第33話
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朝から気持ちの良い風が南から吹いてくる、暖かい春の日。
窓から差し込む、ぽかぽかとした陽気な日差しに眼を覚まして見れば、既にトキとユエは起きており朝食の準備が済んでいた。
……と言うか既に二人は食べ終わっていた。
そして、気づけば手に持っているご飯を食べ終わりかけている自分がいる。
恐らく寝ぼけているうちに、その殆どを食べきってしまったのだろう。
わたしは残った一欠片をぱくりと一口で平らげ、指についてしまった香味料をぺろりとなめとった。
惜しむらくは、このご飯をしっかりと味わえなかったことか。
「―――と言うわけだから、今日もソウの装備を探しつつ、その香味料屋を見てみようと思うんだ」
「ま、良いんじゃないの。どうせ当てなんてないんだし」
「……何の話?」
「何の話って……」
「なんだ、漸く起きたのか、ソウ」
ユエが呆れたような眼で見てくるが、トキは何でもないかのように、おはようと挨拶をしてくれる。
わたしが寝ぼけて食事をするのはよくある事なので、トキはあまり気にしないようにしているようだ。
ユエもトキの柔軟さを見習って欲しいもの。とか自分勝手な事を思いつつも、二人におはようと挨拶を返す。
「言っておくけど、ソウは普段が普段だから、寝ぼけてる時と見分けがつかなかっただけで」
「あー、はいはい。とりあえずソウ、さっきのは今日の行き先について話してたんだ」
「ちょっと!私が言い訳してるみたいに話を切らないでよ!?」
「……ユエ、うるさい」
「私が悪いの!?」
私が悪いんじゃないもん……とか言いつつ、床に指で何かを書きだすユエ。
……雰囲気からして何かの呪いの言々か何かだろうか?
と、そんな事を考えている間にトキが説明をしてくれる。
どうやら昨日の夜、トキは”ばー”なるところで情報を仕入れてきたらしい。
何でも気になる香味料屋があるとかで、今日は昨日に続き、わたしの装備を探しつつ、その香味料屋に行って見ようと言う話だ。
トキは指をおりつつ、ソウの装備の残りは…とか説明してくれているが、そんな事よりもわたしには気になる事がある。
「……”ばー”って、なに?」
「自分の装備よりそっちが気になるのか」
ソウらしいや、と苦笑しつつもトキは丁寧に説明してくれた。
何でも、落ち着いてお酒を飲むところで、皆でわいわいお酒を飲む酒場とは違うところらしい。
もっとも、わたしは酒場自体が行った事がなく、いまいち把握しづらかったわけだが。
「……行ってみたい。その、”ばー”だけじゃなくて、酒場にも」
「ま、そのうち行く事にはなる」
そう言ってわたしの頭をクシャリと撫でるトキ。
ごまかされている気はするが、そうやって撫でられると別にいいか、と思ってしまう。
「そんなわけだから、片付けたら向かうよ。ほら、ユエも何時までもいじけてないで」
「別にいじけてないわよ。準備してただけ」
言葉の通り、何時の間にやら自分の装備を広げて一つ一つ点検をしていた。
……ユエは落ち込む事はよくあるが、立ち直りが早いのだ。
そう言う意味では、切り替えが早いって言うことなのかもしれない。
道中、トキの値切りに対する根源を垣間見つつもわたしの装備を探したが、結局見つからないまま香味料の店にたどり着いてしまった。
そこは他のお店とはまったく違う、見た目からしてその歪さが良く分かるお店だった。
この場所に来るまで見た、お店、と言うとほぼ全てが露店方式、または荷馬車の中で商売をしている移動屋台と言われる形式だ。
そのため比較的屋根は低く、他の店とのスペースは開き気味だったのだが、この店は違う。
背の高い棚を使用して壁を作り、その上に厚手の布を被せてスペースいっぱいのお店を作り出している。
その厚手の布も、このお店用に作ったのか、所々に窓のような透明な部分があり、中に灯りを取り込んでいた。
これなら、中に入っても普通に建物に入るのと同じような感覚になることだろう。
わたしがそのお店形式に感心していると、トキが難しい顔をして目の前で立ち止まってしまった。
「……トキ?」
「うん?」
「……何か、考え事?」
そう聞くと、しまった、と言ったような顔をして、何でもないよ、と笑い掛けてくる。
トキは偶に、ちょっとでも真面目な時には感情を表に出さないようにしているらしい。
本人がそう言っていた訳ではないけれど、何か考え事をしているトキに話かけると、大体困ったような自己嫌悪のような感情が視える。
それが具体的にどういう意味なのかと尋ねた時に、トキはこんな事を言っていた。
『俺もまだまだだ、ってことかな』
それ以上は答えてくれなかったから、わたしにはトキがどんな感情を持って自己嫌悪していたのか、はっきりとは分からない。
ただ、それを聞いた以降は、トキがそんな感情を出したら、考えすぎるなと背中を押すようにしていた。
今回もそうして後ろから押して、香味料屋の中に入り込んだ。
途端、咽返るような香味料の香りに頭がクラリと揺れる。
「うーん、なんか鼻がやられそうね。ここ」
「香味料の店だからなぁ」
店内を見回せば、意図的に風が外に出ないような、そんな風に風の道が出来ている。
香味料と言うのは、こんなにも空気を篭らせて売る場所なのだろうか?
