11 戦闘
「こぉぉぉんのやろおおおおおおおおおお!!」
純白の大剣を携えて「奴」に斬りかかる。
大柄でもないのに大剣を振る僕の姿は孤児院で幾度となく馬鹿にされていたが、戦闘訓練を重ねればそんな事を言う馬鹿はいなくなっていた。
むしろこれ以外の武器は軽すぎる。
ラントも同じ意見のようで、軍刀と少し短めの打刀を両手に握りしめていることが多かった。
リヒトには馬鹿力と言われ続けたが・・・
多少の重みがある方が武器はいい。
しかし、今、そんな重みも忘れるほどの感情を乗せて「奴」に一撃を振るう。
カイトを殺された怒りか。カイトの死を嫌悪に感じた自らへの怒りか。
はたまた畏怖か。
何かに突き動かされるままに刃を「奴」の喉元に滑り込ませる。
「っ!!」
だが直前で赤黒く鋭い爪に受け止められ、流される。
一流の剣士ほど流麗な受け流しではないがこれは・・・
―知性・・・あるのか?
頭のようなものはあるが目・鼻はなく口は小さい。生まれたての鳥の雛をそのまま人間サイズにしたような形だ。あまり知能があるようには見えなかったが、今の動きは少なくとも動物的な行動ではない。
僕は首筋への攻撃を諦め、一度肩の力を抜く。そして逆方向へと身体全体で弧を描きながら腹部に打ち込む。
今度は後方に飛び退る形で回避されるが、わずかに切っ先が「奴」の肉片を散らす。
呻き声のようにその小さな口から「ぴゅるるる」と音を漏らす。
しかし、「奴」は怯むことなく攻撃に転じてくる。
―凶器は爪だけか?
案の定両腕をかぶり爪をこちらに叩きつけようと勢いよく飛び込んでくる。
手足が長すぎるため軌道が読みにくいが・・・
「なめるなっ」
爪が襲い来る前に、下方から突き上げるように大剣を「奴」の胸元に沈める。
勢いのまま突き刺さった「奴」は一瞬反動でびくんと動いたがその後沈黙する。
なんとも呆気ない。
恐ろしいのは外見とあの接吻のような色を抜く行為だけなのか。
ずぐり。と剣を引き抜くとべったりと赤黒い体液が糸を引いて気持ちが悪い。
血液とは違うそれからは、しかし濃い血の臭いがして吐き気がする。
「・・・ん?」
違和感。
僕の身体は返り血を浴びてぬるぬるする。
大剣にも確かに大量の体液がつき、滑りがあったはずだ。
だがその量が少し減っている。血振りはまだしていない。
代わりと言ってはおかしいが、剣先が血に濡れているというより、その赤黒い色を自らが発しているように見える。
―剣の色が赤黒く?
疑問を投げかけようとリヒト達を見やる。
リヒト、ラント、ニケとあと3人がいたはずだったが、気がつけばリヒトとラント以外が姿を消している。
逃げたのだろう。リヒトの首を傾ける仕草で理解する。
当たり前だ。こんな気持ち悪い生き物がいる森に居座りたくは無いだろう。
先程の待機場所に戻っていてくれればいい。
それより
「兄ちゃん・・・この剣の」
色が変なんだけど。と続けようとしたとき。
「ディヴェルト!まだだ!」
リヒトの声と同時に訪れた悪寒にはじかれるようにして「奴」の死体から距離をとる。
ひゅん。と短い音が耳元に囁きかけるように鳴り、赤黒い一閃が前髪の数本をつれさる。
「こいつっ!?」
何で生きてる。
心臓周辺を一突きだ。身体機能は得られないはず。
心臓?
かろうじて人の形はしているが、人ではない。
心臓が無い可能性だって・・・
ゴキブリが身体の上下を分割されても逃げていく様子を思い出した。
「畜生っ」
気持ち悪さと危機感で悪態がもれる。
次の一閃を避けるために転がり、受け身をとって起き上がる。
すでに赤黒い爪が迫っている。
リーチの長い腕にしなりを効かせた一撃を剣の面で何とか受けきる。
金属と金属の擦れあうような音がこだまする。
背に嫌な汗をかきながら愚妹に呼びかける。
「ラントっ、援護!」
「りょーかい!」
愚妹は精神的にも割と余裕があるのか、すぐ駆け出そうとして・・・
「すまんディヴェルト、もう少し一人で保たせられるか!?」
リヒトの声が飛ぶ。
「奴」は死なない。そのため余裕は無いが、すぐにやられることは無いだろう。
それに、孤児院の訓練の時代から作戦・指揮はすべてリヒトだ。
何か考えがあるのだろう。
「わかった!」
兄を信じるしかない。
しっかりと前を見据え「奴」を迎え撃つ。
以下、茶番。
甘一「いやあ、ようやくまともな戦闘きましたね」
ラント「バトルものを名乗って以来初だね」
甘「戦ってる最中の動きとか考えるの楽しいなあ」
ラ「私、全然動いてないけどね」
甘「いや、だってまず主人公からでしょ」
ラ「ってことは・・・」
甘「ヒロインはもう少し後ですかね」
ラ「あれ?もう少し後なんだ。私そろそろ戦闘する番だと思ってたんだけど」
甘「え?ヒロインまだ登場すらしてないじゃないですか(にっこり)」
ラ「・・・え?」
甘「え?」