第32話
「それで、どうするのよ。ここまで連れては来たけど」
「どうするも何も、この婆さんが起きないとどうしようもないな」
「……起きたら?」
「事情聞いて……どうしようか?」
「あんたね」
あれから、気絶していたウメ婆さんを、俺達の宿の一室まで運んで寝かせた。
その隣で、これからの事を話しているわけなんだが、どうしようかなと言った形。
あまり深入りする気もないので、長引くようなら容赦なく放置して行く気満々である。
だけど、そうだな、ちょっと調べて見るか。
幸いといっては何だが、結構長い間歩き回ったため、既に外は暗い。
もう酒場なんかも開いているだろう。
二人に、ウメ婆さんの事を見て置くように頼むと、俺は一人で夜の街に繰り出した
「で、此処に来たと?」
「暇だろ?」
「失礼だな、一応数人位は行き付けになっている人がいるはずだ」
「飲食店で数人くらいしか見慣れた客がいないとか、暇なんだろ?」
「本当に失礼だな!?」
向かったのは、先日訪れた酒場『ZacX BAR』。
書入れ時だろうに、客は前日と同じで数人程度しかいない。
まあ、昼間もやっているようだし、どこかしらで儲けているんだろうが、少なくとも今は儲けている感じはしないな。
「で?その話をこんなところでして、俺に何をしろって言うんだ?」
「いやー、マスターさ、あの婆さんに世話になったっていってたよね?」
「そうだな。この町の飲食店なら、世話になっていない奴は居ないといっても良い」
「じゃあさ、その婆さんについて、詳しく知って居いるようなやつって、知らない?」
「うーん、ちょっと思い出せないな。最近物忘れが激しくてな」
悩んだような顔すら見せず、にやついた顔でこちらを見るマスター。
やっぱり、コイツ何か知ってるな。
というか、昨日、その話をわざわざ俺に話した事さえ、裏があるのではと考えてしまうのは考えすぎか。
俺はため息をつくと、大きな小袋から幾許かのお金を取りだし、カウンターに乗せる。
「……あんた、試したな?」
「さて、何の事やら」
「けっ、それで、何を知ってる」
「あんた、あの銀の魔剣姫とパーティを組んでるだろ?」
「……銀の魔剣姫?」
「灰髪の傭兵剣士が居ただろう?」
あいつ、そんな名前で呼ばれていたのか。
そういえば、そこそこ名前が通っているとか言ってたっけ?
昨日、町中を歩いていたのを見られていたのか。
「そこで、傭兵としてのあんた達に依頼しようと思ってな」
こいつでな、と先ほどおいた俺の金に、丁度3倍額を重ねてつき返すマスター。
俺が出した情報料で、依頼額を決めたと。
「正確に言うなら、俺は別に傭兵と言うわけではないんだが」
「知ってるさ。旅人『トキ』。最近だと、ホワイトポートの事件が有名かな」
「……」
何故知ってる。
というか、口ぶりからして、俺のそれ以前の話も知っているようだ。
大した功績があるわけでもない俺の事まで調べているとか、何者なんだよコイツ。
「まあ、依頼したい、といっても大した話じゃない。ウメ婆さんの件だ」
「……あの香味料屋の件、か」
「ウメ婆さんが店を続けられればそれが一番なんだが、現状それは難しい」
「まあ、もう大分年食ってるしな」
「実はウメ婆さんは、止める前に自分の技術をどこかの店に伝えようとしているんだが」
「……どうしてあの店なんだ?」
あの味を求めるだけであれば、適当なこれから商売をしようとしている奴にでも仕込めばいい。
今すぐには無理でも、すぐに安定する事が出来ると言うなら、誰でも欲しい技術だろう。
「あの店の店主は、ウメ婆さんの子供がやっているのさ」
「……子供が居るようには見えなかったが」
「拾い子さ。15年くらい前だったか、数年くらい旦那さんと二人掛りで育てていたんだが、ある時を境に見なくなった」
「ある時、というと?」
「その頃、グランドピークがアマト砂漠近辺を通ったんだ」
「……香味料が切れたのか」
アマト砂漠とは、リライト大陸極南に広がる死の砂漠だ。
数百kmにも及ぶその周囲には植物が生えず、死霊系の魔物が跋扈している。
気温も高いため、その周囲を通るためには水や味の濃い食べ物が必須となる。
つまり香味料屋は、入荷が少なく出費が酷くなる最悪の場所というわけだ。
「何でも、自分から口減らしといって旅に出たらしい」
「……それで、あの中途半端な腕前というわけか」
「ああ、店に行ったんだったな。どうだった?」
「低い腕前を、商法で何とかしようとしているのがありありと見えたな」
閉め切った空間、香りの低い香味料の香りをあたかもあるようにする方法だ。
ソウが気になっていたようだが、あの篭った空間の意味は恐らくそう言う意味だろう。
「概ねその通りだな。胡散臭い商法で、安っちい香味料を売っている」
「ま、技術もそこまで言う程悪いという訳でもなかったと思うが」
「それでも、購入する側からすれば、ウメ婆さんの技術があの香味料屋に伝わって欲しいところなんだ」
「だろうな」
