閑話休題~それぞれの思惑
***
ごとごと、ごとごとと荷馬車が揺れる。
夜風が木々を揺らし、頭上にはとても大きな月が辺りを照らしている。
ホワイトポートの商会長とのいざこざを制して手に入れた、グランドピークへ向かうキャラバンのガードと言う切符。
そのキャラバンに混じっていた顔見知りの店の馬車に乗せてもらい、月明かりで明るい夜道を行く。
先ほどまで騒がしかった約一名、トキは顔を腫らしてぶっ倒れてソウに介抱されている。
「悪いのはトキなんだから、放って置けばいいでしょうに」
「……でも、そのままは可愛そう」
「人がいいわねぇ」
とは言うものの、この二人の人の良さに救われたのは事実だ。
私が追い詰められた原因もこの二人な気もするが、それはこちらが悪かったとも言えるけど。
あの状況で私を助けるこの二人は、お人よし以外何者でもない。
そしてそこからこうして疑いも無く旅に同行させるなんて、ソウはとにかくトキもお人よしなのだろう。
我ながら胡散臭い女だ。私は。
「……ヒール」
「えー、治すの?」
「……死にかけ」
「うぇ!?」
よくよく見ればトキの呼吸は浅く、脈が小さく……。
いや、脈と呼吸が戻っていく。
「本当に死にかけてたのね」
「……トキは、弱い」
「そうね。魔法も使えないし、動けるだけ」
「……でも、一番強い」
「………」
そう、たぶんなんでもありというなら彼が一番強い。
私も結構強いほうではあると思うけど、たった一人でこの世界を歩こうとは思えない。
魔獣は、人が一人でまともに勝てる相手では無い。
ソウほどの、とまでは言わないが、チート級の力が在って漸く一人で倒せるのだ。
私は強くてもまだまだ普通の領域だ。
数人集まって一匹を倒すとかそんなレベルなのだ。
そんな相手を苦も無く倒せるであろうソウ。
そしてソウに勝ちうる可能性を持つトキ。
「ま、可能性だけだけどね」
「……?」
なんと言っても彼は脆い。
強いが、弱いと言う危うすぎるアンバランスさを持っている。
いざ戦うとなればそこが突くべきポイントとなるだろう。
厄介な彼を何とかしても魔力チートのソウが居るのだ。
この二人を何とかする者はこの世界に存在するのだろうか?
……どちらにせよ、彼らに死んでもらっては困る。
最低でもこの世界のどこかにいくつかあるという、不思議な建物に案内して貰わなくてはならない。
先日のマイナスをプラスに出来る、そんな可能性があるのだ。
あの神社とか言う建物はそれだけの可能性を持っている。
「……なんか、よく無い事を考えてる?」
「何の事かしらー」
「……嘘の気配」
これだ。
この娘に限らず、光属性を扱う者はこういったところがとても厄介。
私自身、こそこそと何かをすることが苦手と言うのもあるのだけれど。
「う、ううん……」
「あ、起きた」
「……トキ」
危ない危ない。
いいタイミングでトキが起きてくれる。
いや、こちらに目線……起きていたのね。
って事は……嫌な借りになってしまった。
……まあいいか。
彼にはもう一つ、やってもらわないといけないことがあるのだから。
***
……また、良からぬ事を考えてる。
トキは放って置けって目線で見てくるから気にしないけど。
ユエは自分の考えていることが、とても顔に出安い事に気づいていないのだろうか?
どうやら『真実の探求』を使っていると思っているようだが、大体は彼女の表情から読み取っている。
それを見ているとトキが彼女を危険視しない理由も分かってくる。
たぶん、彼女は悪い事が出来ない。
表情を見ていれば大体それだけは確信できる。
それよりも、今は起きたトキのことだ。
「……トキ」
「ああ、回復、ありがとな」
「……ん、体は平気?」
「うん?そうだな。問題なさそうだ」
少し集中してトキの体を視てみる。
少し前まで虫の息だったトキの体は、滞っていた魔力も落ち着いてすっかり良好だ。
多少ほっとしつつも、トキには少しお話しなくてはならない。
「……それなら、お話」
「うん?」
「そうね、とりあえずお話よね」
「……さっきの致命の一撃で方がついたのでは?」
「それとこれとは」
「……別」
「うげぇ」
心底嫌そうに顔をしかめるトキ。
彼は色々な意味で触れてはいけないところに触れた。
「と言う事で、あなたにはこの重要性をたっぷりとレクチャーしてあげるわ」
「い、いや、そんな事よりもだな」
「そんな事、で済ますような話じゃないのよ」
……と言うほど私はそこまで怒っているわけではない。
先ほどの一発で大分怒りは収まった。
ユエはそんなこと無いようだけど、見た感じトキがなにやら思いついたようだ。
「いや、聞いてくれユエ」
「ふん、まあいいでしょう。最後の言葉として聞いて上げましょう」
「お前、負けてるぞ」
「……は?」
「ソウに、負けて」
「ふんっ!」
「ぐえ!?」
あ、トキがまた殴られた。
ただ悶絶しているだけだからさっきほど力はこめていないようだ。
本当に何なんだろうかこの人は。
自分が打たれ弱いって分かっていて、こうして相手をすぐに煽る。
しかも能力的には格上相手にだ。
……殴られることが好きなのだろうか?
