17 一休み中の安穏
「それじゃあコンテナ近くにいた孤児院の連中はみんな無事なのか」
「ええ」
アルトゥールと言う名の研究者がいる研究所まで距離があると言うことで、僕とリーベは出店で焼いた鳥を串で刺したものを頬ばりながら歩を進めていた。もちろん金を出してくれたのはリーベだ。
「じゃあ幼女ちゃんとロリコンさんも無事?」
・・・あの2人、名前聞きそびれたままだ。なんだよ幼女ちゃんとロリコンさんて。リーベが分かるか。
「あのお二人も無事ですよ」
・・・公認・・・だな。
ともかく無事でよかった。
僕が遠い目をしている傍らリーベが話を進める。
「他の皆さんは先に到着しているのでここでの暮らし方なんかはもう決めてらっしゃると思いますよ」
「ん?研究所ではそういうことを決めるのか?」
「私の時はそうでしたね。でも他にも色々と聞かされますよ・・・化け物の話とか」
口元に持って行った鳥肉を少し引き離す。僕や兄やカイトを襲った出来事がフラッシュバックする。記憶が明確に脳裏を刺した。しかしその感覚は気持ち悪さや恐怖より怒りに近い。一度に3匹も同じような化け物を見れば恐怖も薄らぐのだろうか。拳を強く握りしめる。
「あ、ああ、えっと、この国は5割が成人未満なんですよ!」
気をつかわせてしまったようだ。
「それって珍しいことなのか?」
「かなり珍しいんじゃないでしょうか」
言われてみれば子供は多い気がする。孤児院育ちで感覚が麻痺しているが。
話題を変えることが出来た安心感からかほっとため息をつきながらリーベは続ける。
「ズィーク内で生まれた子も大勢いますが、孤児院等からファルベ国から追い出された少年少女たちが多くこの国に逃れてきていますかああああああああああああああああなんでもないです!忘れてください!忘れて!」
また気をつかってくれた。なんだか悪い気がする反面おもしろくもなってきた。それに、別に孤児院から出てきたこと自体は本望だったわけだからそれほど国外追放の件は気にしていない。行き先が予想外だっただけで。
「確かに子供が多いけどガキがほとんどじゃないか?」
「この時間は皆さん学校へ行ってますから」
「学校?みんなが?」
「はい。ほとんどが」
「リーベは行かなくて良いのか?学校」
「私は少し便利な事が出来るので救出作戦のお手伝いに」
救出対象はもちろん僕らファルベから追放された子供なのだろう。
そしてそのお手伝いとやらでリーベがあの森に来てくれたわけだ。
「おかげで僕らは助かった。感謝しないと」
リーベに向けて拝むポーズをとる。
「ちょっと!恥ずかしいです!やめてください!」
すぐ顔が赤くなる。わかりやすい。
「それでそのみんなは学校に行って何を学ぶんだ?」
「生きるため、守るため、働くための技術などいろいろです。その辺りも研究所で聞かされます」
生きるため、守るため・・・か。口ぶりからしてあの化け物と戦うと言う選択肢が存在するのだろう。出来ればあんな化け物とは二度と対面したくないが。・・・と
「そういえばこの国をぐるっと囲んでる黒い壁。えらく分厚いし、このレンガ造りの町並みにあわない気がするんだけど、理由あるのか?」
「ええ、黒はあの化け物が嫌いな色ああああああああああああああああああ何でもないです!気にしないで!」
化け物や国外追放の件に触れないようにしてくれているのがよくわっかった。
優しいなあと感じつつも慌てるその姿を見て面白いなあとにやにやしてしまう。
「ちょ、何にやにやしてるんです!?」
「いや慌ててるのが可愛くてつい。別にあの化け物の事とかファルベの事とかは気にしてないから大丈夫だよ」
「か、可愛いって・・・」
頬を染める。恥ずかしいときの表情が本当にわかりやすい。
「それで、なんであの壁黒いんだ?」
「・・・黒は化け物が嫌う色なんです」
「だから襲われにくい・・・と。でもなんで壁だけなんだ?家も道も黒くすればそれこそ安全性は向上するんじゃないか?」
「真っ黒な物質ってこの辺りではそうそう見つけられないんです。遠方にはあるかも知れませんが一歩外に出れば化け物の脅威と隣り合わせですから。家まで黒くする余裕が無いんです」
「なるほどそれで壁だけ真っ黒か」
「まあ化け物が壁の内側に入った例はありませんし・・・・・あ、でも真っ黒なのはあの壁だけではなくて」
といってリーベは腕を持ち上げ前方を指さす。
そこにはレンガ造りの町に全く溶け込めていない無骨な黒の建物が聳え立っている。
ここがもしかして
「ここがアルトゥールさんの研究所です」