第15話
休みたい、そう思ったはずなんだ。
精神的にも、気力的にも、そう、思っていたんだ。
「なあ、どう見てもこの鍵、ひとつに見えるんだが」
「しょうがないでしょう。一部屋しかないって言われちゃったんだから」
「別に二人が良いなら良いんだけど」
「……いい」
「別に何かするわけでも無いでしょう。こっちには魔法力∞みたいなちーとが居るし」
「まあ確かに、何かしたら塵も残さず消されそうではある」
「……そんなに、強くしない。一晩氷付け程度」
「言っておくが、ノーマル人間の俺はそれ死ぬからな?」
「……じゃあ顔だけ出しておく」
「万全ね」
「不安しかない!?」
何もしなければ良いだけでしょう?と何も無いかのように笑うユエ。
そう言われてしまえば確かにそうなんだけど……。
宿屋は、崩れかけたビルを簡単に改装したもの。
見た目はぼろいが、中は大分小奇麗に纏まっていた。
一階が酒場になっており、傭兵なんかがよくここに泊まるとか。
ちょうど今日は団体さんが来たらしく、一部屋しか残ってないって顛末らしい。
ちなみに、部屋はベッド二つに長いソファが一つの簡易宿。
ただ、ユエが行きつけにしているだけあって、簡易シャワーが設置されている。
安宿なんかは、お湯の入った風呂桶渡されるだけってのもざらにあるんだが、ここは施設が生きていたようだ。
シャワーは、水や火、風などの精霊の力を宿した精霊石を組み込んで、魔力を流すとお湯が出てくるように加工されたものだ。
原理的には簡単なものだが、機構的に文明が後退した今では再現が難しい。
そのため、法術・魔術時代の遺物を修理したり、そのまま使いまわしたりで使用しているものが殆どである。
そんなでも、シャワーがあるってだけで宿としてのグレードは一つ上がると言っても過言ではない。
「さて、シャワー浴びるけど、覗かないでよね」
「覗くか!?」
「……しゃわー?」
「……トキ、この子シャワー知らないの?」
「そう言えばあの神社、湯船はあったけどシャワーは無かったな」
「ソウ、一緒に入りましょう。使い方を教えるわ」
「……ん」
そんな世界の常識的なところから教えないといけないんだよなぁ。
俺は準備をしているソウとユエを眺めつつ、ぼんやりとソファに腰掛けた。
と、ユエにナイフを投げつけられる。
受け止めて文句を言おうとする前に、逆に文句が飛んできた。
「下着とか出してんの、じろじろみるな」
「……めっ」
「あー、すまん」
目を背け、俺も荷物の整理をする。
……やっぱり、面倒な事になりそうだ。
期待されるような事は何もな……いや、ソウがふらっと出てきた以外は何も無い。
俺もその後シャワーを浴びて出てくると、ソウとユエはベットの上でなにやら話をしていた。
「つまりね、女の子にとっておしゃれや清潔感って言うのは一種の武器なわけ」
「……ふむふむ」
「それらを磨くことで……って、トキが帰ってきたわね。続きはまた今度にしましょう」
「……なんで?」
「別に続けてもかまわないぞ?」
そんな話、聞ける事なんて早々無いし。
と言うか微妙に言っていた事が気になるし。
「こういうのは、男に聞かれちゃいけないものなの」
「……効果が減る?」
「その通り。まあ、トキに聞かれたからなんだって気はするけどね」
「おい」
それは男として認識していないと言うことか?
襲うぞ?襲っちゃうぞ?
睨んでいると、ユエは肩をすくめて言ってきた。
「だって、ヤ……ソウと数週間一つ屋根の下で過ごして、何もしなかったんでしょう?」
「……ん」
「するかっ、こんなちっこいのに手を出すわけないだろ」
「……そんなに小さい?」
「まあ、まだ少し幼い感じはするわね」
ちなみに、もう少し大人な感じだったらどうなっていたかは分かりません。
今でさえ、これ以上無いってくらい綺麗な顔しているのに、成長したらきっとすごい事になるだろう。
そんな無防備な美人さん、放っておけるはずが無い。
そんな事を考えていると、ソウはなんだか不機嫌そうな雰囲気を出してベッドにもぐりこんだ。
なにやらユエは苦笑しているが、どういうことなのやら。
「……もう、寝る」
「はいはい、あ、トキはそっちのベッド使って、私たちは二人でこっち使うから」
「わかった」
そういって二人は毛布を被ってしまった。
てっきり俺はソファで、二人がベッドかと思っていたが、体の事を少しでも気遣ってくれたのかね。
確かに、今日はベッドでゆっくり休みたいところだった。
ありがたい事だ。
「あ、忘れてた」
「ん、どうした?」
寝ようとしていたユエが、ベッドに座り込んだ俺のほうに歩いてくる。
「優しく育め生命の神秘、其の鼓動と共に回復せよ―――ビート・ヒーリング」
「おお?」
ユエの詠唱で俺の体が光に包まれる。
ユエはあくびをしつつ、数秒間魔法をかけてくれた。
「ソウが寝ちゃったから、寝る前に軽くね」
「ありがたい」
「治療費は後で請求するとして」
「おい」