「しかしあの香味料屋はウメ婆さんの技術を受け取らない」
「……真逆」
「依頼したいというのは、その理由を突き止める事。ひいてはこの問題の解決だ」
「あんたら、俺を冒険者か何かと勘違いしてないか?」
大崩壊以前は、実力者が沢山居たため、魔物を倒したり町の人の依頼を受けて立ち回る、冒険者という職業が機能していたと言う。
冒険者はそれ専用のギルドで管理されていて、町のお使いから恐ろしく強い魔物の駆除まで様々な仕事が合った。
パーティを組んでいることもあったらしいが、基本的には個人的な仕事というのが特徴だ。
対して、現在世に蔓延っている傭兵というのは、チーム単位、ひいては長期間の任務や、戦闘、防衛などの物騒なものが主だ。
両者に明確な区切りと言うものは存在しないが、こういった身近な問題を解決して欲しいと言うのは、あまり傭兵が受け持つ仕事ではない。
その原因を語るとすれば、それは報酬が一番の理由として上げられるだろう。
個人単位を短期で雇う冒険者に対し、チーム単位を長期で雇う傭兵というのはコストが掛かってしまう。
依頼をする側も、受ける側も割に合わないことが多いのだ。
一応、今でも冒険者ギルド自体は、細々と運営されている様だが、その知名度は圧倒的に少ない。
「まさか、冒険者や傭兵はこんな曖昧な依頼は受けないだろうよ」
「分かってるじゃないか」
終了条件は曖昧だし、報酬は少ない。
通常ならこんな依頼、受けやしないんだが……。
「わかった、確かお前達は大きな小袋を探していたな。報酬に上乗せしてやるよ」
「む、その実物を見せて貰えるか?」
「ほら、コイツでどうだ」
話していてパッと出てきたところを見ると、恐らく前もって準備されていたものだろう。
手渡された大きな小袋を見れば、懐に入る程度の小さな巾着型の一般的なものだ。
その許容量も恐らくごくごく一般的なものだろう。
さて、此処で問題になってくるのは、どれくらい報酬を引き出すことが出来るかだ。
この依頼を受けること自体は自分の中で確定してしまっているから、その報酬を吊り上げることが重要である。
大きな小袋を前もって準備していると言う事は、ある程度の報酬を別に用意してあると見た。
とりあえず、その報酬を全て引っ張り出すところから初めないとな。
目標は、用意された報酬の3倍って所か。
此処からが、俺の腕の見せ所って訳だ。
「で、遅いと思ったらそんな事をしていたのね」
「いやー、なかなか有意義だったよ」
結局、あのマスターは報酬として、旅用の基本装備をいくつか用意していた。
どうやら一緒に連れていたソウの様子を見て、彼女の装備を探していると言うことを見抜いたらしい。
まあ、最終的にそこにさらに上乗せして、店の高い酒数本に、いくつかの情報、さらに|面白い効果のついた魔法具を引っ張り出した。
金額的に考えるなら、用意されていた報酬の約2.5倍って所だろう。
「……マスターさん、可愛そう」
「平気だよ。多分、あのマスターだけの依頼じゃないし」
「……どういうこと?」
「多分、この婆さんの店を利用していた酒場なんかの飲食店が、有志を募って依頼して来たものだろうってこと」
そうでなければ前準備された報酬や、その情報などの伝達速度が説明できない。
いくらあのマスターが情報通だったとしても、前日にふらふらしていただけの傭兵の事なんて、個人単位で特定できはしないだろう。
「……ユエも、今の話で気づいてた?」
「へ?あ、当たり前じゃない。傭兵なんてやってるおかげで、利用される機会なんて掃いて捨てるほどあるもの」
……この反応、気づいてなかったな。
見るからに交渉事とか苦手そうなんだが、これだけ有名になっているって事は、その実力は本物なのだろう。
銀の魔剣姫……か。後で絶対からかおう。
「……むぅ」
なにやら不満げなソウ。
いつもどおりの無表情だが、もやもやとしたオーラがにじみ出ている気がする。
どうせ小難しい事をごちゃごちゃと考えてるんだろう。
俺はソウの頭に手を置いてクシャリと撫でる。
「……んぅ、なに?」
「……いんや、あまり考えすぎるなよ」
「……ん」
そうすると、ソウは冷静になるのか、もやもやとしたオーラが引っ込むのだ。
今回も、そのもやもやがなくなった頃を見計らって、ユエのほうに向き直る。
「さて、今の話だけで裏側に気づいたユエさんと、今後の件について話し合おうか?」
「うぇ!?う、ま、まあ、そうね。話し合わないとよね」
「ついては今の話だけで、ユエがどこまで理解できてるかの確認を」
「う、え、えと……」
「たとえば今日行ったあの香味料屋、あの香りが篭るような店の構造とか」
「う、うぅ……?」
「ああ、そう言えば気づいたか?今日の件も実はどこかで見られていたらしくてさ」
「あ、あんた、絶対分かってて言ってるわよね……!?」
「さて、何の事やら」
「……っ!」
さて、隅でいじけだしてしまったユエは放っておいて、真面目に話すとしますか。
……決して、香味料屋で俺を見捨てた事を恨んでいるわけではないよ?
