第05話
もしもこの壊れた世界に、勝ち組と負け組と言う明確な格差が存在するとしたら、少なくとも自分は勝ち組に入るだろう。
少なくとも私は、今までそう思って生きてきたし、実際恵まれてもいたとも思う。
孤児ではあったが、良い師匠に拾われ、友人に恵まれた。
女だてらにそこそこ名の知れた傭兵になり、高給取りと言えるお金を稼いでいる。
下位無詠唱が使える魔法の腕前、そこそこ整った顔、割とお金持ち。
そんな三拍子そろって順調な傭兵生活を送っていたと思う。
今回受けた依頼も、手間の割りに報酬が高く、 さっさと終わらせて帰れるものだと思っていた。
……それが、どうしてこうなっているのだろうか。
「―――おのれあのガキ共!」
「お願いですから、落ち着いてください」
「これが落ち着いていられるか!」
依頼はとある部隊の護衛。
何でも特殊任務とかで、森の奥の建物にある何かをとりに行くらしく。
その道中の護衛だった。
多少、その建物に着くまで時間はかかったものの、無事にその建物を見つけることが出来た。
そこまでは順調だったのだ。
急にその部隊の隊長が声を張り上げるまでは。
呆気にとられているうちにあれよあれよと戦闘になり、隊長のみ気絶させられると言う無様な結果に。
「大体、あれは何ですか?あの物言いじゃ、誰でも怒りますよ」
「ふん、アルベルト卿がそうすると決めたのだ。ならばそれが通るべきであろう!」
「いや、仮にそうだったとしても言い方ってものが」
「大体、傭兵風情が口を出すな!」
そうだとばかりに睨み付けてくる部隊の馬鹿共。
そればかりか、隊長がやられたのは私のせいだとばかりに怒鳴ってくる奴らもいる。
そんなことを言うならば、ノータイム上位魔法をあんたらで対処しろと。
「傭兵を護衛に雇うこと自体、俺は反対だったのだ!」
「そうですよ!いくら名のある傭兵だからと!」
ぎゃーぎゃーと騒がれ、ため息を吐く。
ああ、この依頼は大はずれだ。
いや、真っ先にあの町を離れることが出来る、という意味ではあたりかもしれない。
……この依頼を無事終えることが出来るというならばだが。
「とにかく!体制を整えなおし、再度あの場の制圧に入る!」
「「「おぅ!」」」
「……はぁ」
何がとにかくなんだか、結局制圧とか言っているし。
隊長が道中に仕掛けられた罠に引っかかりまくって、進行が3日ほど遅れたのはまた別のお話。
罠があると言っているのに、率先して引っかかっていくこの隊長はどうすればいいのでしょうね。
***
次の襲撃は、朝ごはんの最中の出来事だった。
突然、ソウが箸をおいて無言で居間から飛び出して行った。
あわてて追いかけて行けば、顔を真っ赤に腫らしたこの間の隊長。
……もしかして、仕掛けてあった罠の樹液に被れでもしたのだろうか?
「もう一度聞こう!祀られているものを差し出す気はあるか!?」
「……ない」
声も心なしか嗄れているし、悲惨な目にあったことが窺い知れる。
自分で仕掛けて何だが、あれ全部一人で引っかかったんじゃないだろうか。
「ならば是非も無し!無理やりにでもいただいていく!」
「……来るなら容赦はしない」
おっと、観察をしていたら後方に控えている三人が詠唱に入っている。
残りは一人が防衛、二人で前衛ってところか。
ちなみに隊長は前衛だ。
「ソウ、前衛は任せ―――「……ウインド・クラスター・バレット」ああ、はい、こちらであわせるよ」
「くっ、やはり早いか!」
ソウの放った風の散弾は相手の前衛を足止めし、後衛側は打ち消される。
どうやら防衛に廻った一人は、下位の無詠唱が使えるらしい。
分散されて威力の弱まった風の散弾を、後衛にあたる部分だけきれいに打ち消している。
その間に後衛の詠唱が完成する。
「「「清らかなる水よ、その力を持ちいて我に仇なす者を撃て―――ウォーター・ショット!」」」
「揃いも揃って、水遊びかよ!」
水弾は威力こそ弱いが、相手を濡らしたり体を冷やしたりなど副次的な効果がある。
弱いって言っても、まともに当たれば骨ぐらいもって行かれるが。
要はちょっと威力の強い水鉄砲みたいなものだ。
ソウを狙ったその水弾を、横から短刀で全部叩き切る。
切られた水弾は、その場で推進力がなくなり、ただの水となって地面に落ちていった。
上位ならとにかく、中位程度の魔法であれば、一度何かに触れれば分散するものがほとんどだ。
基本的に敵に当てることだけの魔法なので、弾として構成している魔力が少ないのだ。
「ウインド・バースト・ストリーム」
「くぅっ!?レジスト!」
自分に攻撃が来ないとわかったソウは、攻撃魔法をガンガン放っていく。
ただ、相手の防衛役がとても優秀だ。
全部を打ち消そうとせずに、きれいに相手に当たるものだけ打ち消している。
