第36話
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窓から見える空は、今にも泣き出しそうな程に分厚く、暗い。
それはまるで、今話をしているウメ婆の心境を表しているのではないかとも思えてしまう。
俺は窓辺から目を移し、部屋の中央で座りこんでいる三人へと振り返った。
ユエとソウは、真剣な顔をしてウメ婆の話に耳を傾け、逆にウメ婆は、先日の営業スマイル程上手く笑えていない笑顔で淡々と話している。
俺達が起床するよりも早く起床したと言うウメ婆は、わざわざ俺達の起床ごろに合わせるように朝食を作っていてくれた。
事情を大体察していたようで、お礼を聞くと共に事情を尋ねると、特に渋るでもなくゆっくりと話し始めた。
俺は、実は軽い話ではないかと、長く続いた反抗期ならいいなと、若干楽観的に話を聞いていた。
先日の情報収集で聞いた、ウメ婆の元を離れたと言うのも、親に対する反抗期的な物ではないか、とか簡単なものならいいなと、考えていたのだ。
聞いているうちに事はそんなに簡単ではないと言うことに気づいた。
確かにウメ婆の元を離れた時は15歳位だったと言うから、年代的にも多少なりとも反抗期的なものはあったのだろう。
しかし、ウメ婆の話では再び出会った息子の様子は、まるで知らないものでも見るかのようだったと言う。
顔も、声も、仕草も、昔と殆ど変わらなかったと言うのに、その雰囲気はまるで違うものになってしまっている、と。
「そぉれでも、はぁじめは反抗期か、なぁんて思って話しかけたんだけどね」
「手痛く追い返されたと」
「まぁったく、一ぃ体どうしたと言うのか」
元気のなさそうな笑顔をするウメ婆。
まだぎりぎり笑顔を保ってはいるが、かなり参っているようだ。
「だぁから、ひぃとつあんたらに依頼したい」
「ふむ、聞こうか」
まあ、聞く体勢を取った所で、ウメ婆が何を言うかは大体予想がついている。
ユエもソウもそれが分かっているのか、こちらに目線を送ってくる。
それもそれぞれほぼ真逆の雰囲気だ。
ソウはまあ、当然だ。みたいな感じだが、ユエは…何だその目線は、その止めろよ?みたいな眼は。
「あぁの子、いぃや、…メルトリスに、なにが起こったのか、解き明かして欲しい」
わざわざ綺麗な言語に直して、真っ直ぐと、何故か俺の目を見て、頭を下げたウメ婆。
ちなみに、メルトリスとは息子さんの名前であり、フルネームはメルトリス・バージャンスと言うらしい。
「……解き明かす、それだけ?」
「そぉれ以上は、ワぁシの仕事だぁよ」
少しだけ、笑みを深くしたウメ婆は、そんな事を言いつつ、ソウの頭を撫でた。
この人は……いや、伊達に歳だけ取っているわけでもないようだ。
「分かった、その”頼み事”、俺達が解決しよう」
「そうね。”頼み事”、受けましょう」
「……ん」
ユエもソウも、俺の言葉の意味を理解したようで、深く頷いている。
「なぁらば、報ぉ酬の」
「さぁて、じゃあ早速、行動を開始するとしますか」
「まぁて、まぁだ報酬の話が」
「まあまあ、お婆さんはそんな事を気にせず、ゆっくりしておいて。この部屋はソウが結界を張ってあるから、危険はないわ」
そう、この部屋はウメ婆が運び込まれた時点でソウが結界を張っており、任意の人物以外は入り込む事が出来なくなっている。
まあ、その基点を部屋の中に置いているので、中の人がそれをどうにかしなければ、と言う話になるが。
「だぁが、報ぉ酬」
「……ん、無しでいいから」
「そうそう、気にしなくていいよ」
「あくまで”頼み事”だからね」
「おぉんしら……」
ウメ婆は納得していないようだが、俺はあんたを気に入ってしまったのだ。
気に入った人からの”頼み事”だ。報酬なんて受け取れるはずもない。
しかも、今回の報酬は別の処から出てくるしな。
口をあんぐりと開けて、唖然としているウメ婆に俺は笑顔を向けて言い放つ。
「まあ、大船に乗った気で待っていてよ。きっと朗報を届けるから」
「あ、部屋の隅にある結界の基点だけは壊さないでね?結界が解けちゃうから」
「……一応、簡単に壊せないようにはなっているけど」
俺達の顔を見て、さらにボー然とするウメ婆。
しかし、すぐに気を取り直したようで、こんな事を言った。
