表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
壊れた世界の旅人語り  作者: 夜天夜空
第2章――グランドピークでの顛末
38/42

第37話

***




じっとりと肌に張り付くような湿った雨の振る中、トキ達と分かれた私は、ウメお婆さんを連れて町を歩く。


とは言っても目的地のお店は遠いわけでもなく、5分も歩かずお婆さんのお店についてしまった。



「へえ、もう結構荷物をまとめてあるのね」


「もぉう商品も、あぁと少しだからね」



ウメお婆さんの店は露店方式。


生活と調合スペースとして小さな荷馬車を持ってはいたが、それも本当に最小限のスペースを使用していた。


中を覗いて見れば、その中の荷物もこじんまりと幾つかの袋にまとめられているようで、荷馬車内部は伽藍とした雰囲気を出していた。



「あれ、そうすると調合する物なんてあるの?」


「あぁあ、香ぅ味料は鮮度が大事だからねぇ。売ぅりだす数ぅ日前に調合するのさ」


「へえ、香りが違ったりするの?」


「もぉちろんさ、こぉいう原料は磨り潰す瞬間が一ぃ番薫り高いんだよ」


「へえ」



私が香味料に詳しくない事もあり、いまいち分からないが、そう言うものらしい。


アルケミスト的な知識なら多少心得があるが、料理となると最低限の事しか知らないから新鮮だ。


ああ、でも最近はトキが偶に使用していたっけ。



ウメお婆さんは荷物をごそごそと漁り、幾つかの小瓶を自らの腰に付けた大きな小袋に詰め替えている。


大きな小袋は中に入れたものの重量をそのまま反映するから、あまり荷物を持ち歩かないようにしているのだろう。


ましてや調合器具なんて重量物、老人の腰にはつらいのだろうし。



「私が持って行きましょうか?」


「いぃや、こぉれは大事な商売道具だからねぇ。自ぃ分で持っていくよ」」


「そう?」


「おぉんしも、そぉの剣を私に預けようと思わないだろう?」



そう言いながら、目線を私の剣に向けてくるウメお婆さん。


なるほど、私もこの剣(商売道具)をそうそう預けようとは思わない。と納得する。


それが気の置けないような相手だったりするなら尚更だ。


……つまり、私はあまり信頼されていないらしい。



なにやら面白くない、と窓の外に目を向ける。


先ほどまではじっとりとした小雨だった空は、少しずつ雨足を早め、今では結構な本降りとなっていた。


多分この雨はどんどん強くなっていくだろう。


外の露店などは殆どが片付けを終え、店じまいや荷馬車の中に場所を移している。


道行く人も疎らで、この雨が止むまでは、恐らくこの様な閑散とした風景が常となるのだろうと思う。



「……?」



いや、何かがおかしい……嫌な予感がする。


急な雨、少なくなる人影、この二つは天候の問題だからまあ、良い。


だがこの荷馬車の()()()()()()()の気配は何だ?


