第11話
「導くは灯篭、我が武具に宿りて触れしモノを灰燼と成せ―――アーティファクター・ブレイズ!」
入り口付近に立った隊長は、自らの長剣を炎で包む。
炎の灯りに照らされて神社内が明るく染まる。
詠唱で想像がつくが、武器に炎を纏わせる魔法だろう。
こうなっては陰に潜んでいても見つかるのは時間の問題だ。
ただ、同時にチャンスでもある。
あの長剣が灯りだというのなら、常に死角があると言うことだ。
俺はソウを置いて、相手の後ろ、長剣から真逆の位置の影に忍び寄る。
相手が辺りをきょろきょろと見回している隙に、出来うる最速の一手で終わらせ―――
―――キィンッ
……られないようだ。
「そちらから来るのは分かって居た!分かって居るなら受けることもたやすい!」
「……なんだ、読まれてたのか」
「毎回簡単に行くと思うなよ!この火事場泥棒が!」
「少なくとも、火事を起こした奴の台詞ではないと思うぞ。っと」
お返しとばかりの斬激を避けつつ距離をとり、返事をする。
相手はそのまま武器を構えてこちらを見ている。
どうやら無理して攻めて来る気は無いらしい。
しかし火事場泥棒、なかなか的を得ているのか?
前回も前々回も、結局ソウが引き付けている内に手柄を分捕ったようなもんだし。
でもあの結果になったのは、お前らがソウに集中しすぎたのが原因だろう。
そう伝えると、隊長は急に余裕そうな態度になっておしゃべりを始めた。
「当たり前だ。脅威となりうる相手があの小娘一人なのだからな。お前一人なら、精々私を足止めする程度に過ぎん」
「お前ぐらいなら倒しちゃうつもりで居るんだけど」
「ふん、やってみろ!」
初手の刺突をかわし、相手の攻撃を避ける事に専念する。
逆風をかわし、袈裟切りをかわし、左凪を弾き、唐竹を避ける。
息をつくまもなく迫り来る斬激をひたすらに避け続ける。
「どうした!避けるだけでは私は倒せんぞ!やはり口だけか!?」
なにやら調子に乗っているが、無視。
相手の手元と目の動きを良く見て、避け続ける。
右切り上げ、刺突、左凪、右切り上げ、唐竹・・・。
一つ一つ丁寧に避け、弾つつ、大体相手の動きが読めてきた。
こんな事をする割には、とてもきれいな剣だ。
道場なんかで引きこもって覚えたような剣である。
これなら反撃していっても問題は無いだろう。
右凪を受け流して出来た隙に蹴りを叩きこむ。
攻撃を受けて怯んだ所に左凪で切り込むが弾かれる。
「ぐ、う、貴様っ」
「別に、剣しか使わないなんて言って無いよ」
しかし、結構思いきり蹴ったのにダメージは殆どなさそうだ。
一瞬怯みはしたものの、動きが鈍くなったりはしていない。
まっすぐにこちらを睨み付けてくる。
それでも、こいつ一人だけなら脅威にはなりえない。
速く、重く、硬いがそれだけだ。
確実に隙はあるし、動きは読みやすい。
とりあえず攻撃を通すには……、
「そこっ!」
「くっ、この!?」
一転、こちらが攻勢に回る。
攻め始めれば当然だ。
こちらの武器は短く取り回しの良いもの。
対して相手は取り回しは悪くは無いが、長剣だ。
懐に入った今の状態ならば、こちらのほうが速い。
数手打ち合えば攻撃が……入る。
「これで、どうだ!」
「ぐ……ふん、かかったな!」
「なにを……げ、抜けない!?」
「燃え尽きろ!」
相手の脇周辺に差し込んだ刀が抜けず、動きの止まる俺。
そこに一層炎を強くした長剣が真上から迫る。
咄嗟に刀を放し、さらに距離をつめる。
ただでさえ近接の距離だったのが、これでほぼ密着状態だ。
相手は剣を振り下ろせないと分かると、掲げた剣をそのまま凪ぎ下ろそうと構えを変える。
が、遅い。
剣が振ってくる前に相手の胸倉を掴み、投げ落とす。
息をつく間も与えずに、刀を取り、引きちぎるように斬り抜いた。
「がっ、あ!?」
「最後の瞬間に、油断をするのは命取りだよ」
「ぐ、うう……くく、くくくく」
「うん?」
止めを刺そうとしたところで、突然笑い出す隊長に違和感を感じて距離をとる。
何だろう。斬られて笑い出すとか、そう言う趣味の人なのだろうか。
……それだと勝てる気がしないんだけど。
長剣を見れば火が消えているからダメージは相当入っていると思うんだが。
ちょっと見ていても、寝たままひたすらに笑い続けている。
「くくくくく、残念だったな。これで積みだ」