こんな篭ったような店なら、わたしは昨日見た外に直接広げた香味料屋のほうが好きだ。
と、首をかしげていると、ユエが近づいてきて。
「ソウ、そっちの棚を見に行きましょ?」
「……?…うん」
なにやらユエに連れられてトキから離れる。
すると、店員らしき男がトキに話掛けているのが見えた。
トキは露骨に面倒くさそうな顔をするが、店員は引いてくれそうにない。
なるほど、ユエはああなるのが嫌だったから、わたしをダシにあの場を離れたのか。
感心しつつも、わたしもトキのように話し掛けられないように少し離れて棚を見る。
安っぽい瓶に入った物から色ガラスの凝った意匠の瓶に入った物まで、中身よりも外見が気になってしまうものが多い。
だが、外見で気になって開けて見ても、いまいち美味しそうに感じられないのだ。
もちろん、料理には色々な香味料を欠け合わせて味を出すのだから、これもどうにかすれば美味しくなるのだろう。
ただ、わたしには、これをどう使っても、いつもトキが作ってくれるような美味しい料理になる気はしなかった。
わたしが首をかしげていると、カウンター奥の方でなにやら悲鳴が聞こえてきた。
どこかで、聞いた事のある声だ。
そして、その悲鳴を聞いたトキの眼つきが変わる。
「二人とも、出るぞ」
「ええ、分かったわ」
「……ん」
待ってましたとばかりに、わたしとユエはトキの後について店を出る。
こういった厄介事を見ると、トキは考えるより先に行動するのだ。
と言うか、わたしが用心棒だと忘れているんじゃないかと言うくらい、わたしを置いて飛び出して行く。
グランドピークにつく道中でも、そうだ。
ユエが危ない、自分で止めると前に出る。
わたしが危ない、自分が受けると回りこむ。
キャンプに魔獣が、自分が囮になると敵に突っ込む。
いくら言っても前に出るので、今では何かあったらすぐにトキについていけるように、身構える事を覚えてしまった。
それはユエも同じようで、仕方ないなぁ、と言う顔をしつつ、しっかりとトキの後について行っている。
しかし、トキの足取りは遅く、なかなか向かっている先の相手に追いつこうとしない。
「……追いつかないの?」
「あーうん、追いつかないの」
「……なんで?」
「どうなるかも分からないしなぁ」
「……なんで追いかけてるの?」
「……はて?」
自分でも衝動的に、という感じだ。
もう少し、考えてから動いて欲しい、と思うのはわがままだろうか。
そんな事を考えていると、なにやら人通りの少ない場所に出た。
そして聞こえてくる悲鳴。
トキはため息を吐きつつ、こちらに指示を出してくる。
「…はぁ、ソウ、魔法準備」
「……ん」
魔法準備、と言ってもわたしにはそこまで必要な事はない。
精々が、どの魔法を使うか選んでおく程度だ。
今回は、いまいち相手が分からないし、相手を無効化すると言う事で、麻痺効果の魔法で問題ないだろう。
トキはちらりとユエを見ると、マントの襟もとをぐいと口を隠すように持ち上げ、そのまま相手に突っ込んだ。
――速い。相手が気づいた瞬間には初めの一撃は相手に打ち込まれている。
それに合わせるように、わたしも魔法を発動した。
「……「スパーク・ショット!」」
―――あ。
奇しくもユエと重なってしまった魔法は、同一の敵に向かって目にも止まらない速度でぶち当たり、相手の意識を吹っ飛ばす。
いくら弱めの、麻痺するだけなモノだったとしても、重なってぶつかればそれは立派な攻撃魔法だ。当たればただじゃ済まない。
幸い、白目をむいて倒れてはいるものの、命に別状はないようだから、まあいいだろう。
一応、起きない程度に回復魔法を掛けておく。
「さて、婆さんは……ありゃ、気絶してるな」
「どうするのよ、助けるだけ助けて放置するわけじゃないんでしょ?」
「……どうしようか」
「ノープランかコイツ!?」
なにやら二人が騒がしい。
二人のいるほうに向き直ると、足元には昨日の香味料屋のおばあさん。
道理で聞き覚えのある声だったはずだ。と、わたしはそのおばあさんを担ぎ上げる。
「えっと、どうするんだソウ?」
「……?……拠点に連れて行くんじゃないの?」
この状況で、傭兵二人組みはとにかく、お婆さんをこの場に放置なんてトキがするはずもない。
ならばどうするかと言えば、とりあえず拠点で世話をするしかないと思うのだが。
そう思いつつ、トキに目を向けるが、トキは苦笑して。
「いや、悪い。じゃあ拠点までよろしく頼むよ」
「……ん」
「えー、女の娘のソウに持たせるのー?」
「この中で一番の力持ちだからな」
「あんたね」
「まあ、婆さんとは言え女性だからね。別に緊急って訳でもないし」
「…む」
「それとも、ユエも動けなくなったら俺に運んで欲しい感じ?」
「そ、そんなわけないでしょ!ほら、ソウ、こんなの置いてさっさと帰るわよ!」
あっさりと、トキに言い負かされたユエがわたしを急がせる。
それにしても、何に対して二人は言い合っていたのだろうか?