雨宿り、にしてはこの荷馬車に3人は多い気がする。


それも、わざわざ窓から見えない位置、荷馬車の周りを囲みこむように。



「お婆さん、一応聞くけど、この馬車って隠れる場所とか抜け口とか在ったりしない?」


「……丁ぉ度あんたが立っている辺りの床が外ぅれるよ」


「在るの!?」


「むぅかし、あぁの人が面白半分にぃ、だぁよ」



驚いて自分のすぐ下を調べると、僅かに引っかかる場所が在る。


そこを力任せに引き上げると、そこには地面が見えている。



「なぁにか、非ぃ常事態かい?」


「ええ、ちょっとキナ臭いのが、ね。先にお婆さんが下りて」


「あ、あぁ」



ウメお婆さんをなるべく急がせ、自分もその中へ入り込みつつ蓋を閉じる。


なにやら聞きたそうにしているウメお婆さんに静かにするように指示を出し、私は小声で魔法を構成する。



「根源たる力、虚たる真実、其の身は何にも思惟されず―――ステルス(認識)・ウォーカー《阻害》」



これはソウが先日使っていた魔法なんだけど、これって予想以上に魔力をゴリゴリ削っていくわ。


私の魔力だと、持って5分と言ったところかしらね。


しかも慣れていないからか、私のこの魔法はソウ程精度が高くないし。



じっとタイミングを見計らって、耳を澄ませる。


上の方で何かが壊れたような音がした瞬間、ウメお婆さんを抱えて荷馬車の下から走り抜ける。



「―――いないぞ!?」


「一体どこに!?」


「くそ!確かに此処に――」



どうやら嫌な予感は的中したようだ。


昔から私の嫌な予感と言うのは当たりすぎて困る。


が、それが今まで私の命を救ってきたのだからなんとも言えない。



私は、荷馬車を襲った奴らに見つからないように、こそこそと町中を駆け抜けた。










「――こらこら、聞いてないわよこんなの」


「見ぃ事に逃げ道を塞がれておるな」



漸くたどり着いたと思った宿の部屋周辺には少なく見積もって4人、一方向だけの情報だから、恐らくもっといることだろう。


中には入れれば安全ではあるが、これは中に入り込む事自体が不可能だろう。


幸い追手は撒いた為、もう暫くは見つかる事はないと思う。


だが、私だけならまだしも、ウメお婆さんを連れて逃げ回るのにはちょっと無理がある。


と言うか、既にウメお婆さんを抱えていた腕がプルプル震えている。もうお婆さんを抱えるのは勘弁したいところね。



「さて、どうしようかしらね。向こうの返事もないし」



念話結晶でトキ達に語りかけるも、何やらごたごたしているのか返事がない。



しかも、そうこうしているうちにも雨足が強まり、いよいよ老人を外で立ち往生させるわけにもいかないほどとなっている。


この分だと恐らくこの周辺の宿も押さえられているし、どこか安全なところは……。



「……?うっとおしい虫ね」


「なぁんか見たことがあるような虫ぃじゃな」



思考が袋小路に入り込んだところで、なにやら黒い虫が目の前をちらちらと飛び回る。


手で追い払うが、軽やかにその手をかわして逆に私の額にぶつかって来る黒い虫。



「痛っ……本当にうっとおしいなぁ。って、え、何?」



路地の先へ飛んではクルクルと回り、こちらに戻ってくる。


まるでこちらに来い。とでも言うかのように目の前をふらふら飛び回る黒い虫。



「……罠、じゃないわよね」


「罠ぁだったら、こぉんなまどろっこしい事はしないじゃろ」


「……それもそうね」



罠がないか、敵に見つからないか、辺りを警戒しつつ、ゆっくりとその虫の後をつけていく。


幾つかの路地を抜けた辺りで、その虫が敵の事を避けて案内していることが分かる。


宿に戻るまで、何度もそれらしい人を見かけたのに、今回はまったく見かけないのだ。


どうやらこの虫、もしくはそれを操っている人物は、敵の動きを把握しているようだ。



そして、暫く進んだ先に在ったのは『エリアル・シード』と書かれた看板のある一台の荷馬車だ。


その扉には『開店中』と書かれた札も掛かっている。



「なぁんと、『エぇリアル・シード』か」


「知っているの?」


「こぉの町では爪弾きになっていたと思うが、腕ぇは確かな魔法鍛錬師(アルケミスト)の女の子さ」


「爪弾き?」


「ワぁシは分野が違うからなんとも言えんが、なぁんでも腕が良すぎるとか」



腕が良すぎるから爪弾き、とはまた、どこも変わらないものだ。と、ため息をつく。


しかし、問題は何故そんな店に私達を呼び寄せるのか。


……まさか、敵の本拠地、なんて事はないわよね…?



