第18話
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沈みかけた日はコンクリートの白を赤く染め上げ、もうすぐ昼の終わりである事を告げている。
町の喧騒から少し離れた領主の館では、館の主の大声が耐えることなく響いていた。
「誰か!誰かおらんのか!?」
人を探すその声に、返事はない。
ただただ、静寂に館の外の喧騒が響くのみである。
「く、皆どこへ行ったと言うのだ!」
館の主アルベルトは、焦っていた。
いつもなら頼みの綱であるクードもダートも今はいない。
それでも屋敷の中には何人もの使用人や別のガードが待機しているはずだった。
「くそっ、しょうが無い」
執務室の扉を乱暴に開き、どかどかと足音をたてて部屋に入る。
執務机の前に座ると、引き出しが壊れそうなほどに乱暴な音をたてて机の中をあさりだす。
やがて、一つの結晶を取り出し、魔力をこめた。
「おいっ、聞こえるか!?」
「……あぁん?あんだ……って領主さん?何か用かい。こっちは漸く眠りについたと頃だってに」
結晶からは気だるげな声が響く。
「それはすまない。だがこちらも火急の案件なのだ」
「あ?まぁたご依頼かい。急な依頼は高くつくよぉ?」
「いくらかかってもいい!昨日伝えて貰った三人組だ。あいつらを頼む!」
「あー、あの三人か。だったら……って、こりゃ無理そうだねぇ」
かかか、結晶からは乾いた笑い声が響く。
人を食ったようなその笑いは、焦ったアルベルトの神経を逆なでするばかりだ。
「何故だ!?お前はどんな奴でも」
「ああ、そうじゃにぃよ。あんた、終わったねぇ」
「どういう意味だ!?」
「あーすぐに分かるさぁ。ホンじゃ、その結晶も使えなくしとくにぃ」
「何を」
言うが否や、結晶は―ピキリ―と音をたてて罅が入る。
すると、いくら魔力をこめても、結晶は反応を返すことは無くなってしまった。
そしてガチャリと音をたてて扉が開かれる。
「失礼する」
「おお、ダートでは……な、何だお前達!?」
扉からはぞろぞろと、何人もの人がアルベルトを取り囲む。
残っていたガードは全員、そして町の冒険者らしき色々な種族の者達。
アルベルトの正面に立つダートは、一歩前に立ってなにやら紙束を掲げると。
「ここに、貴殿のこれまでの不正の証拠と、ここ数日の行動を記した書類がある!」
「……は?」
渡された書類には、確かにアルベルトがこれまで行った取引などの不正が書き込まれている。
それどころかここ数日の動向、クードの不審な動き、ダートを操った事まで詳細に記されていた。
「アルベルト・F・エンペル!貴殿をホワイトポートの町から追放する!これは、この町の民の総意である!」
「……ふ、ふざけるな!私がいなくなればこの町の領主は!?」
「不肖、このダート・ヴァルトが引き継がせていただく」
「貴様、ずっとそれを狙っていたのか!?」
激昂したアルベルトは、ダートに飛びつこうとするも、横に控えた冒険者によって取り押さえられてしまう。
そして取り押さえたうちの一人が語る。
「ダートさんは最後まであんたの事を庇っていたよ。あんたが最後に余計な事をし無ければな!」
「あ、あの時は焦っていたのだ。そ、そうだ、皆これを見てくれ!」
アルベルトはポケットから小さな石を出す。
皆がそれを見た瞬間、怪しげな光を出したそれは―ピシリ―と砕け散る。
「は?」
「侵食魔法ならば効かない。此処の全員、抗侵食装備を装備している」
「な、何故そんなものが!?」
「何度も同じ手が通用すると思っていたのか?なめられたものだ」
「ま、待て、話し合おう。そうだ、こんなに問答無用でなんて」
「ふざけるなよ。あんたは、自分で自分の最後の首皮を切ったんだ」
アルベルトを見つめるダートは、静かに首を振り、袋を一つアルベルトの前に置いて宣告する。
「此処に、数日食いつなげる程度の食料と、最低限の装備がある。これを持って、この町から出て行くがいい」
「こんな、こんなことが……あるわけ、」
「連れて行け」
「「「ハイ!」」」
「き、貴様ら、覚えていろよ?必ず、必ずこの町を破滅させてやる。……あ、あはは、あはははは、はは」
引きずられて歩く、狂ったようなアルベルトの笑いは、町から追い出されるまで、消える事は無かったと言う。