わたしはお婆さんの位置を直しつつ、首をかしげた。
作者 「はい皆さんこんばんわ、本日もよろしくです」
トキ 「あとがき対談のお時間だ」
作者 「いやー、ちょっと後書きだけ間に合いませんでした」
トキ 「帰ったら書くって言って爆睡してたしな」
作者 「申し訳ない」
トキ 「と言うか先週は?」
作者 「先週は、東方の方をちょっとあげてました」
トキ 「……前回言ってた14000か」
作者 「先週は実家に帰っていたので、帰ると書く気力がなくなるのです」
トキ 「いいわけだな」
作者 「と言うか家族サービスにて部屋に引きこもっていられないです」
トキ 「……家族は、大事だな」
作者 「夜中とかは多少掛けましたけど」
トキ 「おい」
作者 「その多少は東方の修正に使っていたので」
トキ 「この調子だとこの作品何時終わるんだか」
作者 「今年中に2章終えたいですねぇ」
トキ 「もう絶望的だけどな」
作者 「……今回のお話は、ソウ視点のGP二日目、前編となります」
トキ 「話の切り替え下手すぎだろうお前。…ということは次は後編か」
作者 「そうなります。話を追いつつ、その話の先まで、書きたいなぁ」
トキ 「今回ももうちょっと進める気だったんだっけ?」
作者 「ソウ視点にすると、って考えてると、気がついたらこの文字数に」
トキ 「俺の時のこの時点での文字数より多いんだよな」
作者 「多分次は結構長くなるんじゃないですかね」
トキ 「お前の気力が持てばな」
作者 「書く時間はあるので、多分ですが」
トキ 「……家を出る30分前にこれを書いてるお前が言っても説得力なさ過ぎる」
作者 「さて、今回はソウ視点と言う事でちょっと違った感覚で進められたわけですが、解説すべきと頃はして行きましょう」
トキ 「……いいけど、いつもどおりに行くなら魔法の詠唱内容とかか?」
作者 「そうですね。スパークショットは『猛き風雷、その効を持ちいて我に仇なす者を撃て』って感じです」
トキ 「雷は風の上位なんだっけ?」
作者 「そうなります。水→氷と同じように風→雷のようになります」
トキ 「他は?」
作者 「他のはおいおい、出たら説明して行きます」
トキ 「ああ、設定してな」
作者 「設定はあります。時間がありません」
トキ 「だから帰ったらすぐやれと」
作者 「そういえば今回、トキの動き方に対するソウたちの考えが少し出て来ましたね」
トキ 「……これ、俺が解説いて言い物なのか?」
作者 「どうせ覚えてませんし」
トキ 「……そも、そんなに人助けには知った記憶がないんだが」
作者 「はい、此処からも分かる通り、完全に、本能的に、直感的に、人を助けに走る、と言う人になります」
トキ 「いや、だからそんなわざわざ死にに行くようなまねをするわけがないじゃないか」
作者 「と、本人はいやいやと言う、偽善ならぬ偽悪者と言うか」
トキ 「別に悪者になろうとしているわけでもないけど」
作者 「まあ、その辺のルーツについてもそのうち出てくることでしょう」
トキ 「あ、説明はしないのか」
作者 「それはさすがにネタばれすぎるので」
トキ 「ふぅん」
作者 「と、さて、この辺で今回はお開きとしましょう」
トキ 「短いけどな」
作者 「それでは皆さん、次回も終わる事のない夢の中でお会いしましょう」
トキ 「お疲れ様でしたー」
作者 「さあ、後5分でこれをあげて家を出る準備をしてー」
トキ 「……事故るなよー」