それがわかったからかソウも、守る面積が多くなる爆風系の魔法で攻めたのだろう。
前衛は見事に足止めされ、後衛は防御に手一杯。
偶に飛んでくる弾は俺が打ち落とすと。
……魔力が尽きるまで千日手だな。
このままでも負けることはないと思うけど、狙うとしたらあの防衛の奴か。
俺は地面に敷き詰められた玉砂利を拾い、思い切り投擲した。
「……ウインド・バースト・ストリーム」
「レジス―――きゃんっ!?」
「おお、あたった」
「なっ、ぐああ!?」
ちょうど打ち消そうとしたところに当り、ソウの放った爆風が敵を一掃していく。
少なくとも前衛はまともに爆風を浴び、後衛は各自で防いだようだ。
上位魔法がまともにぶち当たってしまっては、この一撃で勝負はついただろう。
煙が晴れる前に相手方に近づいて、倒れた敵の懐をまさぐる。
んー、携帯食料はないか。
変わりに財布らしきものを徴収ー。
じゃあ次、と、これはあの防衛役か。
懐をまさぐりまさぐり……。
と、油断しているところに平手打ちが頬を撃った。
「きゃあっ!!」
「げ、まだ意識が「ブラストォ!!」くぅっ」
風圧でソウのほうへ飛ばされてしまった。
同時にその風で爆風も晴れてしまう。
立ち上がると、ソウがじと目でこちらを見てくる。
「……なに、やってるの」
「あーいや、ちょっと」
どうやらあの防衛役は女性だったようだ。
あの服装、だぼっとしてて性別がわかりづらいんだよ。
種族を詳しくわからせないためなのか、フードもついてるし。
ひりひりとする頬をなでつつ立ち上がり、文句を言う。
相手方を見れば、前衛は全滅、後衛もだいぶ消耗したようで、肩で息をしている。
全員、フードは剥がれ、いろいろな色や形の髪と耳。角が生えているのもいる。
今のご時勢、人族と魔族のハーフはまったく珍しくなく、いろいろな特徴を持った人がいる。
魔族はもともと、獣のような耳やいろいろな色の肌、体毛、角など、多種多様な特徴を持っている。
特に角を持つものは魔力が多く、魔力適正が高く、身体能力が高いんだが……今はそれはいいか。
その特徴はハーフにも受け継がれ、身体能力や魔力特性などの特徴として現れている。
そのため盗賊など、人を相手にするときはローブでその特徴を隠す。
火に弱いとか毒に弱いとか、身体的特徴でわかってしまうのだ。
俺やソウはほぼ人族の見た目だったため、体を隠す必要性はないが、相手は違う。
倒れている角もち赤髪の隊長や、獣人らしき赤髪のもう一人の前衛、後衛はみんな濃さが違うものの青色の髪を持っている。
防衛役の娘は……あ、ローブをかぶりなおしてる。
「くっ、皆さん引きましょう!」
「……あ」
相手の前衛もほぼ動けていなかったため、近くにいる後衛組にすぐに回収され、撤退して行く。
こちらは止める気ゼロのソウと、後ろに飛ばされている俺。
止めるにしても間に合わない。
嫌がらせにと、すでに森の中に入っていった相手方に向けて、もう一度玉砂利を思いっきり投げつける。
「きゃん!?」
「おお、また当たった」
しかもまたあの防衛役っぽい。
あの娘の運がないのか、俺の投擲技術がすごいのか。
ま、あの集団にいる時点で運が悪いんだろうな。
あれだけの技術を持って、かわいそうに。
ふと、ソウがこちらを見ているのに気づいた。
「……いいの?」
「なにが?」
「……捕まえなくて」
……ソウが動いてくれれば、それも出来た気もするんだけど。
と言っても仕方ない。
ソウには俺のために無理をする義理もない。
「いいよ。どうせまたくるし」
「……またくるの?」
「これであきらめるとは思えないだろ?」
「……今までは、多くてもこれで諦めて、もう来なかった」
まあ一人でたまたま見つけた程度の奴には、リスクとリターンの差が激しいからな。
ああいう目的持った奴はたぶん違う。
十中八九、さらに対策してくることだろう。
「じゃあ、情報更新だ。あいつらは、また来る」
「……わかった」
……素直なのはいいんだけど、こんな簡単に信じても良いのかねぇ。
忠告入れるたびに不安になる娘である。
「とりあえず、ご飯食べようか」
「……ん、その後、掃除」
「掃除……げー」
辺りを見回せば凄惨たる状況である。
爆風で玉砂利がはげた場所があるわ、玉砂利が積まれたところはあるわ。
……これ、片すのか。
おのれ、恨むぞあいつら。
こうして、小競り合いにも満たない二度目の神社襲撃は、神社側の圧倒的な勝利にて、無事決着がついた。
作者 「ハイどうもみなさんこんにちわ」
トキ 「後書き対談の時間だ」
作者 「本気で平日進まないと実感してきている作者でございます」
トキ 「いい方法があるぞ?」
作者 「詳しく」
トキ 「寝ずに、書け」
作者 「それが出来れば苦労はあんまりしないですよ!」
