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第三劇「感動的な再会……?」

再開。


それは嬉しい。

 辺も薄暗くなったきた頃、上手い事モンスターの群をまいた俺と甲冑は、古びた遺跡の様な建物を目指していた。

 建物は建てられてからかなりの年月が過ぎている様で、石造りの外壁は所々酷く剥がれ、鼠色の肌を露にしていた。

 彼方此方あちらこちらに苔や雑草が無造作に生え、何の植物か分からない緑色の蔓が、剥き出しの骨組みに垂れていた。風で揺れると、生き物みたいにユラユラ、と、動いて気味が悪い。


 建物の入口に白馬を停め、俺と甲冑は建物の中へと進む。

 中は外見より更に荒れていて、もはや何のための建物だったのか見当もつかない。

 辛うじて通路とおぼしき道を、俺と甲冑は無言で歩いた。


 ザッ、ザッ、ザッ……。


 地面の石や砂利を、甲冑の脚と俺の裸足が踏む音だけが聞こえる。

 正直に言うと、この状況は非常に気まずくて苦しい。

 決してコミュ障な訳じゃ無いが、名前も顔も、声すら分からない相手に向かって、いきなり此方から話し掛けるのは、いくら何でも辛いというものだ。


「……」


  相変わらず、寡黙な甲冑である。

  ずっと何も言葉を発しない。

 俺もどうしていいか分からず、黙ってしまう。


  カァ……カァ……。


  天井を見上げると、隙間から見える紅色に染まった夕暮れの空に、からすらしき黒い鳥が数羽、鳴きながら飛んでいた。

 しかし、それもすぐに聞こえなくなり、再び静謐せいひつな空間に戻る。


  ……だが、あまりの沈黙に耐えられずに、俺はとうとう、自分から話し掛けてみる事にした。


「あの……」

 と、甲冑に喋り掛けると。


 ぶん。


 と、有無を言わず、いきなり甲冑に頬をグーで殴られた。

 予想以上に重い拳が、俺の頬にのめり込み、身体が宙に浮かんだと思ったら、擦り音を立てながら地面に叩き付けられる。

 先程のトラックとの事故がフラッシュバックしてしまう程似た様な気分だ。


「ぐはぁっ!?」

 と、下手な芸人のリアクションの様な声を上げて、その場に倒れ込む。痛い。

 加えて、拳も鋼で覆っているから尚更痛い。


「な、何するんだ!?」

 流石の俺も、この理不尽な暴力には反論を入れる。


「……何すんだ、だと?…」

 ここで初めて、甲冑が言葉を口にした。

  少し低い声だが、どこか女性を思わせる声だった。

  そして不思議と、初めて聞く声でも無い気がする。聞き覚えは無い。


「お前こそ、あんな所で何をしていた?…」と、甲冑が言う。


 質問に質問で返された……。


 と、思ったが、また拳が飛んで来るのも嫌なので、とやかく言わず、とりあえず仕方無く質問に応える事にしよう。


「え、えと……別に何も……」


 俺自身、ここがどこなのか、どういう状況に自分が立たされているのか、把握出来て無いのだ。だからこれが最善の答えだ。


「あんな危険な所に座って……『ママ』に殺されたいのか?」

 と、俺の答えに、甲冑はこう返した。


(え?マ……ママ……?)

 何の事だかさっぱりだ。

 しかし、また沈黙が続くのも嫌なので。


「えーと……ママって何?お母さんの事です――」


 ガツッ。


 今度は足で鳩尾みぞおちを蹴られた。


「ぐぎゃぁ!」

 足も金属で覆われているから、これもまた痛い。最早ただの鈍器だ。


「ふざけているのか?…」

 と、甲冑。

 どうやら何故か、怒らしてしまった様だ。


「ごごご、ごめんなさいっ!」

 とりあえず、土下座して謝罪する。

 何故か分からないが、体が反射的に動いていた。多分、恐怖に因るものだろう。


「でっ、でも、ホントに何も分からなくて……その……」


「……分からないのか?…本当に……私……の事……」

 と、甲冑。


「はい……って、え?私?」

 と、思いもよらぬ言葉にギョッ、と、して顔を上げる。

 甲冑は鎧で固められた腕をプルプルと震わせ。


「私の事、忘れたのかこのバッカ兄貴ぃ!!!」

 と、叫んだかと思うと次の瞬間。


「えっ?」


 ドグシャッ。


 顔面に文字通り、鉄拳を噛まされた。


「ぐはっぁぁぁぁ!」

 衝撃で3メートル位は吹き飛ばされただろうか。痛い。非常に痛い。

 というか……え?今兄貴って……。


「おっ……お前まさか……」

 と、殴られた鼻を押さえながら、震える声で俺は訊ねる。


「そうよ…アンタ…の妹の……」


 この時の痛みと衝撃と痛みと感動は、多分一生忘れないだろう。


 それ程の驚きで、悦びで、嬉しさで、感謝でもあった。

 この世界に俺を呼んだ、何かに対しての。


諏訪明葉すわあきはよ」


 と、俺の妹が、俺の最愛の妹が、そこに居た。

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