一応中の様子を探って見るも、荷馬車の中の様子はまったく分からない。


と言うか不気味な程に物音がしない。


どういうことだろうか、と扉に耳を当てている私の姿は周りから見ると不審者にしか見えないらしく、ウメお婆さんが辺りをきょろきょろと見回している。


しようがない、とホンの少し扉から離れたところで、



「まどろっこしいな!いいから早く入ってきなさい!」


「ふぎゃ!?」


「……あ」



突然勢いよく開かれた扉に、思い切り顔を打ち付けられてしまった。









「いたたたた」


「いやー、ごめんごめん。なかなか入ってこないからつい」


「つい…ってそんな衝動的に打ちつけられたの!?」


「まあ、どうせトキのパーティだし、いいかなーって」


「……おのれトキ、後で覚えていなさい…」



どうやらトキとソウの友人らしいエルと言う女の人。


整えられた綺麗な緑の長髪に、魔法鍛錬師(アルケミスト)らしい魔法衣をぴっちりと着込んでいるその姿はやり手の商人そのモノだ。


トキはとにかく、ソウにこんな友人がいたとは驚きである。



「それで、何かややこしい事になっているようだけど?」


「そうね。って言っても私は殆ど把握していないのだけど」


「それでも、ウメ婆を此処で預かれば、貴女の行動選択肢は増えるよね?」


「……ありがたいけど、此処は、安全なの?」


「少なくともあの宿の中よりは安全だよ」



さらっと言ってくれるが、あの宿の結界は私とソウで作った相当強い結界だ。


それより安全と言うこの場所は、一体どんな結界が張られているのか。



「まぁて、どぉうしてそこまで、ワぁシの事を助けぇてくれるのじゃ?」


「うん?別に私はウメ婆の事をどうこう思ってはいないよ」


「じゃぁが、ワぁシら商人がおんしの事を」


「はっはっは、むしろ爪弾きにされている中、普通に商品を売ってくれるから感謝しているくらいさ」



そうエルが笑うと、ウメお婆さんは言葉を失ったように黙ってしまった。



「私にはその爪弾きとかはいまいち分からないけれど……信用して良いのね?」


「……あぁあ、こぉの娘は信用しても大ぃ丈夫」


「なら、お婆さんは貴女に任せる。…私は単独で事を探るわ」



少なくとも、ウメお婆さんが信用しているのなら置いて行っても問題はないだろう。


お婆さんがいないのであれば、一人で色々と探れるだろう。


とりあえずは……トキ達の向かった『Maka Star』を探って見るとしよう。



「ああ、ちなみに、トキとソウは相手さんに捕まったよ」


「……はあ、なんとなく想定はしていたけどね」



まったく連絡がつかないと言う事は、つまりは何かしらのアクシデントで念話結晶に触れられないと言うこと。


荷物を置き忘れた、程度なら良かったが、気絶させられていたり荷物を奪われたりしていれば連絡が出来ない。


まあ、前者は殆どありえないだろうし、高確率で何かあったと言う事は分かっていた。



私が出口の方に歩き出すと、エルが慌てたように私を呼び止める。



「おっと、これを持っていきな。ある程度のナビゲートをしてあげるよ」


「ナビゲート?」



投げ渡されたのは念話結晶のような結晶がついたイヤリング。


だが、こんなに小さな念話結晶は見たこともない。



「付ければ、一つの念話結晶宛だけだが、通常の念話結晶と同じような念話が出来るよ」


「……聞いた事のない魔法具ね」


「名前は『指示結晶(オペレート・アイ)』、私作よ。気に入ったら後で買ってね?」


「……考えて置くわ」



つまり、このエルと言う人は発明家と言うものらしい。


恐らく爪弾き、と言うのもそれが過ぎたのが原因と言った所だろう。



私は渡されたイヤリングを耳に付ける。


これは確かに気にならないし使いやすい。



「『はーい、テステス。聞こえるー?』」


「……ええ、聞こえるわ」



と言うか声が被って気持ち悪い。


そんな心情を知ってか知らずかエルは満足そうだ。



「私は使い魔で町の様子を把握できるからね。オペレートするよ」


「ああ、あの黒い虫はそれね」


「完璧に町全体を把握できるわけじゃないから、それは勘弁してほしい」


「いや、ある程度把握できるなら十分よ」



