15 ズィーク
「いやだから弁解させてもらうと抱きついたのはそのほら安心感で、そう安心感。下心なんて一切無い!」
「はいはーい。私ディヴェルトが女神さまのおっぱいに頭埋めて赤くなってるの見ましたー」
「ラ、ラント!後でおやつあげるから黙れ!いや動機は安心感だったんだ、結果が下心みたいになっただけで・・・おっと」
不意に僕の身体が揺れる。
今、僕、ラント、リヒト、女神さまは他5名と共にトラックで揺られている。
国外に連れ出された時のような大型なものではなく荷台がむき出しのタイプで、ろくに補正されていない道だもんだから外に放り出されないよう縁にひっつかまっている。
リヒトはまだ目を覚まさない。
女神さまの仲間と思われる3人の男(1人はトラックの運転をしている)に応急処置を施してもらっている。
後1人、トラックの隅で膝を抱えているのが、ニケだ。
彼女はあの場から逃げ出したあと僕らより先に保護されたようだ。ニケは傷ついたリヒトをみて「ごめんなさい。逃げてごめんなさい」とつぶやき続けていた。だが、逃げたのは彼女を含め3人だったはず。あとの2人が見えないとなると彼女は彼女で怖い思いをしていたはずだ。責めることはできない。
ところで今の荷台の上の人物構成に違和感を覚える。
僕らはまだしも女神と他4人の間に距離があるのだ。
全体的に黒い外観をもつ服装等から見ても彼らが仲間であることは明白だ。だが先程から一度も言葉を交わしていない。
何というか遠い。物理的には存在しない壁がそこにはある。
こんな美少女に男が近づかないって・・・
―もしかして女神さまって嫌われ・・・
「ところで女神さまって嫌われてるの?」
ド直球すぎる。
ラントの頭を叩こうと思ったが女神さまが動じず笑っているのを見て少し安心しながら叩く。
「お前直球すぎるだろ!」
「いったー・・・いや気になって」
女神さまは微笑みを浮かべながら答える。
「嫌われているでしょうねきっと・・・あ、そうだ、その「女神」ってのやめましょう。むずがゆいです」
「じゃあなんて?」
「リーベ、と」
リーベか、良い名前だな。
「そ、そんな。良い名前だなんて。ありがとうございます」
あれ?今僕の思考声にでてたのか?
「あっ、いや・・・えっと、すみません」
「?」
何か少し変なやりとりだったがさておき・・・
「リーベ、今僕らはどこに向かっているんだ?」
「私たちの国です」
「ファルベ以外にも国が!?」
少し驚いたがおかしな話ではない。
「ええ。お察しかと思いますが、あの国から追い出された人はあなた方だけではありません。もう何百年も前からこの行為は行われています」
「何故そんな事・・・おいラント、話聞くの面倒くさいからって鼻ほじるな」
「あはは。あ、その辺りは私たちの国に入ってから詳しい方に聞いてください。重要なことなので私の口から適当には・・・」
「わかった。それで君たちの国ってのは・・・」
唐突に森の木々が無くなり視界が開け、まぶしい光が差し込む。
「ファルベ国の外には化け物がわんさかいます。生き残るため先人達が建てた国。それがここ・・・」
巨大な黒い壁。ファルベのものに比べればかなり落ちるがそれでも巨大だ。
直線上に並んだ壁は先が見えないほど続いており、それだけでこの国の規模が想像できる。
ここがファルベ国外の国。化け物達から我が身を守るための国。
「立憲君主国ズィークです」