第02話
「いやなゆめ、だったな」
だが、そのおかげか目覚めははっきりしている。
俺は手早く布団をたたみ、服装を整えた。
「もうだいぶ明るいけど、いったい何時くらいだろう」
何せ久々の布団だ。
思った以上にぐっすりと眠ってしまった気がする。
そんなことを思いつつ扉を開くと、建物の入り口、朱色の囲いの辺りでなにやら騒がしいことに気づいた。
何か喚き声、というか怒鳴り声?
声も男性のようだし、ソウって事は無いようだ。
「なんだか分からないけど、面倒な雰囲気だこと」
俺は、何があっても対応できるよう、装備を確認しつつ、騒ぎの方向へ向かっていった。
***
ソウの目覚めは悪い。
日の昇る頃にのっそりと起き、まず冷水で顔を洗う。
寝ぼけながら顔を洗うと大体は服までびしょ濡れだ。
そのまま社務所裏の泉に行き、ぬれた服をそのままに身を清める。
完全に目が覚めるまで身を清め、服を着替える。
何時もなら着替えたら境内の掃除だ。
森の中に建っているという立地上、毎日落ち葉を掃き集める必要がある。
「……あ、そういえば」
ただ、その日はお客様を泊めている、ということを思い出した。
掃除はほぼ半日仕事。
その前に起こしておこうと、母屋に向かったところで、誰かが境内に入ってきた音を聞いた。
それも、複数人分の足音だ。
昨日に続き、連日で来訪者とは、何かしらの出来事というのは続くようだ。
いやな予感を胸に、ソウは鳥居の方向に急いだ。
鳥居前では、似たような服装で身を包んだ一団がなにやら大声で人を呼んでいるようだった。
「我々は辺境伯アルベルト・F・エンペル卿の使節団である!此の建物の主はいらっしゃるか?!」
誰か人の名前を挙げて騒いだとして、このような森の奥に住んでいるものに分かると思うのだろうか。
疑問に思いつつもソウは一団の前に姿を現す。
「……主、というわけではないけど……住んでいるのはわたし」
「む、子供?保護者はいないのか」
子供が出てきたと分かると、隊長格らしき、赤い髪を短く切りそろえた壮年の男は不審げな瞳でソウを見る。
そういえばトキもそんな事を言っていた気もするが、そんなにわたしの一人暮らしがおかしいのだろうか。
「……わたしだけ」
ソウがそう言うと、男は訝しげな表情から勝ち誇ったような表情に変え、威圧的に大声を上げた。
「ならば話が早い!繰り返すが、我々は辺境伯アルベルト―――
「……聞こえてたから繰り返しはいらない」
「む、ならばいい。此の場に祭られているモノを差し出してもらおうか!」
「……?」
何を言っているのだ此の男は。
突然やってきて、何かを差し出せとは傍若無人もいいところだ。
「此の土地は我等が主、アルベルト卿が管理下に入れると決めた!ならば祭られているモノを差し出すのが道理!」
「……そんな道理、知らない」
なんと自分勝手なことか。
勝手に管理する事を決めたから物をよこせと?
意味の分からぬことを騒ぎ立てる男にソウは腹が立った。
「……大体、ここには”なにもない”」
「そのような筈は無い!我等の情報網によればあの男の―――いや、確かに何かがここにあることは掴んでいる!」
「……”なにもない”って言ってる」
此の男らは敵だ。
昨日の人畜無害そうなトキとは違う。
明確な害意をもって此方に威圧してきている。
それも、此の神社に祭られているモノを狙って。
「貴様、隠し立てすると為にならんぞ!」
「……無いと言ったら、”なにもない”もの」
「ふん!ならば力づくで奪い取るまでよ!皆の者!構えよ!」
「……そっちがその気なら、此方も相応の対応をさせてもらう」
確かに、年に一度程度の割合でこの場を訪れる者がいたし、こうした何かを求めてくる者はいた。
だが偶々辿り着いたような個人たちである。
何時もなら丁寧にお帰り願うのだが、今回は厄介ながら団体客だ。
多ければ勝てないという訳ではないが、面倒なことには変わりない。
ソウは、溜息をついて魔法を使う準備に入る。
と、其処で一団の後ろの茂みの中に、見覚えのある顔を見つけた。
中肉中背、人畜無害を絵に描いたような顔に、ぼさぼさで長めの黒髪。
黒っぽい外套に身を包んだその姿は、確かに昨日助けた旅人だった。
何やら口の前に指を当ててこっちを見ている。
黙っていろという事だろうか。
ならばと其方を気にしないようにし、軽めの魔法を放った。
【ウイング・スライサー・バレッド】と呼ばれる風の砲弾は、一団の真ん中あたりに居た数人であっさりと散らされてしまう。
だが彼にはそれで十分だったようだ。
「くっ、無詠唱で上級魔法だ―――っが!?」
「隊長!?」
セリフを最後まで言う事もなく、隊長格の男は崩れ落ちる。
そしてその後ろから現れたのは……トキ。
手には長めの短刀の様なものを持っている。
そのまま一足にソウの前に来ると、飄々とした声で一団に向かって語りかけた。