とりあえず敵の位置が把握できるだけでも上出来だ。


町の中だけでもそれを気にせず走り抜けられれば、大幅な時間短縮となる。



とりあえず急ぐに越した事はない、と。私は出口の扉を勢いよく開いた。






作者 「ハイどうも皆さんこんばんわ。あとがき対談のお時間です」

ユエ 「今回もどうかよろしく」

作者 「さてさて、ということで今回はユエ視点のお話となります」

ユエ 「……やっぱり、こっちも襲われているのね」

作者 「トキと時同じくして、ユエ達もガッツリ襲われています」

ユエ 「結局、このタイミングで襲われる予定だったのね」

作者 「まあ、トキの側では待っていた、とか言っていましたが、既にガッツリ手は回っています」

ユエ 「つまり私はどうあがいても逃げられ無いのね」

作者 「そんな簡単に逃げられると思わないことです」

ユエ 「……メインになると不幸になるから嫌なんだけど」

作者 「でも今回は外部ユニットが憑きましたよ?」

ユエ 「エル、だっけ?漸く出会えたわね」

作者 「でも実はエルの事を詳しく聞いていないユエさんです」

ユエ 「一応、変わった店、と言うかすごい店がある、って事しか聞いていないわ」

作者 「あそこでもう少し詳しく聞いていればよかったのですよ」

ユエ 「とは言っても、それを聞いたのはホワイトポート。グランドピークにも同じ店があるなんてどうして思えるのよ」

作者 「確かに、でもそのおかげで恐らく一番安全な場所でもあります」

ユエ 「そもそも場所が違うからねぇ」

作者 「しかも本人は相手陣営に存在を悟られない最高のポジショニング」

ユエ 「……何それうらやましい」

作者 「いや、ユエは既に悟られているから今のポジションに結局意味はないんですけど」

ユエ 「初めから蚊帳の外なら良かったのに…」

作者 「そうなるとユエさんわりかし早死にしそうな気もします」

ユエ 「ありえるから言わないで!?」

作者 「まあ、今回、ユエの逃げ足が発揮された回、とも言えますね」

ユエ 「中途半端に名が売れてくるときは逃げ足は重要なのよ」

作者 「でも次回は単独で攻めに入ると?」

ユエ 「やられっぱなしなんて嘗められるじゃない?」

作者 「倍返しだ!って奴ですかね」

ユエ 「…間違ってはいないわ。目には目を、歯には歯を、やられたらやり返す、ってね」

作者 「怖いですねぇ」

ユエ 「先にちょっかいを出してこなければ良いのよ」

作者 「ある意味では今回先にちょっかいを出したのはこちらな気も」

ユエ 「知らないわ」

作者 「……」

ユエ 「さて、今回はあまり解説する事もないんじゃない?」

作者 「そうですねぇ。指示結晶(オペレート・アイ)について位ですか?」

ユエ 「ああ、そんなのも在ったわね」

作者 「エル作の単一念話結晶宛の念話装飾魔法具で、イヤリングとして耳に付ける事で指示を出す人がいれば、高精度の作戦行動を取ることが出来ます」

ユエ 「一見すごく使えるように見えるけど?」

作者 「ただ、全体を見て指示を出すことの出来る人が早々いないため、店でほこりを被っていました」

ユエ 「……まあ、確かにその通りね」

作者 「新王暦の時に出来ていればなかなか高く売れたことでしょう」

ユエ 「……時代を間違えたのね」

作者 「さて、そんな感じで、次回予告です!」

ユエ 「って言ってもこの話の区切り型からして、私視点の続きからでしょう?」

作者 「どうやってユエを不幸に使用か考え中?」

ユエ 「止めなさい」

作者 「まあ、3割嘘は置いておいて、反激開始となります」

ユエ 「本気の割合が高い!?」

作者 「そしてトキとソウはどうなったのか?ちょっと語られる事となります」

ユエ 「私の視点が恐らく短くなりそうだからね?」

作者 「…そしてゆえが不幸に」

ユエ 「だから止めなさい」

作者 「さて、今回もこんな感じに、次回も終わらない夢の中でお会いしましょう!」

ユエ 「…また唐突な終わりを」

作者 「あはは、実は熱出しながら本編書いてまして」

ユエ 「おとなしく寝なさい!?」

作者 「今大分シンド――」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