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23 勘違いの不条理

「何してるの?」


と少女が放つ言葉を聞き俺ダニエルはようやく放心状態から解かれた。

理由は簡単で赤髪の彼女に目を奪われてい・・・たのではなく、単に彼女の行為が突拍子の無いものだったからだ。そうに違いない。

傍らでは舎弟であるトニーが真っ白な制服のブラウスを茶色いたれでべたべたにされて「ぅぁぁぁぁ」と情けのない声を漏らしながら必死に袖で拭き取ろうとしている。

そして元凶の彼女は今アーベルの顔を覗き込み返答を待っている。

そのアーベル自身も俺たち以上に放心した様子で口をぱくぱくさせている。まあ言葉が思いつかないと言うより口の中が切れて上手く話せないだけのようにも見えるが。


このままこちらも馬鹿みたいに口を開けている場合ではない。舎弟達も俺を見ているのだ。「図体だけがでかい馬鹿野郎だ」などというレッテルを貼られてはこれからの行動に制限が付きかねない。


「何って、正義の鉄槌を下しているってところだ」


彼女の問いに俺が返答する。


「正義?」

「お前そいつが何者か知ってんのか?」

「うんにゃ?」

「どっちだよ・・・」

「知らない」


だろうな。とため息が出る。

アーベルの野郎に声をかけた時点でこのラントという少女がアーベルを知らないことは理解できていたが、更に理解が拡張した。こいつはこの国ズィークの外から来たのだ。


「お前ファルベから来たんだろ?しかも最近か。制服着てないしな」

「正解!・・・って制服?」

「それは置いといてだ。お前をファルベから追い出したのはファルベの王様だ。こいつはその血族、アーベル・ファルベだよ。今のズィーク王グランツ・ファルベの長男だ」

「王子?」

「そうだ。俺たちをこんな危険な場所に放り出した家系の人間だよ」

「へー」


食べ終えた焼き鳥の串をひらりと手の中で返しながらこちらの話に耳を傾けるラント。

その後ろアーベルは何も言わず膝をつき俯いている。

そうだこいつらの一族のせいで弟は死んだ。生きたいのに。死にたくないのに。この国の外で食われて死んだ。


「そいつらはカルタロス以上に俺たちの敵だ。俺の弟は生きるために戦って食われて、その間こいつは城で豪勢な食事を食ってんだ。おかしいだろ!」


声に熱が宿ってきたのが分かった。ラントにアーベルの醜さを伝えるつもりで話し始めたが気がつけば私情に走っていた。


「こいつらがいなけりゃ俺たちはファルベで安全に生きていけたんだ!弟と!姉貴と!なのに!元凶は!こ、い、つ、は!のうのうと学校に通って!俺らと同じ授業を受けて!同じ評価を貰って!償うなんて言って剣をとりやがる!今更だろ!もう遅いんだよ!!」

「・・・」


ラントが無言になる。察したというわけではない。単にぽけっと俺を見つめている。苛立たしさが募りかえって冷静さを取り戻す。

俺たちは正しい。だからラントもこちら側に付くはずだ。そしたらこれから4人でアーベルを(なぶ)ればいい。だから取り敢えずは息を整え落ち着く。


「だから殴れよ」


そいつを。


「ん?」

「殴れば俺たちの仲間にしてやっても良い」


だからそいつに悪夢を見せてやれよ。


「今の話を聞いたら出来るだろ?」


女に殴られちゃあこいつもぽっきり折れるかも知れない。


「俺たちの敵はこいつだ」


今までのように次の日顔を腫らしながら学校へ来るなんてこともしなくなるだろう。


「だから殴れ。そうすりゃ俺たちは・・・友達だ」

「本当!?」


ものすごい勢いで食いついてくる。

背後のアーベルは泣くまいとするような表情で顔面を歪ませながら抵抗する意志は見せず壁にもたれかかる。

彼女に希望でも持ったのだろうか。それなら幸いだ。その心を根本から折ることが出来る。


一瞬心の中に風が吹いた。

何か小さな感情を運んできたようにも思うが気にならない。気にしない。


ラントは目を爛々と輝かせて俺の返事を待つ。


「本当だ。だからやれ」

「そおい!」


ゴリっ


と嫌な音が俺の(・・)顎で響く。・・・俺の??


ふわりと胃が滅入るような浮遊感が訪れて。そして

意識が飛んだ。








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