5 旅立ちの朝
旅立ちにはふさわしい朝だ。
何にも遮られることなく届く太陽の光が、乾いた早朝の空気の中に溶け込んでいる。
そんな午前5時。
孤児院の校庭には3台の「とらっく」とやらが止まっている。
すべての景色が日光を受け入れる中、この銀に輝く物体だけがその光を受け付けない。
どこから声が出ているのか、ぶるんぶるんと嘶いている。
校庭には「とらっく」なる乗り物だけでなく、数十人の子供達も一様に興奮しながら、しかし遠巻きに押っ立っている。
10歳をすぎた子供、計78人が校庭に集まっている。
これらすべて僕らと同じく首都へ向かい、生活をしていくもの達だ。
もちろん10歳児もいるが、首都で一人になるわけではない。ある程度成長するまでしっかり年長のもの、主に18歳以上が面倒を見ることになっている。
それ以外の少年少女にしても、僕ら然りおそらく3人ほどのグループを作って楽しく暮らしていくのだろう。
10年に一度。10歳以上のものにだけやってくる首都行きのチケット。今19歳の人はどれほど待ち焦がれた機会なのか・・・。15年間辛い日々を過ごした僕にも半分ぐらいは分かる。
劣悪な環境からの脱却だ。風呂もない。トイレもない。食事はまずく、授業は王様の自慢話だけ。後はひたすら厳しい訓練だ。今思うと訓練など首都で必要なのか、疑問である。疲れて帰ったらぼろ小屋で寝る生活。座学で間違えても鞭。訓練で遅れると鞭。病に伏しても鞭。唯一楽しかったのは、授業後の自主訓練と食事の時間だろう。
今隣にも食い入るように「とらっく」を見つめる青年がいる。横に10歳ほどの少女を据えているところから、この青年が18歳以上であることは明らかだ。
僕の視線に気がついた彼は少し仏頂面で尋ねる。
「なんだ、俺の顔になんかついてるか?」
「ああ、いや。あなたも1番の「とらっく」に?」
「俺たちだ」
「失礼。あなたたちもこれに?」
少しおっかなそうな人だ。強面で、この人の笑顔が想像できない。
「ああ。1番だ」
「ねえ、お兄ちゃん。お兄ちゃんはあのつよーいお兄ちゃん?おんなじ箱にのるの?」
隣の幼zy・・・・隣の少女が声をかけてくる。
「強いかどうかはおいといて確かに1番だよ」
「じゃあ、隣の強いおねえちゃんも?」
ぼけっと幼女の・・・少女の言う「箱」を眺めているラントを指さす。
それを察知したラントは
「お?幼女ちゃん。どした?」
幼女言っちゃった。
「この人達も同じ「とらっく」らしい」
「なるほど。私はラントだよ。こっちはディヴェルト。よろしく幼女ちゃん」
「よーじょちがうよ。なまえはね・・・」
ぷあああああああああああああああああ
身がすくむような音が鳴る。「とらっく」の鳴き声だ。
「乗り込めっていう合図だな」
さっきまで食い入るように見つめていた勢のリヒトがつぶやき、「とらっく」の「こんてな」に向かう。
「また、中でお話ししようか」
「うん!」
幼女に笑いかけ自らも歩を進める。
今回中途半端になりそうだったので、少し短いですが一度区切ります。