「駄目だよー?トップはしっかり守られておかないと」
「き、貴様!」
残った数人で憤っているが、一番上が倒れたというのなら此方にも都合がいい。
「……引くなら見逃す」
「いいの?」
「……ん」
此方としても争いごとは望むところでは無い。
攻めてくるならば、今度は手加減せずに魔法で吹き飛ばすが。
司令塔がいなくなり不利と見るや、一団は隊長格の男を抱え、
「貴様ら!顔は覚えたからな!」
と、負け犬の遠吠えを残してそそくさと神社から立ち去って行った。
***
騒ぎを聞きつけて朱色の門の方へ行くと、既に剣呑な雰囲気が漂っていた。
明らかに相手を見下ろしたような態度の一団と、真っ向から対峙しているソウ。
ソウの様子も昨日は無表情の様だったのに、うっすら怒っているようにも見える。
まあ、此方に向かう途中で叫び声を聞いていたから、ソウの怒りよう理解できる。
問題は、一団を率いた男の言ったアルベルド卿という名前だ。
確か、俺がこの森に入る前に立ち寄った街が、そんな名前の奴が治めていた。
商人向けの良い統治をしている裏で、私設軍隊の様なものを作って暗躍しているとか。
しかし決して悪政をひいている訳では無かったはずだ。
今の時代、悪政と知られれば民は別の町へ移り、あっという間に荒廃してしまう。
だから、こんな強引な手法で町を広げれば、悪評が広まり、町は町として機能しなくなってしまう。
それでもそんな方法を使うという事は、この場所にそれほどのモノがあるという事だろうか?
見た処、魔法が使えそうな人材を全部で……6人もいる。
確かあの町の私兵団は12人程度だったはずだ。
こんなところに実に2分の1の兵力が割かれている。
アルベルド卿の本気度合いが窺い知れるというものだ。
まあ、この態度を見るに、人選は間違っているようではあるが。
横暴な態度も気にいらないし、此処はおとなしくソウの味方に回るとしますか。
俺は誰にも見つからないように茂みに入りこみ、一団の裏へと忍び寄った。
双方はいよいよ一触即発な雰囲気を醸し出している。
一団は武器を構え、ソウは……あれは魔法準備だろうか?
昨日もちらっと見たが、彼女は相当な実力を持った魔法使いらしい。
かつて、世界には人間族の扱う法術と魔族の従える魔術の二種しかなかった。
だが、大崩壊によってその大部分は失われてしまったのだ。
そして人と魔族が手を取り合うと、其々の種族のみでしか使えないという前提条件が大きな問題点となった。
そのせいかどうかは分からないが、ここで、第三の力が発見される。
人でも魔族でも扱えるその技術は、爆発的に広まっていった。
双方どちらの種族でも使える、法術と魔術の中間点、すなわち魔法という言葉で。
その魔法は、誰でも持っている無属性の力に、指向性を与えることで作用する力だ。
主に、呪文を使って力に指向性を与え、現象を起こす。
その呪文には弱い順に下位、中位、上位、極位と4つにランク分けされている。
今の世界、上位を一つでも扱えれば優秀。無詠唱出来るなら軍の隊長クラス。
極位を使える者はほとんどいないと考えられている。
極位を究めた者は精霊と話ができるほどの力を持つ。なんて言われているが、実際のところいるかすらも怪しいものである。
まあ逆に、才能に恵まれず、殆どの魔法が使えない者というのは有り触れている訳だが。
長々しく、何が言いたかったかというと、中位以上の魔法を使えるという事は、それだけでも相当な実力者だという指針となるって事。
おっと、ソウに見つかった。
こっち向かず、気づかないふりをと、身振りで伝えるが……。
うん、分かってくれたようだ。
後はタイミングを見計らい……おいおい、無詠唱で上級かよ。
まあいいやと、丁度いいタイミングなので、音をたてないように一団の合間を縫って走る。
幸い、魔法に気を取られ、此方に気づく者はいない。
一気に隊長格の男に近付くと、首に剣の柄を叩きつける。
うん、良い感じにクリーンヒット。
うめき声をあげて崩れ落ちる男。
そして、慌てて此方に攻撃を加えようとするその他。
俺はひょいと攻撃をかわしつつ、ソウの前に立つ。
「駄目だよー?トップはしっかり守られておかないと」
「き、貴様!」
副隊長らしき奴が声を荒げて此方を睨む。
こういう団体戦相手には、初撃で司令塔を潰すのは基本じゃないか。
幾ら睨んでも護れなかった奴らが悪い。
「……引くなら見逃す」
「いいの?」
「……ん」
てっきり痛めつけて、もう来ないようにでもするかと思ったけど。
まあ、あまりこの敷地内で暴れたくないのかね。
「貴様ら!顔は覚えたからな!」
分かりやすく負け惜しみを喚き、敷地内から出て行く一団。
あー、自分的には余り逃がしたくなかったんだけども。
ソウには一宿一飯の恩もあるし、見逃してやるか。
もたもたと、隊長格を背負い、逃げて行く一団をゆっくりと見回すのだった。