トキ 「苦労はするのか」
作者 「まあ、本文考えながら書いてるので」
トキ 「苦労ならやらなけりゃ良いのに」
作者 「書いてるのは楽しいからいいのですよ。問題は体力が落ちていることですかね」
トキ 「仕事帰りにボーリング27レーンやるような体力で何を言っている」
作者 「あれはその後の土日ずっと故障していたので」
トキ 「と言うか体力仕事だろう?お前の仕事」
作者 「だから帰ってくると体力が尽きているのですよ」
トキ 「後は気力だな」
作者 「そうなります」
トキ 「……もともと週三くらい出来るとか言ってたのに」
作者 「言うは易し!」
トキ 「まあ、知ってたけど」
作者 「と言うか余裕あれば他の物語を書こうとか思ってるのに、これを進めるので手一杯すぎる」
トキ 「そんな気はしてた」
作者 「だから偶に道楽誌をあげてごまかす!」
トキ 「誤魔化されないよ!?」
作者 「……いい加減本題はいりましょうか」
トキ 「……きりないもんな」
作者 「さて、今回は……苦労人と2度目の戦闘のお話」
トキ 「戦闘雑ぅ」
作者 「要は上位魔法使えるなら当てた者勝ちなところがありますから」
トキ 「確かにそうだけど」
作者 「そして地味にトキがいい仕事」
トキ 「ほとんど動いてないけど。おれ」
作者 「動かないわセクハラするわ最低ですね」
トキ 「あれは服装とよく確認しなかった俺が悪い」
作者 「あ、一応自分の非は認めるんだ」
トキ 「悪いとは思ってるさ。敵である以上謝る気はないけど」
作者 「結局胸はどれくらいあったんです?」
トキ 「なかなか揉み応えが……はっ」
作者 「(によによ」
トキ 「そ、そういえばあの隊長の財布だが」
作者 「おお、そういえば」
トキ 「盗ったことも忘れてかばんの中に」
作者 「おいぃ!?」
トキ 「存在を今思い出した奴に突っ込まれたくないんだが?」
作者 「それゆえ次話でそのことにまったく触れていません」
トキ 「……これだ」
作者 「あははは」
トキ 「あとは、魔法についてか?」
作者 「今回出てきたのは《ウインド・クラスター・バレット》《ウォーター・ショット》《ウインド・バースト・ストリーム》《レジスト》《ブラスト》の5種かな」
トキ 「初の詠唱が出てきたな」
作者 「中級のね。この作品、詠唱するのは敵だけと言う不思議満載加減なので」
トキ 「使えるだけましだ」
作者 「ちなみに、ソウは割りと簡単に無詠唱していますが、上位魔法の詠唱はもっともっと長いです」
トキ 「いっそ今回出た全部の詠唱載せたらどうだ?」
作者 「めんどいです」
トキ 「まずは《ウインド・クラスター・バレット》」
作者 「あれ?聞いてない?えーと、『風を統べし元素の回廊、其の調べを繰りうる言の葉を持ちいて此処に命ず、数他の風弾を前方に放ち、其の悉くを蹂躙せよ』」
トキ 「長!次、《ウインド・バースト・ストリーム》」
作者 「『風炎を統べし元素の回廊、其の理を縛り、言の葉を持ちいて此処に命ず、数多の命を散らす爆風、其の前方余す事無く燃やし尽くせ』」
トキ 「物騒ー。次が《レジスト》」
作者 「『吾身を脅かすは異端の理、此処に正しき道を成せ』」
トキ 「んー、《ブラスト》」
作者 「『力強き原初の風、其の前方に吹き荒れよ』」
トキ 「やっぱり上位と下位だと結構長さが違うんだな」
作者 「一人でいるとき上位魔法なんて唱えてたらすきだらけですよ」
トキ 「下位の魔法でも実践じゃあ十分役に立つし、無詠唱はおぼえて置くべきってことか」
作者 「まあ前衛がいるなら多少時間かかっても上位を詠唱すべきですけど」
トキ 「ちなみに、ブラストとウインドバーストストリーム、威力の差は?」
作者 「通常速度の軽車の衝突と、最高速度の電車の衝突くらいの差ですね」
トキ 「……よくあいつら生きてるな」
作者 「傭兵さんの再レジストが間に合っていたのですよ」
トキ 「優秀だなおい」
作者 「とっさ過ぎて止まる15秒前くらいの電車の衝突位の力にしか出来てませんが」
トキ 「行きてるか?」
作者 「おそらく」
トキ 「つまり、接近戦なんかでは無詠唱下位で、集団戦では無理しても上位がいいわけだ」
作者 「其のとおりです。対して、極位までいくともはや天候なんかまで操ってオーバーキルになります」
トキ 「ソウを怒らせないようにしよう」
作者 「と、そんなもんですかね?」
トキ 「あー、そうだな」
作者 「では、次回も終わらない夢の中でお会いしましょう」
トキ 「お会いしましょう」
作者 「あ、魔法の英語の意味が違うとかは勘弁してください。その辺はニュアンスでやっています」
トキ 「最後にいろいろ台無しにしていくなおまえ!?」