「何を言って「……うあっ」……ソウ!?」
慌ててソウのほうを向けば、力なく倒れて居るソウと、勝ち誇った赤毛の獣人。
完全に戦いに気取られて、もう一人の敵の事を完全に失念していた。
いや、気づくべきだった。
別の場所で聞こえていた爆発音は鳴りを潜め、木材の燃える音のみがこの場を支配している。
おそらく、ある程度の破壊活動の後に合流する手はずだったのだろう。
「……だめ、トキ、うしろ」
「ぜえや!」
「っ!?」
ソウの嘆きに意識を取り戻し振り返れば、いつの間にやら立ち上がった隊長が、剣振りかぶっている。
立ちぼうけてしまっていた俺は、咄嗟に刀で防御することしか出来ず、体ごと壁まで吹っ飛ばされてしまった。
壁に叩きつけられ、地面に落ちるときには、目の前には隊長の姿。
駄目だ……避けきれ、ない。
―――どずん
目の前は真っ白に染まる。
感じるのは、腹を貫く焼け付くような熱さと痛み。
火が消えたとはいえ、未だ冷えぬ熱が体の中を焦がしている。
体の末端は痺れた様に動きを止め、心臓の音がやけにバクバクと耳に残る。
「……あ、あぁ…トキ」
「ぐ、うぅ」
「ふん、終わり際はあっけないな」
剣を振ると同時に腹から抜かれ、俺はそのまま床に転がされる。
抜けた拍子にさらに何処かが斬れた気もするが、一瞬で焼かれ血は出ない。
血が出ない代わりに、何か大事なものが体から抜け落ちて行くようで、だんだんと力は抜け、意識が朦朧としていく。
「こいつ、どうします?」
「ふん、直に死ぬ、放っておけ。それよりこの娘だ」
……こんな所で終わる訳にはいかない。
こんな簡単に、あっさりと、全部、終わらせるわけには、いかない。
「……トキ……トキぃ」
そんな風に体を奮い立たせても、体は動かず、辺りの景色とは逆に急速に冷え切っていく。
心臓の音はだんだんと、聞こえなくなっていき、目の前はゆっくりと、暗くなっていく。
ソウの涙が、うっすらと見えて、そして、何も見えなくなる。
は、はは、なんだ、涙、流せるんだな、ソウ。
……終わるのか、こんな所で、―――あのときのように。
最後に焼きついたソウの泣き顔が、夢でしか知らぬ母親の泣き顔に被る。
そうだ、あの時も、こんな風に―――
―――燃える、燃える、燃える。
今まで暮らしていた家、使っていた家具、着ていた衣服、育てた野菜。
全てが真っ赤に染まり、燃えていく。
大勢の黒い影が、炎の向こうに見えている。
ああ、これはいつもの夢か。
状況も似ているし、これが、最後の見る景色か。
ならばと、辺りを見回そうとして気づく。
そう言えば、視界は動くのに、体が動いている気がしない。
いつも出てくる両親らしき人たちも見当たらない。
その代わり、見えないところでなにやら戦っている音が聞こえた。
ふと、その音が止み、こちらに駆け寄ってくる音が聞こえる。
「―――っ!―――っ!」
急に、視界いっぱいに女の人の顔が映った。
整った綺麗な顔は、涙で歪んでいる。
必死に何か、おそらく自分の名前を叫んでいるが、良く聞き取れない。
さらに視界が段々と暗くなっている。
先ほどと一緒だなとお腹を見れば、なるほど。
子供である自分の身長ほどもありそうな矢が、お腹から生えている。
女性が何かを嘆くと、お腹の弓矢は消え去り、穴だけが残る。
どうやら女性は傷は治せないようで、いくらぶつぶつと嘆いても穴が消える事は無い。
「ごめんね、ごめんね―――!###はやく!死なないで!」
女性は誰かを呼んでいる。
おそらく、父親らしき人のほうだろう。
あちらはこの穴が消えるほどの回復魔法が使えるるようだ。
自分ではどうしようもない。と女性は顔を歪ませて泣き叫ぶ。
―――そうだ、この顔と、ソウの泣き顔が被って、こんな夢を見ているのかもしれない。
いつもの夢ではお腹にこんな穴など無かったから、たぶん父親らしき人が間に合ったんだろう。
それともこれはまた別のシーンなのだろうか。
女性の叫びに何度も意識を引き戻されながら暫く、誰かが駆け寄ってくる音が聞こえる。
「###!―――を助けて!」
「なっ!―――!もう大丈夫だ!死ぬなよ!」
男性が何かを嘆くと、俺の体は光に包まれ―――
作者 「ハイどうもこんばんわ。後書き対談のお時間です」
傭兵 「どうも、名前すら出てきていない傭兵よ」