作者 「ハイどうもまたまた始まりました。あとがき対談のお時間です」
トキ 「毎度のことになりますが、読み飛ばしても全く問題ないよ」
作者 「ここは作者のてきとーさと乱雑さの塊みたいな不思議ワールドなので」
トキ 「見てると平衡感覚が狂ってくるらしいよ」
作者 「そこまでではないです」
トキ 「でも昔、自作HPの頃の副管理人が」
作者 「そんなことはありません」
トキ 「でも現に」
作者 「文字見て酔うことはそうそうあるわけ無いじゃないですか」
トキ 「ひどいときは酔うぞ」
作者 「……昔の対談でよったことはあったけど」
トキ 「駄目じゃないか」
作者 「でも対談は続けます」
トキ 「……皆さん注意ー」
作者 「さて、そんな感じで第2話となりましたがいかがでした?」
トキ 「これからどんな話になるのやら」
作者 「正直作者にも分かりません」
トキ 「え?」
作者 「わたしの書き方は、大まかなプロットつくり、肉付けで細かなプロット作り、後は物語りは書きながら、ですので」
トキ 「……そりゃ時間もかかるし設定も分からなくなるはずだわ」
作者 「でもいろいろな人の動きを並列に動かしたければ分かりやすいのですよ」
トキ 「悪いとは言ってないけども」
作者 「もうチョイ時間あれば書きながらの前にぎりぎりまで細かいプロット作りをするんですが」
トキ 「ああ、おまえいろんなものにメモ書いて忘れるから」
作者 「後はお察しのとおりでー」
トキ 「……あー、今回はソウ視点と俺視点の初戦闘か」
作者 「いえすいえす。戦いにもなっていませんでしたが」
トキ 「不意打ちで即効黙らせて追い返す。か」
作者 「実際はソウが居れば全員ぼこぼこで追い返すくらい楽勝だったのですが」
トキ 「え?そんなに強いのあいつ」
作者 「魔法だけならおそらく人魔合わせて最強クラスでしょう。経験不足ではありますが」
トキ 「ああ、明確な最強ではないと」
作者 「明確な最強は後ほど何人か出てきますので」
トキ 「上級魔法を無詠唱で打てるより強いって…?」
作者 「化け物クラスですね」
トキ 「世の中は広いなあ」
作者 「ひろいねぇ」
トキ 「で?魔法の解説とかは?」
作者 「んー暫くしたら作中でやるんだけど、、、いいか」
トキ 「なんかまずいのか?」
作者 「いや、魔法についてだったね
この世界の魔法と呼ばれるものは詠唱により人の普段垂れ流しにしている魔力を方向性を変えたものなんだ」
トキ 「ふむふむ」
作者 「そして、ランク付けで何が変わるのかというと、技名の単語の数になります」
トキ 「作中でソウが使ったのはウイング・スライサー・バレッドだっけ?3単語あるな」
作者 「そう、用はランクが上がるたび単語が増え、強く、目的に近いものが出来ます」
トキ 「今回のはそのまま翼断砲ってところか」
作者 「そうですね。ウイングが風属性指定、スライサーが切断系、バレッドが魔法の形状といった形です」
トキ 「どの単語が無いといけないっていうのはあるのか?」
作者 「特には無いです。ウイングなど属性指定だけなら風が吹くだけとか火がつくだけとかになるだけで」
トキ 「と、そうなると属性攻撃は殆ど中位以降になるって言うことか」
作者 「そう、ただ難度が高く、上位を普通に使えれば十分町のガードや護衛になりえます」
トキ 「具体的な難易度は?」
作者 「完全な並列起動が必要となりますので、単語ごとにマルチタスクが増えていく感じですかね」
トキ 「マルチタスクって言うとあれか、複数のことを同時に考えるとか」
作者 「右手左手で別々のことをするとか、そんな感じ」
トキ 「うげー、因みに無詠唱だと?」
作者 「詠唱で定めていたものを別口でさらに組み立てないといけないため、単語ごとにプラス2タスクくらいですかね?」
トキ 「……つまり上位が使えれば下位は無詠唱できると?」
作者 「理論上では」
トキ 「逆に言えば中位の無詠唱が出来るなら極位が詠唱できると?」
作者 「極位に関しては魔力の量など才能も関係するため、一概には言えませんが、詠唱できる才能はあるとだけ」
トキ 「上位を無詠唱したソウは?」
作者 「だから相手も驚いたんですよ」
トキ 「……俺、助け要らなかったんじゃ?」
作者 「はっはっは、だからそういっています」
トキ 「……」
作者 「さてはて、対談書き中に眠くなって日付またいでしまったので、そろそろ終わりにしましょう」
トキ 「え、説明もう終わりかよ」
作者 「どうせ本文中で説明はいりますしー」
トキ 「この作者の雑さ」
作者 「この対談ではよくあることです」
トキ 「まあ、次回以降の対談もあるか」
作者 「そうそう。
それでは、次回も終わることの無い夢の中でお会いしましょう」
トキ 「ここまで見てくださってありがとうございまーす」