勝手にかけてお金を請求する医者が居るか。
と、ユエの雰囲気が変わる。
真面目な話らしい。
「宿の人には事情を話して、私が帰ってきたことは広めないでもらっているわ」
「ああ、確かにそこから広がったら領主が来かねない」
しかも下は酒場、情報が飛び交う場所だ。
そこと兼用しているって事は、情報屋も兼ねているんだろう。
「ついでにいくらか渡して、領主の話を広めておいてもらうことになったわ」
「……その情報は逆にお金がもらえるんじゃないか?」
「そうね、裏が取れたらもらえる事になってる」
ばれたか、と舌を出すユエ。
……あざとい。と言うか油断ならねぇ。
「それならほら」
「これは」
鞄に放り込みっぱなしだった、隊長の財布を取り出して渡す。
中には今回の作戦の指令所が入っている。
あの神社にあるナニカを手に入れる。と言う分かりきった内容だ。
「財布の中、これだけ?」
「後は護符がいくつかと宝石類、お金くらいか」
「それは?」
「俺の財布の中」
「……べつにいいけど」
いいだろー、今回の件でそれでも赤字だぞこっちは。
一応大事そうなものは残してあるんだから、問題は無いだろう。
「これは明日、宿の人に渡しておく」
「よろしく」
「ちなみに」
「うん?」
「分けないわよ?」
うん、知ってた。
別にそんな事を望んでいるわけじゃない。
「良いけど、それでソウの旅準備をしてやってくれ」
「……お人よしねぇ。あなた」
「お人よしは人の財布をすらないよ」
「たしかに」
「ほれ、こっちも少し出すから」
隊長から奪ったお金をいくらか渡す。
残りは旅の食料とか、装備の整備で消えるだろう。
「はぁ、わかったわよ。足りない分はこっちで出しておく」
「頼んだ」
なにやら落ち込んだ感じのユエはとぼとぼとベッドに戻っていく。
……俺も寝るとしますか。
トキ 「とうとうやらかしやがった」
作者 「先週は更新無理でした。申し訳ないです」
トキ 「絶対いつかやると思ってたんだよなー」
作者 「先週は実家に帰って書こうと思っていたのですが、まさか自宅PCがお亡くなりになって居るとは」
トキ 「ネットがつなげられないんだっけ?」
作者 「ハイ、繋げてしまうとなぜか親父の仕事PCがネット切れると言う不思議」
トキ 「夜中にでもつなげさせてもらえばいいのに」
作者 「夜中まで仕事している系のお人です」
トキ 「……それでもどこかで」
作者 「つなげると暫く一定時間回線が死に、つなげるためにルーターとPC再起動と言うくそ面倒な使用です」
トキ 「PC買え」
作者 「向こうには殆ど行ってないですし、帰るかどうかしない限りは買えないですね」
トキ 「まあ、無駄だしなぁ」
作者 「って事で今週はちょっとだけ張り切って書きましたので来週は長いです」
トキ 「今週短いけどな」
作者 「先週は本気で何も書けてませんもん」
トキ 「……」
作者 「いや、申し訳ないです」
トキ 「まあいいや、いい加減に話し進めようか」
作者 「はい、今回のお話ですね」
トキ 「と言うか短すぎじゃないか?今回」
作者 「改めて見ると本当に短いですね」
トキ 「なんていっても宿にたどり着いて寝るだけだからな」
作者 「しかもイベントっぽいところ飛んでますしね」
トキ 「……あれはほんとに何も無かったぞ?子供だしな」
作者 「そんな言い訳は」
トキ 「精々其の後ユエが慌てて連れ戻しに出てきた位だな」
作者 「書けば良かった」
トキ 「自分でなんだが何で書かなかったんだ?」
作者 「数行の会話を入れるとテンポ悪くなるんですよ」
トキ 「テンポて」
作者 「大事ですよ?行のテンポ」
トキ 「大事だけど、文字数も大事だろ」
作者 「さて、今回はそんなに気になる事も無いですね」
トキ 「そういえば財布、出てきたな」
作者 「消えてませんでした。ってことにしてください」
トキ 「ざつー」
作者 「中身取ったんだし、あまり気にしないでください」
トキ 「どうせ消耗品で消えるがな」
作者 「消えますけどね」
トキ 「……次回予告で」
作者 「はいはい、次回はアルベルト卿本人が出てきますよー」
トキ 「お、今まで名前だけだったしな」
作者 「どうなる事やら」
トキ 「あれ?分かってないの」
作者 「流れは考えてますけど、本人のキャラはどうなるやら」
トキ 「決めとけよ……」
作者 「まあ何とかなります」
トキ 「うわぁ」
作者 「ってことで今回はこんなもので」
トキ 「こっちもみじかいな」
作者 「眠いですー」
トキ 「やるきねぇ」
作者 「今、朝4:30、明日一謹」
トキ 「寝ろ」
作者 「寝ないほうがいい気もしてます」
トキ 「そんなだからすぐに風邪引くんだ」
作者 「すでにコーヒー飲みすぎて気持ち悪いです」
トキ 「……駄目だコイツ」
作者 「と言う事で、次回も終わらない夢の中でお会いしましょう」
トキ 「……しましょう」
作者 「ね、寝よう」
トキ 「寿命がマッハだな」