「さすがにそこまでじゃないわよ!……ない、わよね?」
「……なんで、近づいてくるの?」
じりじりとユエに追い詰められて気づく。
トキは殴られたいからあんな事を言ったわけじゃない。
……ユエの標的を変えたいからあんな事を言ったのだ。
トキの持ち味はこれである。
実際の実力とは違うところが本当の勝負なのだろう。
常に相手の予想とは違うところをつく、奇策。
逆にその奇策をものともしない純粋な実力者に弱いのだ。
自分でもその事を分かっているから、こうしてまともにやりあわない。
と、そんな風に考えて見るものの、まずはこの目の前のユエをどうにかしなくては。
「ねぇ、ソウ?ちょっと触らせてくれないかしら」
「……いや」
「ちょっとだけ、ちょっとだけだから」
何故、ちょっとだけと言いながら両手をワキワキさせて近づいてて来るのか。
何故、そんなにも目を血ばらせているのか。
何故、逃げ場の無い隅に追い詰めてくるのか。
「……や、やめ」
「ちょっとだけ、ちょっとだけ!」
飛びかかって来るユエ。
避ける事は簡単。
でも避けるならばユエは、走行中の荷馬車の屋根から真っ逆さまに落ちるだろう。
ユエはユエでこの状況で絶対にわたしが避けないと踏んでの行動だろう。
なんだかんだで、ユエもトキと同じように頭が廻るのだ。
トキのほうが悪知恵がある所為で目立って居ないだけ。
……やはり、この3人の中で一番弱いのは自分だ。
わたしには、2人の様に次の次まで考えての行動と言うのはうまくいかない。
おとなしくユエに捕まりながら、わたしは自嘲的なため息をついた。
***
日が沈み、辺りは夜の闇に包まれる。
見えるのはあまり目立ち過ぎない程度の僅かな照明。
門の先へと続く街道は闇に包まれている。
そんなホワイトポートの町から、ふらふらと出てくる影が一つ。
このような真夜中にたった一人で町を出ると言うのは、自殺行為と言っても過言ではない。
しかし彼にはそうせざるをえない理由があった。
「くくく、見ていろ。必ず、必ず取り戻してみせる。この町を、あの地位をぉ!」
それは領主、いや、元領主の悲痛な叫びだった。
最低限の装備だけ持たされ、一人街道を歩く。
それは、直接手は下されないものの、実質上の死刑であった。
「おのれ、ユエ・プライズノート。おのれ町民ども。オノレ、ダート・ヴァルト!」
程なく、町から離れたアルベルトは懐から小さな結晶を取り出す。
それは先ほどとは違う念話結晶。
そこから一言二言、アルベルトは会話をかわし、再び歩き出す。
「必ず、必ず生き延びてみせるぞ。待って居ろダート!くくく、はははははは」
向かう方向は北、それはかつての故郷。
ホワイトポートとは違い、過ごしにくいその大地。
それでもかつての仲間が、彼を待っている。
「あーっはっはっは!」
暗闇には、彼の笑い声のみが響く。
***
「行ったか」
「行きましたね」
ホワイトポートの門から見守っていた影は2つ。
現領主、ダート・ヴァルトと、その付き人となったトレイン・クロスである。
「これで、この町は変わります」
「私には彼ほどの政治力は無い」
アルベルト卿、彼は政治力だけで言うならとても高かった。
この町を此処までのし上げていたのも彼の手腕によるところが大きい。
私は、それに付きしたがっていただけだ。
その本人が居なくなってしまえば、この町は変わらざるを得ないだろう。
それが、いい方向であれ、悪い方向であれ。
「でも、貴方には統率力がある」
「……ああ、そういえば彼らももう出てしまった頃か」
確か、トキにもそんな事を言われた。
本気で殺しに行った自分をあっさりと押しのけ、救い、あまつさえ導いた。
……彼らは不思議な存在だった。
アルベルト卿との対談から、その後の私との対決まで、そう何度も対峙した訳ではない。
それでもこの町の状況を動かし、目的を遂げ、この町を去った。
たった一日で全て終わらせて行ったのだ。
「ああ、彼らは夕方のキャラバンに同行して行ったそうですね」
「うむ、これから商人は少なくなるだろう。居なくなる前に、その対策をとらなくては」
「ええ、その対策はとっておきました。今頃食料などの必要物資は、居なくなる商人達から買い集められているはずです」
私は驚いてトレインを見る。
彼女はもともと、ガード隊長だった自分の付き人であり、政に長けている事は分かっていた。
自分の中で最も信頼できるのは誰かと言われれば、クードやガード隊を押しのけ一番をとるだろう。