***
「いやー、脱出は思ったより順調だったな。」
「そりゃそうよ、なんと言っても私が用意したんだから」
「……ん、いい風」
ゴトゴトと揺れる荷台の上で、三人は飲み物を飲みつつ辺りを見回していた。
ここは、小規模なキャラバンの内の一台。
丁度この町を出ると言うそのキャラバンに、トキらは同行させて貰っていた。
「で、このキャラバンはどこに向かうんだ?」
「そうね、あなた達は居今居るこの場所とかは分かる?」
ユエの問いに、頭の中で今いる大陸の形を思い浮かべる。
この大陸はリライト大陸と呼ばれ、大体3万平方km程度の言う歪なひし形をしている。
東西南北に頂点を置き、かつては北半分の魔族、南半分の人族で戦争をしていたとか。
そして激戦区であった大陸の中心で、半径約5000kmの大崩壊が起こり、巨大な大穴がぽかり。
その中心を見た奴はいないとかいるとか、噂でしかない。
ホワイトポートの位置はその東側、頂点とその大穴の丁度真ん中辺りだ。
「……リライト大陸の東側」
「まあ、大体合ってるわね。トキは平気?」
「ああ」
「そこから真南に1週間くらいの場所に、丁度グランドピークが来てるんだって!」
「……ぐらんどぴーく?」
「あー、巨大なキャラバンって言ったらいいか?移動する町みたいなものだよ」
グランドピーク。
商人ギルドの本拠地にして、それ自体が巨大なキャラバンである。
ただ、キャラバンが集まりすぎて移動する町の別名を持っている。
扱う商品は多種多様、どんなものでも探せば見つかるとか。
個人経営でも一度はその列に加わり、商売のイロハを学ぶと言う本店みたいなところだ。
たいていは町には近づかず、町の無いところをうねる様に移動している。
昔聞いた話だと、大体10年くらいかけて大陸を一周しているとか。
色々整えるなら立ち寄りたい町の一つだな。
しかし、そんなところに行くのであれば、大きな問題が一つ。
「でもユエ、俺ら、金無いぞ?」
「は?ソウの装備代は?」
「装備に消えた」
「……」
ソウの、修復され、サービスで朱く塗られた皮製の胸当てを見て、こちらを見る。
そして胸倉を掴まれる。
「わりといいセンスだと思ったけど、これはいったい幾らしたのかしら……?」
「ま、まて、その胸当ては大した値段じゃない!?」
慌てて購入した試作品と、胸当ての修復の事を伝える。
ユエはその試作品を受け取り、眺める。
「……げ、何これ。こんな素材、師匠の研究室で見たことがあるくらいよ…?」
「ちなみに、素材の値段だけで予定の金額を軽く越えました」
「そりゃそうよ。素材の値段だけでも安いほうだし」
どうやらユエは正式な値段を知っているらしい。
血の気が引いた顔をしている。
「その胸当てといい、いったいどこでこんなもの仕入れたのよ」
「どこって、お前に教えてもらった路地裏の武器防具屋?」
「はあ?私が教えたのは表通りよ?」
「あれ?」
慌てて紙に書かれた地図も見直す。
確かに、路地裏のところに点が……あれ?無い。
「無いじゃない」
「いや、確かに黒い点が」
「……あれ、虫」
「知ってたの!?」
「……ん」
「何で教えてくれなかったのさ!?」
「……魔法制御の虫、面白そうだった」
「おいぃぃ、面白そうだけども」
「……ん、結果おーらい」
「もうそれでいいや」
俺達のやり取りを見て、ユエは頭を抱えている。
どうしたんだろうか。
「罠とか、そんな可能性は考えないのかしら」
「結果おーらい!」
「……結果おーらい」
「もういい」
疲れてる疲れてる。
俺も気がつかなかったんだから何にも言えないしな。
結果いい場所にたどり着いたし、良しでいい。
「とりあえず、キャラバンが休んでる間に魔獣を狩るわよ。金策しないと」
「強いのは任せた」
「……ん」
なんと言っても俺は、基礎ステータスの一番低い普通の旅人だ。
「トキもよ」
「えー、俺、弱いよ?」
「私より強ければ十分強いわよ」
あ、完全にこの前の一言を気にしてらっしゃる。
断ろうにも引っ張り出される予感しかしない。
「それとも何?か弱い女の子を戦わせて自分は動かない気?」
「……その辺の魔獣より強いのにどこがか弱いん、ハイ、分かりました」
「分かればよろしい」
よろしいもなにもないだろ!?
