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7 外

「・・・だ・・んし・・・でて・・・い」


夢と覚醒の微睡(まどろ)みの中小さく話し声を聞く。


「さっさとあげて・・・ないんすかね」


少しずつ判明になる意識でぼんやりと音を耳に入れる。


「だから安心しろと言ってる。口ばっかり動かさないで手足を動かせ」

「でも先輩。こんなところで安心しろなんて無理な話っすよ」


二人。壁の向こうにいる何者かが話し込んでいる。

―だ、れ・・・だ?


「この睡眠ガスもしっかり効いてんすか?なんたって25人もいるんすよ?」


「!?」

ガスという言葉で意識を失った時間以外のすべてを雪崩のように思い出す。移動中。白い煙。倒れた25人。そして・・・


―ラントと兄ちゃんは!?


兄妹の無事を確認するために がちゃんと音を鳴らしながら起き上がろうとする。

しかし、そっと頭を押さえられ動きを止める。


―!? 誰だ!


と叫ぼうとしたが、ふわりとこそばゆいものが鼻を(かす)め、そこではたと気づく。

同じ顔。同じ目つき。

薄暗い中でもよく見える赤髪。

僕と同じパーツをもった少女。

ラントだ。


僕をしっかり見据えながら彼女は静かに唇に指を当てる。


「ん?コンテナで音がしなかったっすか?」

「そんなわけがない。何か大きな衝撃を与えない限りあと1時間は目を覚まさない」

「その間に奴に襲われたりしないんすか?」


―奴?


何とか声を抑える。

はっきりと聞こえるようになったとはいえ、会話の内容が上手くくみ取れない。


「質問がえらく多いな。お前この作業2回目だろう」

「前回は奴がすぐ寄ってきたんで即座に退避したんっすよ」


―寄ってくる?退避?


理解できない話が淡々と進んでいく。

それ以前にこの2人の声の主は誰なのか。


薄暗い「こんてな」の中を見回す。先程までの僕と同じく23人は深い眠りについており、ラントは壁の向こうに耳を(そばだ)てている。

孤児院の子供25人は全員この大きな箱の中にいる。


それ以外に2人いるとすればそれは・・・


「寄ってきて退避したってことは、奴の食事シーン、見たんだろう?襲われてるの見てるんじゃねえか。いまさら何びびってる」

「やだなあ先輩。怖いんじゃなくて、もう一回見たいんすよ。食事シーン。退避中ならよく見えますんで」

「・・・お前。悪趣味だな」

「?そうすか?・・・あ!お迎え来たっすよ。早く行きましょう!」

「・・・食事シーン見たいんじゃねえのかよ」

「襲われるのはごめんなんで。命あっての物種っすよ・・・っと、よし!これで(かんぬき)を外せばお仕事終了っす」


かちゃんっ


軽い音がして閂が外れる。


その後声は聞こえなくなった。


「ふう」


いつの間にか詰めていた息をいっぺんに吐き出す。


全体を通してよく理解できない内容だった。

しかし、嫌な予感はする。


ラントと再度目を合わせ、同時にお互いがこくりと頷き重い扉をあける。



新鮮な空気が肺を刺激する。ぼんやりとしていた頭が突然クリアになり、しかし、今目の中に飛び込んできた景色に一瞬思考が止まる。


首都ではない。

それどころか町ですらない。


鬱蒼とした森。


360度見栄えのない深緑の森。少し()えるものがあるとすれば見たこともない白い石と、自然の中無機質に鈍色(にびいろ)の光を放つ「こんてな」だけだ。


「どこだろう」


ラントが呟く。


「首都、ではないな」


大した情報量を持たない見解を述べる。


そういえば・・・


「そういえばさっきの2人、誰なんだ。もういないみたいだし・・・ラント、お前いつ起きて、どこから会話聞いてた?」


「ディヴェルトが起きる1分ぐらい前。会話もそのあたりから。何となく危なそうだったから静かにしてたけど」


思考より勘を優先させたようだ。ラントらしいがそれで正解だったような気もする。


ふと、「とらっく」の操縦席が目に入る。大方の想像通り、そこから「とらっく」を操縦していたはずの黒いつなぎの業者が消えていた。

首都への道のりで投げ出されたのだろうか。

どういう理由で・・・?

そもそもここはどこだ?どのくらい寝ていた?首都近くまで来ているのだろうか?


謎が深まるばかりで何も解決しない。


「兄ちゃん達起こそうか」


僕はラントに提案する。


「そだね」


妹も何も答えが出せなかったようで同意し、つま先を「こんてな」へ向ける。


「にしても、ほんとここどこな・・・・・・・・・・・」



会話で不安を和ませようとしたときそれ(・・)が目に入った。


あのとき見た景色の一つ。


大国ファルベを囲む巨大な漆黒の壁だ。


それだけなら問題ない。

おかしな点が二つある。


一つ目は(そび)え立つ崖の上に壁があること。夜景を見たときにはこんな崖無かった。


そしてもう一つ・・・


心臓が早鐘を打ち始める。


最もあってはならないこと。認めてはならないこと。


あり得ないはずのことがしかし、現に目の前に現れてしまっている。

それは・・・・



腹を向ける形で国内を囲う壁が今、なだらかに丸まった背を僕らに向けている。



あの時の美しく僕らを包み込んでいた黒の壁が今、僕らを外へ突き落とした。


壁が僕らを拒んでいる。


そう、僕らは今、国の外にいる。




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