん」
今まではいくら手伝うって言っても手伝わせてくれなかったんだが……。
まあ、祭られているものも見ちゃったし、別に良いってことかね。
「じゃあやりますか」
「……ん」
建物の中に入ると、やたら広い木張りの広間が広がっている。
申し訳程度に女神像のようなものが置いてあるが……あれは何の神なんだか。
教会に置かれたものも女神像だが、これは明らかに別人だ。
昨日見たときにソウに聞いたけど分からないって言ってたし、まったくもって不思議な像である。
「……じゃ、そっち側」
「はいよー」
中は箒で掃けないので、主に雑巾での拭き掃除らしい。
手の届かないところをはたいて、細かいところを丁寧に拭いていく。
ソウのほうはきれいな布で女神像を拭いているようだ。
……ふむ。
「その像、ソウに似てないか?」
「……?こんなにきれいじゃない」
まあ確かに、像のほうはきれい過ぎて不思議な感じだけど。
それでもソウも負けずに、人形のようなきれいさと言うかかわいさと言うか。
いや、そう言う意味ではなく、雰囲気と言うか、なんか……ううん?
並んでると似ているような気がしたんだが、そうでもないのか?
うーん、わからん。
もしかしたら先祖とかそんな感じなのか?
よく見ると体のパーツも結構違うし、空似程度か。
「……よくは知らないけれど、すごい昔の神様、らしい」
「らしいって?」
「……昨日、本を読み返してたら、そんなことが書いてあった」
「その本は?」
「……納屋にあるから、後で貸す」
確かに興味はある。
寝る前にでも読んでみようか。
昔読んだことのある教典のような感じなのだろうか。
「……物語みたいな感じ」
「へぇ、ちなみにタイトルは?」
「……『はじまりがたり』」
聞いたことのないタイトルだ。
これでも魔法を教えてくれた人のところで、結構読み漁っていたんだけど、聞いたことすらないとは。
今のご時勢、本なんて高級品がそんなに出回っているとは思えないんだけど。
「……ここの納屋に、いっぱい本がある」
「大崩壊前の産物っぽいな。後で見せてもらってもいいか?」
「……ん」
本は好きなんだが、今は紙がとても高級品だ。
多少安くはなってきてはいるものの、それでも本が出回るほどではない。
そのため、図書館や人の家の図書室を読み漁ったりが趣味なのだ。
本を見せてもらう約束もしたし、良し!やる気が出てきた!
うおー、と気合を入れて掃除を再開する。
「……うるさい」
「ハイ」
……怒られてしまった。
作者 「ハイどうも皆さんこんばんわ。毎度おなじみ後書き対談になります」
トキ 「ちわーす」
作者 「一日いつもより遅いですが、まあ気にしないでください」
トキ 「どうしても一勤の週は平日にまったく進まないしな」
作者 「しかも今週は土曜もあると言う嫌がらせ具合でして」
トキ 「日曜だけじゃ書き終わらなかったと」
作者 「申し訳ないです」
トキ 「まあ来週は二話ぐらい上げるんだろうしな」
作者 「……え?」
トキ 「な?」(にっこり
作者 「いちおうがんばります」(汗
トキ 「さて、じゃあ今回のお話について話そうか」
作者 「うう、今回は”なにもない”のお話」
トキ 「結局あれは何なんだ?」
作者 「”なにもない”ですよ?」
トキ 「いや、そう言うことではなく」
作者 「うーんなんと言うか変質したナニカって感じかなぁ」
トキ 「ナニカ?」
作者 「次のお話で少しだけ明らかになるんですよ」
トキ 「どうせあんたのことだ。ほんとになんとなく分かるだけなんだろう?」
作者 「……」(目そらし
トキ 「おい」
作者 「それはネタばれになりますので禁則事項です」
トキ 「……いいけど」
作者 「ナニカについては次回出てくるものがほぼ正しいと思われますので、と言うことだけ言って置きます」