作者 「ハイどうも皆さんこんばんわ。あとがき対談のお時間です」
トキ 「はいこんばんわー」
作者 「いやー、今週は沢山書きました」
トキ 「……?今回も別にそこまで長い話じゃないよな?」
作者 「そうですね。大体4000字いかない程度ですね」
トキ 「沢山書いたって?」
作者 「実は別作品で14000ほど」
トキ 「何やってんだ!?」
作者 「書ける時は書けるんですよねぇ」
トキ 「こっちを進めろよぉ」
作者 「たまには別の物も書かないとですよ」
トキ 「量の問題だと気づけ!?」
作者 「いやー、久々過ぎて、前の話を参考にしていたら気づけばその倍に」
トキ 「一体何を書いてたんだ」
作者 「東方の、確か前に一話だけあげていたんです」
トキ 「何年前の話…?」
作者 「ま、それは来週と言う事です」
トキ 「で?今回の話だな」
作者 「今回は……陰謀回、ですかね」
トキ 「陰謀って、人聞きの悪い」
作者 「まあトキもそうですけど、あのマスターが曲者でしたね」
トキ 「そうか?」
作者 「…まあ、トキはそのマスターから搾り取ってましたけど」
トキ 「まあ、目標よりは獲れたな」
作者 「そのうち商人から刺されそう」
トキ 「傭兵ならとにかく、商人程度にはそうそう負けないよ」
作者 「負ける事はあるんですね」
トキ 「商人って言っても一概に売るだけじゃないからな。中には強いのも居る」
作者 「なんといいますか」
トキ 「逃げるだけなら、どんな奴からも逃げられるけどなっ」
作者 「自信の持ち所がおかしいですよ!?」
トキ 「だから逃げることのみ特化してるんだって」
作者 「そこそこ強いと思うんですけどねぇ」
トキ 「そこそこでは駄目なんだ」
作者 「どこを目指してるんですか」
トキ 「男なら、一度は目指すべきモノがある」
作者 「どこかで聞いた事のある台詞ですね」
トキ 「あれ、カッコ良いよね」
作者 「あ、なんか報酬として魔法具とか装備とかって、何をもらう事になったんです?」
トキ 「強引なスルー!?…基本的なたび装備だよ。依然書いてた中継羅針に小さな小袋、その他小さなテントとか」
作者 「細かい事は決めてないので、そこまできっちり決まってる訳でもないんですけどね」
トキ 「おい」
作者 「後々でてきたら後付けです」
トキ 「断言しやがった!?」
作者 「あとは、なにやらユニークアイテムを報酬にしてましたね」
トキ 「それは決めてたのか?」
作者 「ちなみに、完全にトキの趣味全開です」
トキ 「……さて、次はユエの二つ名だ」
作者 「全開は傭兵剣士、今回は銀の魔剣姫ですね」
トキ 「あの髪色、どっちかと言うと白とか灰色とかそんな感じなんだが」
作者 「だから灰被りなのです」
トキ 「というかそんなに有名なのか?ユエって」
作者 「一時期のユエは休む間もないほど、ひたすら依頼を受けて居たので」
トキ 「何年くらい?」
作者 「大体3年位只管仕事してましたね」
トキ 「……あいつ何歳だっけ?」
作者 「それを言うと多分ユエに消されるので」
トキ 「……」
作者 「まあ一応、此処数ヶ月はのんびりとしていたみたいなんですが」
トキ 「そこに、持込で依頼が来たのが一章と言うことか」
作者 「そう言うことです」
トキ 「てことは相当溜め込んでるんじゃ?」
作者 「数ヶ月のんびり→豪遊+冒険道具の購入→素寒貧」
トキ 「ああ、つまり一章で全て使いきったと」
作者 「この三人、全財産はグランドピークに来るまでに稼いだ分だけです」
トキ 「……それでも、人財産あるけどな」
作者 「結局、あのマスターは何だと思ってます?」
トキ 「ん?情報屋だろ、思ってたよりはすごそうだが」
作者 「……ふふふ、さて」
トキ 「元々酒場のマスターは情報通だからな」
作者 「と言う事で、次回の予告と行きますか」
トキ 「答え合わせはしないのか……」
作者 「たぶんおばあさんが起きて、お話が進みます」
トキ 「……曖昧すぎる」
作者 「ちょっとつかれたので」
トキ 「此処最近この辺まで体力が持ってないよな?」
作者 「気力不足ですかね」
トキ 「もう少し気張れよ」
作者 「さて、次回も終わらない夢の中でお会いしましょう」
トキ 「……終わらせやがった」
作者 「今日は寝れますね」
トキ 「珍しく仕事まで時間があるのか」
作者 「今週は珍しくやたら沢山書いていたので」
トキ 「普段から書けば良いのに」
作者 「まだ暫くは書きますよ。多分」
トキ 「この当てにならなさ……」
作者 「さーて、寝ましょう」




