表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/27

6 首都へ

「とらっく」の中は小さなランプだけが足下を丸く照らしており奥までは見えないが、外見からして25人が乗るには十分な広さだ。

全員が乗り込むと狭苦しさは感じるが息苦しさが無いことから、どこかで空気を循環しているのかもしれない。

「こんてな」の扉越しに教師共が見える。

黒いつなぎを着た「とらっく」の持ち主二人がその重い扉を閉める。

直前。みんなそろって教師共に向けて舌をべぇっと突き出した。


(かんぬき)のようなものがかけられ「とらっく」が動き出す。

尻に気持ち悪い振動がやってきて わぁっと多数の者が立ち上がり、一瞬の沈黙の後 どっと笑いが起きる。


初めてのこと何もかもが楽しい。

そしてこれからはその楽しさが山のようにあるのだ。

笑いが止むはずがない。


―みんなおもしろそうな奴だ。


高々百数十名の子共を抱えた孤児院の中でも、やはり顔に覚えのない者はいる。それでも彼らの心の内はよく分かる。手をつなぎ喜ぶ男女。お互いのにやけた顔を指摘しあう親友たち。踊り狂う少年達。きゃっきゃと鳴く幼女達。

酔ったように騒ぐこの25人のなかにアルバスを含めたあの30人の悪友が全員いないことが残念で堪らない。

だが首都に着けばいくらでも分かち合える。

孤児院の食事の時間と同じで、僕らの周りは止むことのない笑い声に包まれるだろう。



そう。首都。あの(きら)びやかな都・・・僕は・・・僕らは今か、ら・・・あの・・・場し・・・あ、れ・・・あ、たま・・・お・・・も・・・


「!?」


おかしい。

気がつけば周囲の喧噪が消えている。

そして、騒がしさのかわりに白い煙が「こんてな」の中に充満している。

数瞬前まで無かったその(もや)の中全員が倒れ伏しているのが見える。

幼女に青年、そしてリヒトやラントも。


―なんだ、これ。


聞いてない。こんな煙が出るなんて。

そうだ、聞いていない。

首都のどこに着くのかを

首都で何をすればいいのを。

首都に行ける理由を。


なにもかもを。


聞いていない。


「にい・・・ちゃ・・・ラ・・・ン・・・」


上下の判断がつかなくなる。


ガシャンと「こんてな」の底が音をたて、耳に摩擦が起きた熱さを感じる。


襲い来る倦怠感。


小さなランプの光が暗闇に引きずり込まれる。


そして光と同時に僕の意識も闇の中に吸い込まれた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