トキ 「……どうせプロット変更しなければって言う意味のない言葉出しな」
作者 「ぐぅ」
トキ 「ぐぅの音をだすな」
作者 「無茶を言いますね」
トキ 「そんなに難しいことかそれ?」
作者 「あなたが最初の村でずっととどまっているくらいには」
トキ 「……また読者のわからなそうな例えを」
作者 「あとは、何でしょう。ソウとトキが少しだけ近づいたんですかね?」
トキ 「近づいた……のか?」
作者 「ちょっとソウが心を許したのか」
トキ 「もしくは餌付けレベルが上がったか」
作者 「餌付けですね」
トキ 「餌付けだな」
作者 「今回はそんな感じですかね」
トキ 「毎度ながら内容の薄い」
作者 「……さて、次回のお話ですが」
トキ 「なんかいつもこんなかんじだな」
作者 「読書会」
トキ 「……話は進まないのな」
作者 「ある意味では進むのですよ」
トキ 「ある意味って言うと?」
作者 「少し物語の確信に触れています」
トキ 「さっき言ったナニカの件か」
作者 「そんな感じですね」
トキ 「それを言ったら今回も少し触れているんじゃないのか?」
作者 「まあここ数話は、そういった重要なようなそうでもないようなお話続きです」
トキ 「どっちなんだ」
作者 「あると重要でもなくても良いような?」
トキ 「あんたそんな曖昧な言葉遣い好きだよな」
作者 「後から撤回できるので」
トキ 「言葉に責任待てよ!?」
作者 「責任怖いのですよ」
トキ 「……この昇進しなそうな考えである」
作者 「一生現場!」
トキ 「……だめだこりゃ」
作者 「さて、本題に戻りますが」
トキ 「相変わらずの唐突さ」
作者 「七話かそこら書いているのに筆ののりと言うか指ののりが悪いのですよ」
トキ 「そりゃそうだろ」
作者 「……?」
トキ 「こうやって雑に書いているならまだしも、昔はがっつり時間とって数百万字くらいは書いてただろう?」
作者 「まあ、そうですね」
トキ 「今書いてるのは精々一日1・2時間で合計5万字ってところだ」
作者 「……そうですね」
トキ 「で、ブランクが大学最後の年合わせて4年ってところか」
作者 「後半年くらいがんばってから言います。すいません」
トキ 「せめてこの話を書き終えてから言うんだったな」
作者 「いつになることやら」
トキ 「ちなみに一章はあとどれくらいだ?」
作者 「うーん、次とその次くらいが今みたいな話の続きで、そこから……大体全部で10話くらいで一章になると思われます」
トキ 「あと4週くらいねぇ」
作者 「終わらなかったらそのときはそのときで」
トキ 「予定では章ごとに話数増えていくんだろう?」
作者 「ほんとうにいつ終わることやら」
トキ 「まあこの後書き対談のほうが長いときもあるしな」
作者 「ちなみに、この対談は目安1000字くらいです
トキ 「で、実際は?」
作者 「たぶん毎回2000字くらいは行ってるんじゃないかと」(汗
トキ 「そのうち怒られるぞ」(呆れ
作者 「なんと言うか、対談あってのわたしというか」
トキ 「……直す気はないと?」
作者 「微妙なところです」
トキ 「……ハイ次いこうかー」
作者 「つぎはー、もうないですね」
トキ 「あ、終わりか」
作者 「もうすでに関係ないこと沢山しゃべった気がします」
トキ 「後書き(本編」
作者 「たしかに、そんな話を書いたこともありますけど」
トキ 「……あるのか」
作者 「ではそろそろ、終わりにしましょう」
トキ 「そうするか」
作者 「では、次回も終わることのない夢の中でお会いしましょう」
トキ 「しましょう」
作者 「いい加減、ちょっとがんばって書こうかなぁ」
トキ 「お、ようやく?」
作者 「設定資料を」
トキ 「……知ってたよ」