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3 計画

「さっきの訓練は俺たちの勝ちだ・・・約束、問答無用で守ってもらうぞ?」

「・・・ああ。わかってる」


時刻は19時。宿舎の食堂で夕飯をとる子供達が仲のよい者同士で談笑している。

わいわいと百数十名が席に着いている。

その一角・・・

僕やラント、リヒトを中心として不穏な輪ができている。顔を寄せ小声で話し合うその姿は怪しげでありながら、顔や手足に絆創膏がはられた数十名が一様に尻をつきだし円になっている様子はそこはかとなく滑稽だ。


リヒトが作戦の確認をする。


「じゃあ、はじめの計画通りお前らが教員どもを引きつけてくれ」

「11人の教員を30人で引きつけるとなると・・・食中毒のふりだけでは難しくないか」

「そのあたりはアドリブ力に期待する。ほんの10分でいいんだ」


ガキ大将のような体格の少年・アルバスはその言葉を受け未だ渋い顔をしたまま小さく頷く。


その表情を見た僕は少なからず心配になり、大きな落ち度がないか再度作戦をまとめ上げる。


「今から30分後、君らが何らかのアクションを起こす。その隙に僕ら三人は夜間の外出禁止時間に外へ出る。10分後何もなかったかのように戻ってくる」

「ふぁれへふぉいいんふぁふぁいふぉ?」

「・・・ラント、口に丸ごとパン入れるのやめとけよ」


呆れつつも僕は何かを発言しようとしている愚妹に視線をやる。


「それで何だって?」

「んぐ。・・・ばれてもいいんじゃないの?明日になればどうせここにいるみんなこの孤児院からおさらばするんだし。罰則なんて怖くないっ。みんなで外出ようぜっ」

「そんなことしたら首都に住み始める時に僕らの評判が悪くなるだろ。孤児院育ちのくせに首都で働かせてもらうんだ。ただでさえ良い評判なんてたたないだろうに」

「評判悪くてもここでの暮らしよりずっとマシでしょ」

「まあ、そうだけど・・・」


辺りを見回す。

長机は傷が無い場所が見つからないくらいボロボロで、椅子にいたっては安易に座るとその脚すべてがいっぺんに折れる。今もあちらこちらから「うあああああ!~ちゃんが消えたあ!」「お、俺の尾てい骨がっ」「~君、大丈夫!?~君・・・大変!息をしていないわ!」なんて悲鳴が聞こえてくる。

・・・いや、息をしていないのはまずいだろ。

床や壁も同様に向こう側が見える始末で隙間から吹き抜ける風が、壁に貼られた「電気は大切に!使用は1日1時間」という紙を今にも飛ばさんとしている。

大きなぼろ小屋。

矛盾しているが、そんな評価が妥当なところ。

食堂に限らず、寝室、風呂場も似たようなものである。

隣接している座学のための校舎はさらに酷い状況だ。


「確かに首都の暮らしはどんなに酷くてもここよりは快適だろ。でも無理して問題起こす必要もないし」

「意気地なしー」

「慎重なだけだ」


慎重というよりも心配性という方が的確ではあるが。


「じゃあディヴェルトは外出るのやめたら?」

「・・・ラントだけだと大ぽかするに決まってる」


そんな僕とラントのやりとりを見てリヒトがケタケタと笑い出す。


「いやあ、性格は本当に似てないよな。お前ら双子なのに」

「ちょ、同じ日に孤児院前に捨てられてたからって双子とは限らないじゃないか」

「限るね。何たって性格は真逆でも顔は全くもって同じだからな」

「僕はあんなに目つき悪くない」

「ラントはお前ほど目つき悪くないぞ?」

「・・・」


言われた通り輪郭も髪色も、もちろん目つきも似ている。というかほぼ同じだ。認めたくないが。

言葉に詰まる僕を見てまた義兄が笑う。


「楽観的なのも慎重なのも良いが、まあここは聡明なお兄様に任せてくれよ」


自分で言うのはどうかと思う。確かに僕ら双子と違い頭脳明晰ではあるが。

なんと返そうかと言葉を選んでいる間に横槍が入る。アルバスだ。


「そもそも三人は何をしに外へ出るんだ?」


もっともらしい台詞が僕らに向けられる。というのもリヒトが孤児院暮らし最終日の戦闘訓練で、勝った際の要求として提示したのが「自由な時間を10分だけ作ってくれ」というものだったからだ。


「おまえらいつも要求は「デザートとして夕食のメインディッシュ30人分」だったじゃないか。それが最終日になって自由時間10分なんだ?」


ほぼ毎日メインディッシュを獲られ続けた30人もそろって疑問をなげかける。


「毎日俺らの豚肉ちゃん奪ってたのにどういう心境の変化なんだ」

「そうだ。今日こそは豚肉ちゃんの(かたき)をとろうと思って、こっちの要求も「お前ら三人のメインディッシュ」にしたのに」

「あれ?よく考えたら割に合わないんじゃ・・・」

「10人で1人分の主食・・・不毛な戦いっすね・・・」

「も、もう豚肉ちゃんの話はやめましょうよ」


僕もあまり賢くないが、こいつらは馬鹿だ。


彼らの言葉に対してリヒトはチッチッチと舌を鳴らす。


「それを知ることができるのは勝った奴だけだ」


やはり不適に笑みを浮かべながら楽しそうに言う。


かく言う僕も外で何をするのかは教えてもらっていない。

だが、兄のやることだ。楽しいに決まっている。


僕の心配性は兄の提案の前では働かない。









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