「……わぁかった。ワぁシはゆっくり、いぃや、一ぃ度店に戻らせておくれ、調ぅ合しながら待っているから」
「んー、じゃあユエ、送り迎えよろしく。俺はちょっと『Maka Star』に行ってるから」
「わかったわ。後でまた合流しましょ」
「ソウはこっちな」
「……ん」
多分、ただ待たせるよりは、何か作業でもしていたほうが気も紛れるだろう。
そう思い、ユエにウメ婆の護衛だけ頼んで俺はソウと共に宿を出る。
……後から考えれば、この時の俺は、油断していたのだろう。
何か合っても、最悪自分だけで対応できると。
香味料屋『Maka Star』。
ぱらぱらと雨が降り出す中、先日に引き続き訪れた店は、昨日と特に何か変わるわけでもなく、強烈な香りが店内を漂っていた。
昨日と違うのは、店員が店内におらず、カウンターがもぬけの殻になっていることだ。
……無用心なことで。
「誰かいないかー?」
「はーい」
奥の方に声を掛ければ、ゆっくりと一人の男がカウンターに出てきた。
明るい金髪を逆立てて整えられているが、それに相反して表情は重く、全体の雰囲気の暗さを引き立てている。
ウメ婆の話から教えて貰った容姿に一致するため、恐らくこの男が。
「あんたが、メルトリス?」
「…ふむ、そう言う君は、トキ君だね?昨日店員に様子を聞いてから、来るだろうと思って待っていたよ」
「うん?何か待たれるような事をしたっけ」
そう返しつつ、手を刀に置いて軽く身構える。
メルトリスは、大げさに手を広げておどけたように言う。
「僕も俄かには信じがたいのだがね?君は今のうちに何とかしないといけないようだ」
「…どういうことだ?」
「アルベルトの件のみだったら偶然で片付けたのだが、この広い町で、この局所的な件に関って来るとは、あの話は本当だったらしい」
「…何を言っている。分かるように話せ」
しかも、アルベルト?……あのホワイトポートの一件だろうか。
あの男とメルトリスに何か繋がりでも在ったのだろうか?
「……トキ、あの男」
「…”やれ”」
「っ、ソウ、構えろ!」
メルトリスの一言で棚の影から現れたのは、4人の傭兵。
見事に四方を固められて逃げ場はない。
瞬時に距離をつめてくる右の傭兵の剣を、抜き打ちの刀で払い、その勢いで後ろになった傭兵のダガーを打ち落とす。
そのまま何とか体を逸らして初めの傭兵に体当たりをかまし、体勢を整えたところにダガーが肩を掠める。
俺が声をあげる前に、向かいから悲鳴が聞こえてきた。
「……あうっ」
「ソウっ!?」
どうやらこちらに来なかった二人はソウの方に向かっていたようで、そちらを向けば見事に押さえつけられたソウの姿。
しかも魔法封印具を掛けられている。
魔法封印具は魔法使いの天敵であり、昨日俺がソウに掛けたのがそれだ。
魔法の発動を押さえつける効果を持ち、手錠などの枷として掛けなくてはならないが、大半の魔法を封じ込められる。
何とかしてその枷を外さない限り、魔法が使えるようになる事はない。つまり、恐らくソウはもう抜け出せない。
それを見たメルトリスは、口元をにやりと歪ませて勝ち誇ったように言う。
「抵抗するならこの娘を殺す」
「…ちっ」
俺はゆっくりと武器を収め、両手を上げる。
……こうなってしまってはどうしようもない。
俺の戦意が無くなったと見ると、後ろにいる傭兵が俺を殴りつけてくる。
「ぐうっ!?」
「結構痛かったぜ!お前の体当たりよ!」
「ダガーを払われたのもな!」
「ぐあっ!?」
傭兵二人掛りで袋叩きにされる俺。
……覚えて置けよ、絶対やり返してやる。
「何だその眼は!」
「がっ!?」
「……トキっ!?」
床に転がった俺の頭に、綺麗に傭兵のキックが入る。
もう、それがどちらの傭兵だかもわからない。
薄れ行く意識の中に、本格的に降り始めた雨が屋根を叩く音と、涙を流したソウの顔が映る。
ああ、また、ソウにあんな顔をさせてしまった。
意識が戻ったら……謝らないとな……。
……意識が、戻ったら……。
作者 「ハイ皆さんこんばんわ。あとがき対談のお時間です」
ユエ 「こんにちわの人もこんばんわー」
作者 「祝、トキまたも死亡!?と言う事で本日の相方はユエとなっております」
ユエ 「またあっさりと逝ったわね。と言うか展開早すぎじゃない?」
