6 首都へ
「とらっく」の中は小さなランプだけが足下を丸く照らしており奥までは見えないが、外見からして25人が乗るには十分な広さだ。
全員が乗り込むと狭苦しさは感じるが息苦しさが無いことから、どこかで空気を循環しているのかもしれない。
「こんてな」の扉越しに教師共が見える。
黒いつなぎを着た「とらっく」の持ち主二人がその重い扉を閉める。
直前。みんなそろって教師共に向けて舌をべぇっと突き出した。
閂のようなものがかけられ「とらっく」が動き出す。
尻に気持ち悪い振動がやってきて わぁっと多数の者が立ち上がり、一瞬の沈黙の後 どっと笑いが起きる。
初めてのこと何もかもが楽しい。
そしてこれからはその楽しさが山のようにあるのだ。
笑いが止むはずがない。
―みんなおもしろそうな奴だ。
高々百数十名の子共を抱えた孤児院の中でも、やはり顔に覚えのない者はいる。それでも彼らの心の内はよく分かる。手をつなぎ喜ぶ男女。お互いのにやけた顔を指摘しあう親友たち。踊り狂う少年達。きゃっきゃと鳴く幼女達。
酔ったように騒ぐこの25人のなかにアルバスを含めたあの30人の悪友が全員いないことが残念で堪らない。
だが首都に着けばいくらでも分かち合える。
孤児院の食事の時間と同じで、僕らの周りは止むことのない笑い声に包まれるだろう。
そう。首都。あの煌びやかな都・・・僕は・・・僕らは今か、ら・・・あの・・・場し・・・あ、れ・・・あ、たま・・・お・・・も・・・
「!?」
おかしい。
気がつけば周囲の喧噪が消えている。
そして、騒がしさのかわりに白い煙が「こんてな」の中に充満している。
数瞬前まで無かったその靄の中全員が倒れ伏しているのが見える。
幼女に青年、そしてリヒトやラントも。
―なんだ、これ。
聞いてない。こんな煙が出るなんて。
そうだ、聞いていない。
首都のどこに着くのかを
首都で何をすればいいのを。
首都に行ける理由を。
なにもかもを。
聞いていない。
「にい・・・ちゃ・・・ラ・・・ン・・・」
上下の判断がつかなくなる。
ガシャンと「こんてな」の底が音をたて、耳に摩擦が起きた熱さを感じる。
襲い来る倦怠感。
小さなランプの光が暗闇に引きずり込まれる。
そして光と同時に僕の意識も闇の中に吸い込まれた。