今絶対か弱いどころか、女の子がしちゃいけない表情をしてたよ!?
「……とりあえず、目指すのは大陸の南側?」
「そうね、大陸の南から廻っていきましょう」
南からか、俺は来た道を引き返すことになるけど、旅の初心者には丁度いいだろう。
北側は寒いし、慣れてから行けばいい。
急ぐ旅路という訳でもないしね。
「んじゃ、目指すはグランドピーク。これからの旅の平穏を願って、乾杯!」
「……かんぱい」
「あーハイハイ、乾杯」
「……テンション低いなおい」
でもなんだかんだ言いつつ、ひざ立ちになった俺のコップにそれぞれ当ててくれる。
乾いた音を立てたコップ。
「ゆれるよー」
「おおっと」
ガタンとした揺れに体制を崩した俺は、二人に覆いかぶさってしまう。
その両手には、なにやらやわらかい感触。
確か二人とも胸当てをしてたし、
「ああ、腹か」
「よし分かった、歯ぁ食いしばりなさい」
「……お祈りする時間も、あげない」
「ちょ、ま、ぐえっ。ま、まて話し合おう!?」
よく見れば、胸当てに滑り込ませている俺の手。
いや、故意ではないよ?
故意じゃないって!?ま、まて、落ち着け二人とも!?
「誰の胸が、腹と間違うくらいの大きさだって……?」
「……お腹、そんなに出てない」
「まて、そんな魔法準備するな!?下の馬車壊れるから!?」
「そうね、なら、この一発だけにしましょう」
「……特大の、一発」
「いや、その光輝く手で殴られたら俺消し飛んじゃうから!?」
「「……天誅!」」
破裂音と聞き間違えるような、乾いた音が辺りに響き渡った。
***
――――――ジジ
「く、ふふふふふ、あはははははっ、あー、面白い」
「やっぱり、思った通り」
「あの子達を見てると退屈しないね」
「あーあー、真っ赤に腫らしてる」
「あれ、回復はしてあげるんだ」
「やっさしー」
「ああ、死にかけてたのね」
「そりゃそんなに力こめて両側から叩いたら」
「あ、全然平気そうね」
「あはは、お説教受けてる」
「あー、また余計な事言って」
「あははは、すごい怖がってる」
「あ、怖がられるのにはショック受けるんだ」
「へえ、慰めだすんだ」
「またお説教が始まった」
「ふふ、論点がずれてるし」
「ソウももっとがんばれー」
「あーあ、丸め込まれちゃった」
「口がうまいなーもう」
「って、あれ?誰かに見られてる?」
「おーい、あなただよーあ・な・た」
「おっかしいなぁ、気の所為?」
「まあいいや、そんなはず無いしね」
「あ、でも念のためー」
――――――ブツン
作者 「皆さんこんばんわ、後書き対談の時間です」
トキ 「またよろしくー」
作者 「GWの更新がほぼ無くて申し訳ないです」
トキ 「こうしてずるずると更新が遅くなっていく?」
作者 「……いいわけを」
トキ 「興味ないけど、まあ言うだけ言ってみ」
作者 「GWはUSB入れた鞄を忘れて実家に帰ったって言うのは前に言ったんですけど」
トキ 「帰ってから書けばよかったよね?最終日当たり早めに帰ってさ」
作者 「車で帰って、帰ろうと思っていた日に酒を飲まされまして」
トキ 「……じゃあ先週土日」
作者 「急に前に事故った車が帰ってくる事に、そしてスマホが死んで新しいのを買いに行き、その設定もろもろ」
トキ 「車?廃車ではないのか?」
作者 「直って帰って来ました」
トキ 「携帯は……ご愁傷さん」
作者 「それが、データ移行するときに復活、偶にぶつぶつ切れるだけの二台もちに」
トキ 「ほぼ壊れてるじゃねぇか」
作者 「そんな感じに余裕がなかったのです」
トキ 「……それでも少しくらい余裕があったと思うけどな」
作者 「気の所為です。というかたぶんまだスマホ設定終わってないです」
トキ 「ドンだけかかるんだよ」
作者 「最近の携帯めんどくさいですよー」
トキ 「いや、知らんけど」
作者 「まあ、別にそれはもういいです」