だから、今回もそのまま付き人になって貰い、政の補助でもと、そう思っていたのだが。
思ったよりも、頼りになりそうだ。
「それでは、屋敷に戻るとしよう」
「はい、戻りまして至急に、食料の割り振り、減ったガード隊の再編、これからの町の構想などの事務に取り掛かってもらいます」
「あ、ああ了解だ」
訂正しよう。
私の補助ではなく、私が政の補助をする事になりそうだ。
私は屋敷に戻る前に一度、門の外を見て願う。
「どうか、彼らの旅路に幸在らんことを」
トキ、ユエ、ソウ、そして無論、追放したアルベルト卿もだ。
その願いに答えるかのように、破裂音のような、乾いた音が夜空に響いてきた。
***
それは、大陸どこかの森の中。
辺りの森はどこかで見たように縮んでいくなか、二人の男女が立っていた。
「ふむ、これで此処にある欠片は回収できたな」
「―――っ」
一人は壮年の男、相当に歳をとって居るように見えるが、動きはまるでそれを感じさせない。
背中に身ほどもある大剣を背負い、重装備と言うほどでもないが沢山の防具をつけている。
「そう焦るな」
「―――」
一人は少女、未だ歳若く、年齢は十を過ぎたといったところだろうか。
服は軽装、動きは軽く、長い透明な髪を後ろで一つに束ねている。
「分かった分かった、次は此処からさらに西南のほうだ。あったかくなるから風邪を引かないようにな」
「―――!」
「ははは、お前が元気なのは俺にもうれしい限りだ」
「……―――?」
「それが無いといっても嘘になるが、お前も俺の娘だと思っているさ」
「……―――」
ふと落ち込んだ顔を見せる少女。
男は少女の頭をクシャリと撫でると、安心させるように表情を和らげる。
「そう落ち込むな。すぐに合える」
「―――!」
「いや、もうすぐだ。もうすぐ、全て集め終えて、決着を付けたら」
「―――」
「少なくとももう間近である事は、お前にも分かっているだろう?」
「―――」
「大丈夫だ。俺は負けない。お前にも死なせはしない」
「―――」
「うん?」
「―――」
その言葉を発した瞬間の少女の表情は、歳相応のそれではなく、嫌に大人びたモノだった。
男は苦笑すると、声を張り上げて宣言する。
「何度だってしてやる。お前も、トキもリアも殺させはしない!」
「……―――!」
「ああ、もう少し、急ぐとしよう」
「―――!」
そうして彼らはまた、夜の闇の中に消えていく。
―――閑話休題~To be continued.
作者 「ハイ皆さんこんばんわ、後書き対談のお時間です」
トキ 「おい」
作者 「はい?」
トキ 「前回言ってた事、おい」
作者 「あくまで此処での会話は『予定』です。実際に出来るかどうかはサポート外です」
トキ 「またどっかの悪徳会社みたいな」
作者 「正直今回はいいわけ出来ません。真逆帰りがあんなに遅くなるとは」
トキ 「なんと言うか、それ以前に今回上げてるタイミングもだな」
作者 「まだ今週の仕事は始まって無いです。つまり休日、セーフ」
トキ 「……いいけど」
作者 「ちなみに相当早く終わると思っていたこのお話、丸々2日掛かってかいております」
トキ 「かけすぎぃ!?」
作者 「そして見直しに不安」
トキ 「ああ、ぎりぎりだからか」
作者 「たぶん気が向いた時に治します」
トキ 「余裕がある時の間違いだろ」
作者 「そうとも言います」
トキ 「大まかには変わらないんだろ?」
作者 「あくまで閑話と言うわけですので最悪読まなくても何かあるわけでもありません」
トキ 「対談みたいなものか」
作者 「いえ、対談よりは。あくまで本編裏側の話しなので」
トキ 「あれ、一応この対談も本編の」
作者 「人を連れては来て居ますがパラレル扱いなので本編とはまったく関連ありません」
トキ 「予告とかは?」
作者 「そうであっただろう予定の空間です」
トキ 「……」
作者 「何です?」
トキ 「いやいいけど」
作者 「と、言う事でそろそろ本編の話しに行きましょうか」
トキ 「あー、でも今回って閑話だろ?」
作者 「そうですね。今回はかかわった人達の裏側となりました」
トキ 「って言ってもそんなにかかわってないから少ないな」
作者 「そうですねー。4人だけと言う手抜き」
トキ 「自分で言っちゃうんだ」
作者 「それでも二日ですよ」
トキ 「一体どうした」
作者 「ううーん?」
トキ 「しかし最後のは?」
作者 「次の章で分かるんじゃないですかね?」