作者 「いやー、トキが死んじゃってソウもちょっとこっちに来れ無そうな状態なので、一番暇そうな傭兵さんを呼んでみました」
傭兵 「暇と言うか、一応私も死にかけよね?」
作者 「トキに比べれば安い安い」
傭兵 「死んだのと比べられても」
作者 「んー傭兵さん、トキが死んだって言うのに軽いですね?」
傭兵 「どうせ生きてるんでしょう?あなたがその程度のテンションなら」
作者 「作者のテンションで話を推測するの止めてくれません!?」
傭兵 「まったく、何のためにこちらも虎の子の切り札を渡したと思っているのよ」
作者 「ちなみに、何渡したんです?」
傭兵 「言っていいの?」
作者 「ダメですよ?」
傭兵 「さて、とりあえず今回の話の紹介よね」
作者 「うう、傭兵さんメンタル強くてつまらない」
傭兵 「やらないの?」
作者 「やりますよう。今回はトキVS隊長―トキ暁に死す。な回でした」
傭兵 「まあ、間違ってはいないわ。でもまともに戦えばトキが圧倒していた感じだったけど」
作者 「剣技だけで言えばですね。隊長さん魔法も魔法剣しか使ってなかったですし」
傭兵 「隊長が手加減していたって事?」
作者 「あくまで隊長の狙いは時間稼ぎ。本気ではあったけど、負けても良かったんですよ」
傭兵 「まんまとトキ・ソウはしてやられたわけね」
作者 「だから油断が猫をも殺すと言ったのに」
傭兵 「油断していなくてもあの場はどうしようもなかった気がするけどね」
作者 「逃げればよかったんですよ。”なにもない”をすてて、ソウをおいて」
傭兵 「トキの性格でそれが選択しにあると思う?」
作者 「ありますよ?常に頭上に輝いています」
傭兵 「……私が聞いた話だと、たぶん無いって」
作者 「確かに、選んだ事は無いですが、常に選択肢として考えています」
傭兵 「チキンなの?」
作者 「自分の力量を正確に把握しているがためですね」
傭兵 「……ああ」
作者 「自分の力量把握は大事ですから、特にこの世界では」
傭兵 「そうね。把握できていない奴から死んでいくわ」
作者 「ゆえに死にました」
傭兵 「把握できていなかったの?」
作者 「実力に見合わぬ油断で隙をつかれてどん」
傭兵 「実力不足と」
作者 「どうしようもなかったと言えばそうなんですがね」
傭兵 「まあ魔法も使えず良くやったとは思うわね」
作者 「さすが歴戦の傭兵、上から目線ー」
傭兵 「うっさい」
作者 「さて、何か他に解説必要なところとかある?」
傭兵 「あの魔法とか?此処では魔法剣についてまで話していないってかいてあったけど」
作者 「魔法剣は主に武具に属性を纏わせる魔法ですね」
傭兵 「火なら熱、雷なら痺れ、風なら切断力アップと言う具合ね」
作者 「一応、武器の形を魔法で作り出すと言う派生もありますが、それはそちらは魔法創剣と呼ばれます」
傭兵 「剣ってつくけど、特に形に指定は無いのよね」
作者 「はい、鞭とかハンマーとかでも全部魔法剣と呼ばれます」
傭兵 「単純に攻撃力アップと思っておけばいいわね」
作者 「そんな感じでたぶん大丈夫です」
傭兵 「今回のように戦闘に使える灯りという使い方も出来るのね」
作者 「たいまつ片手に戦闘は疲れそうですしね」
傭兵 「単純に危ないわ」
作者 「と、言う事で次回予告に入りましょうか」
傭兵 「そうね」
作者 「炸裂!ソウの決死の一撃!世界を作った創世の光!?~あれ?これ傭兵死んだんじゃね?」
傭兵 「…え?何があったの?私外にいたわよね!?」
作者 「大丈夫ですよ、傭兵さんは死にません。……たぶん」
傭兵 「確証のなさ!?」
作者 「そんな感じでソウの極位まほうが炸裂します?」
傭兵 「え、決まってないの?」
作者 「ふふ、どうせ来週も書く時間無いんだー、一謹確定なんだー」
傭兵 「ああ、またなのね。と言うか書き始めてから一謹ばかりじゃない?」
作者 「だいじょうぶです。退職願は書き始めてます」
傭兵 「大丈夫じゃない!?」
作者 「5連一謹とか、一年目以来じゃなかろうか……」
傭兵 「あー、作者が壊れ始めたので今日はこの辺で」
作者 「では、次回も終わる事の無い夢の中でお会いしましょう」
傭兵 「お疲れ様でした」
作者 「仕事、さがすかな」
傭兵 「本気で止める気でいる!?」