トキ 「いいのかよ!?」
作者 「最近携帯ゲームにはまってきているのは事実ですけどね」
トキ 「書け」
作者 「書きますよう」
トキ 「なら無駄トークはいいから本題行こうか」
作者 「はーい、今回は一章の閉めのお話になります」
トキ 「なんか唐突だよな?」
作者 「ホンとはユエ側の話を一話いれようかとも思ってたんですが」
トキ 「ですが?」
作者 「書いているうちにこちらのほうが綺麗にしまると気づいてしまったので」
トキ 「どんな話だったんだよ」
作者 「ん?ユエと商会のどろどろ取引?やらユエにも来ていた追手とか」
トキ 「入れれば良かったのに」
作者 「とてもテンポが悪くなります」
トキ 「今までテンポなんて気にしたことあったか?」
作者 「気分で創っているわたしのはなしですから」
トキ 「……」
作者 「さて、お話解説ですが……まあこれらはお店の馬車の屋根の上のお話です」
トキ 「念のため解説するが、キャラバンは荷車の集団を主体とした移動集団だ」
作者 「魔獣や魔物に襲われないために自分達だけでなく、目的地まで大勢で向かうことが主流となっています」
トキ 「といっても、商人だけ集まってもあまり意味はないからな。傭兵や冒険者、騎士なんかを雇って旅をする」
作者 「主に傭兵ですね。騎士は移動に向いていないし、冒険者はそもそも数が居ないので」
トキ 「冒険者が一般に知れ渡っているかと言うと怪しいけどな」
作者 「まあ、基本的に一人じゃ歩けない世界観ですから」
トキ 「その割りに」
作者 「トキやユエ、ソウは普通より強いです」
トキ 「……いやあ」
作者 「いや、トキの強いは逃げ足と悪あがきだけですよ?」
トキ 「知ってたよ!」
作者 「逆に言えばそれだけあれば一人歩きできます」
トキ 「ま、また一人歩きするにはソウをどうにかしないとだけどな」
作者 「そうやってまた心にもない事を」
トキ 「あと、最後のはなんだったんだ?」
作者 「何だと思います?」
トキ 「いままで話から考えるに女神以外ないと思うんだが」
作者 「その答えは皆さんの心の中に!」
トキ 「解説はどうした!?」
作者 「これを解説しちゃうと色々台無しなので」
トキ 「なんで俺に考えを言わせた」
作者 「笑うためですかね」
トキ 「ならいっそそんなに淡々とせずに笑えよ!?逆につらいよその無反応!」
作者 「と言う事で一章はこんな感じで終わります」
トキ 「最後までそうやってスルーなのな!?」
作者 「今週中に閑話を一話いれて、来週末から2章って感じですかね」
トキ 「……今回のが閑話って訳ではないのか」
作者 「閑話とは本編とはちょっと雰囲気の変わったものですよ」
トキ 「お前の話って関係ないところにころころ飛ぶじゃん」
作者 「一章の閑話は登場人物の考えが安定ですね」
トキ 「安定って」
作者 「私が長編書くと大体一章閑話は登場人物の考えなのです」
トキ 「ぶれないなぁ」
作者 「週の半ばで上げる予定なので、この対談は入るかは分かりません」
トキ 「ああ、気力的に?」
作者 「たぶん気力切れで書けません」
トキ 「この話ですら結構な遅れだしな」
作者 「二章始まればまた隔週更新です」
トキ 「まあ、流れは出来てるんだろ?」
作者 「そうですね。唯一つ問題が」
トキ 「何さ」
作者 「ストックがありません」
トキ 「書け」
作者 「アイ、サー」
トキ 「この調子の良さな」
作者 「と、言う事で今回はこの辺で」
トキ 「ああ、もう結構話したしな」
作者 「では皆さん、次回も終わる事のない夢の中でお会いしましょう」
トキ 「お疲れ様でした」
作者 「さて、設定見直しましょうか」
トキ 「……え?」
作者 「ああ、大丈夫です。大元の見直しはGW中に終わっているので」
トキ 「いや、え?終わってないの?」
作者 「さー夜はこれからです」