作者 「と、蚊帳の外のユエさんは供述しており」
ユエ 「こらこら、私が黒幕みたいな言い方は止めなさい!」
作者 「実際のところどうです?なんと言うか蚊帳の外に置かれまくっていますが」
ユエ 「まあ、戦力的に別行動させるのに丁度いいからってのは分かるんだけど」
作者 「メイン張ると今回のトキみたいに」
ユエ 「蚊帳の外っていいわね!」
作者 「まあ、蚊帳の外でも一章では酷い目に合っていましたが」
ユエ 「酷い目に会うのがデフォルトみたいに言わないで!?」
作者 「いやー、やっぱり打てば響きますね。どちらも」
ユエ 「……なんか、あなた嫌がらせに磨きが掛かってきてない?」
作者 「失敬な」
ユエ 「そうよね。さすがに失礼だったかも」
作者 「ユエに対する扱いのコツを掴んだだけです」
ユエ 「失礼だと思った私が間抜けだったわね!?」
作者 「さてさて、本日のお話解説に行きましょうか」
ユエ 「…その強引な話の切り替えは変わってないわね」
作者 「と言うかユエさんトキが死んだのにやっぱりテンション軽いですね」
ユエ 「え?だって死んでいないのでしょう?貴方のそのテンションなら」
作者 「…だから作者のテンションで話し推測するのやめましょうよぅ」
ユエ 「で、実際の処は?」
作者 「まあ、現時点では生きていますね。たぶん」
ユエ 「何で不確定?」
作者 「気分によっては本当にお亡くなりになるやも」
ユエ 「気分で左右されるトキの命ェ」
作者 「さて、今回の初登場キャラ、メルトリスの事についてでも話しましょうか」
ユエ 「金髪の逆立った髪って、あんまり飲食業な人の髪型じゃないわよね?」
作者 「いや、針ネズミ見たいのではなく、ガイルヘアをイメージしていただくと分かりやすいかもですね」
ユエ 「……あの髪型って再現可能なの?」
作者 「髪質が逆立っていて、綺麗に切りそろえられていれば恐らく?」
ユエ 「やっぱり本物みたいに常に髪に気を配ってるのかしら」
作者 「かも知れませんね」
ユエ 「しかし、見た目はとにかく、急展開で急にいろんな気になるワードが出てきたわね」
作者 「ほほう、たとえば何です?」
ユエ 「アルベルトとの関係性、とか」
作者 「さてさて、しかしこれを切り抜けた後、三人はある意味有名人となります」
ユエ 「……え、私も?」
作者 「え?さすがにトキ達がいなくなって放置とかしませんよね?」
ユエ 「……ま、まっさかー」
作者 「ですよねー」
ユエ 「やばいと感じたら逃げるに決まってるじゃない!」
作者 「思ったより下衆かった!?」
ユエ 「当たりまえよ。私は傭兵なんだから。手の引き時は弁えているわ」
作者 「……そうすると、次回ちょっと厳しいかもしれませんねー」
ユエ 「と言うか、私がなんとかできることなら動くけど、どうしようもないでしょう」
作者 「うーん、まあ、確かに」
ユエ 「私の事が相手に伝わっているなら別だけど」
作者 「あ、伝わってはいますよ?」
ユエ 「うえ!?」
作者 「そりゃアルベルトの件が伝わっているんですもん、伝わっていますよ」
ユエ 「……逃げる算段を建てて置かないと」
作者 「あはは、逃げられるとお思いで?」
ユエ 「あーあー、聞こえない!さあ次は次回予告よ!ハリーはリー!」
作者 「奴隷として売られることが決定したトキとソウ、果たして二人は逃げ出すことが出来るのか!?
そしてメルトリスの変わったわけとは一体!?次回!報復のトキ!お楽しみに!」
ユエ 「タイトルで大体何が起こるのか分かるじゃない」
作者 「もしかしたら抱腹になるかもしれません」
ユエ 「トキのおなかにいったい何が!?」
作者 「と言う事で、次回も終わらない夢の中でお会いしましょう!」
ユエ 「唐突過ぎる後書きの終わり!?」
作者 「いや、コーヒーのみ過ぎて気持ち悪くなってきたので」
ユエ 「はぁ?一体どれくらい飲んだのよ」
作者 「1L越した位ですかね?」
ユエ 「…飲みすぎぃ」
作者 「おかげで毎週月曜日は体調不良と言う」
ユエ 「少し自重しなさいよ!?」
作者 「自重すると途中で寝ちゃうんですよ!」
ユエ 「……あ、ハイ…って、何で私が怒られてるのよ…」