トキ 「明らかに俺の事知っているようだったけど」
作者 「知っていますよそりゃ」
トキ 「何でさ」
作者 「それはもちろん」
トキ 「もちろん?」
作者 「機密事項です」
トキ 「ですよねー」
作者 「とりあえず出てくるまではご想像にお任せします」
トキ 「出てきたら?」
作者 「実際の設定でその想像を塗りつぶします」
トキ 「……」
作者 「さて、次回のお話ですが」
トキ 「はーはいはい」
作者 「いよいよ二章、何が変わるわけでもなく、暫く馬車の上の生活となります」
トキ 「ドンくらい馬車の上?」
作者 「ここで設定を思い浮かべて見ましょう」
トキ 「うん?大陸の大きさが3万平方キロ程度のひし形だろ?」
作者 「そして直径1万キロの大穴です」
トキ 「あれ?前回のほんぺんで1000キロって」
作者 「……カキマチガエデスネ」
トキ 「おい」
作者 「世界の3分の1が崩壊してます」
トキ 「おい」
作者 「後で修正しておきます」
トキ 「おい」
作者 「残り2万キロのいくつかある町の間、まあ最低100kmはありますね」
トキ 「おい」
作者 「大体300kmと考えています。大体一日もろもろ30kmとして約10日間って所ですか」
トキ 「あ、そんなもんなんだ」
作者 「そんなもんって、結構な距離ですよ?300km」
トキ 「あの世界、半径1000km村が無いとか普通に在るし」
作者 「……そんな中でどうやって場所探ししようと」
トキ 「それも冒険者の少ない理由だな」
作者 「……一応、村や町には発信機のようなものがあり、次の町がどのくらい先のどの方向にあるか分かると言う機械はあります」
トキ 「中継羅針、大体略してコンポートって呼ばれてる」
作者 「おいしそうな名前ですよねー」
トキ 「ちなみに、俺やユエは当然持っている」
作者 「様はログポー」
トキ 「それ以上はいけない」
作者 「まあ形は全然違うよくあるコンパスみたいなもんですけど」
トキ 「基本的には前の文明の遺物で、見つければわりかし高めに売れる」
作者 「昔は町が普通に近くにありますからね。そこまで重要なものでもなかったため純正はかなり少ないです」
トキ 「模造品なんかも出回っていて、そっちは精度は怪しいもんだな」
作者 「色々な町をめぐるなら純正が必須と言っても過言ではありません」
トキ 「そういったモノ的な意味でも冒険者は少ないな」
作者 「とまあ冒険者事情はそんな感じで、約十日程度の旅路となります」
トキ 「十日って言うと魔物に襲われそうだな」
作者 「3日に一度くらいは恐らく襲われますね。大所帯ですし」
トキ 「ああ、ちなみに今回のキャラバンは15軒位の集まりだったっけ」
作者 「黒い噂を聞いて速攻場所を移す人達の集まりとなります」
トキ 「……あの町にはどれくらい商人や村人が残るんだろうな」
作者 「大規模な村程度には残りますよ」
トキ 「おや、以外と」
作者 「もともと残っていたのがあの領主の力ではなくダートの力なので」
トキ 「まあ、それならそうだな」
作者 「ただ、一度でも町の崩壊に巻き込まれたりした経験がある人は逃げ出すでしょう」
トキ 「今回乗せて貰っている商人さんは?」
作者 「一度村の崩壊を経験しているユエの知り合い、ブラフ・ゴルブさん」
トキ 「あれ、それって確か」
作者 「ホワイトポートの前に一度村の終わりを経験しています」
トキ 「この間の設定だとわりかし順調な人生だったような」
作者 「20で独り立ちしたのは師匠と共にいた村が崩壊したから、そのときその師匠はお亡くなりになりました」
トキ 「……なんでそんなに設定が深いんだ」
作者 「それ故ホワイトポートに来るまえ2年ほど色々な町を見て廻って居ました」
トキ 「何でよりによってホワイトポートにしたんだか」
作者 「機会に恵まれたとか」
トキ 「じゃあ奥さんとかは?」
作者 「荷馬車に普通に乗って居ます。まあこの方々ならどこに行っても重宝されるでしょう」
トキ 「何だかなぁ」
作者 「そんなわけで、次回より旅風景、乞うご期待」
トキ 「あ、〆る雰囲気だ
作者 「それでは皆さん、次回も終わらない夢の中でお会いしましょう!」
トキ 「ここまで読んでくれてありがトナー」
作者 「……まずい、仕事が始まります」
トキ 「おい、どちらにせよぎりぎりか」
作者 「今週は、今週こそは」
トキ 「毎週言ってないか?それ」