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DEAD-LINE  作者: ケイ
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2.王立魔導学院

2.王立魔導学院



輪廻転生、という言葉がある。

簡単に言えば死んであの世に還った魂が再び現世に戻って来ることだ。

実に馬鹿げた、事実確認しようのない宗教絡みの胡散臭い思想。

全く剽軽な妄想——だが、俺はそれを信じている(・・・・・)

それは実際に自分が体験した事を信じない程愚かではないからだ。

それが例え地球(・・)から、見たことも聞いた事もない異世界(・・・)であったとしてもだ。


しかし、



——貴方は神を信じますか?



そう問われれば、答えは——



▼▼▼



「——否。ウチは毎年これ以上の防衛費は支払い出来ない。財政的にも、何より内訳が不透明すぎて信頼に値しない」


豪華な赤絨毯の敷かれた大部屋に響くのは明確なる拒絶の意。

それを聞いて部屋には溜息が木霊する。

長円卓を囲む者達は皆、様々な面持ちで会議に臨んでいた。


「此方も同じく」


その中でも比較的年若い人間(ヒューム)の男が同調するように言った。

そしてその豪華な黒の漆塗りの椅子に今一度座り直して、


「国庫にもう余剰がない」


「それはどこだって同じだろうが!お前らの所だけ特別扱いする訳にはいかねぇな。……内地・・の犬が」


対面の、髭を蓄え目尻に傷のある男が噛み付くように言った。

その強大な覇気に机が軋む。

それを何処吹く風か、飄々と言葉を発するは老齢の騎士。


「分かっておる。じゃが奴らに(・・・)攻め込まれる前に国が破綻してしまうのも事実。故に提示された10%の金額なら可能。それでもかなり厳しいわい」


「ウチも一割なら可能だ。足りない所は出来る限り人材補填などで協力しよう」


「私達もそれなら何とか。海産資源を融通すると王が仰られておりました」


その言葉に皆、口々に賛同する。

それを何処か蔑んだ目で見ていた、上座に座する男——マルコ=クラリアスは思う。


(馬鹿馬鹿しい。結局は何処も自分の国のことしか考えていない。三年前のあの日(・・・)並の侵攻があれば、今度こそ我が国は潰れる。そうなれば次は隣の国だ。止めるノウハウも何もない国など一瞬で怪物達の餌食となるだろう。そして、やがてはこの大陸には人類は住めなくなる)


——各国の顔たる宰相達が、そんな事すら分かっていないのか。

いや、当然か。

あの脅威は目の当たりにしなければ理解出来ないか。


「もういい。白金貨で300枚、各国は防衛費として回してくれ」


「——なッ!?マルコ!それじゃ無理だ!!」


当初の一割、白金貨300枚という金額で納得したマルコ宰相に驚愕の表情を浮かべるのは目尻に傷のある男。


「”アレックス”。分かっているだろう。この会議に意味はない」


「だが!」


それでも、とアレックスの追随を遮るように声を上げたのは、今迄傍観していたキツネ目の男だった。


「流石は”神算鬼謀のマルコ”宰相!話が分かる。ではその決定で。皆様異論はありますか?」


そしてニヤニヤと嘲るような笑みを浮かべながら円卓を見渡す。

それに応えるものは誰もいなかった。


「異論がないようなので決定ということで!本日は人類の為の有意義な時間、誠に有難う御座いました。では私は先に失礼致します」


微塵も有意義だとは思っていないだろうキツネ目の男は、足速に会議室を後にする。

それに倣うように円卓について居た者たちも順に座席を立つ。


そして広い会議室に残されたのはたった二人。


「マルコ。俺の所からも支援は出せないぞ。自分とこの防衛で精一杯だ」


アストラル王国代表、アレックス軍務大臣。


「知っている。奴等はただ、俺達の国を潰したいだけだ。次に犠牲になるのは自分達とも梅雨知らずな」


コスタリカ王国代表、マルコ宰相。


各国代表者会議に出席するこの二人は隣国同士であり、そして境界線(デッド・ライン)に隣接する唯、二つの国である。


「破綻しかけの国でも資源はそれなりにあるからな。しかし……今はまだおとなしいが、流石に先の大規模侵攻並のが来たらもう耐えられん。三年前、我が国は戦える奴を失い過ぎた」


「……お前らは北だけじゃなく、西にも気を配らなきゃいかんしな」


「まだ何もしてこない『魔王様』のが数倍マシだ」


半ば諦めの表情でマルコは吐き捨てる。

民はまだ、気付いていていないが、この国にはもう未来などなかった。



▼▼▼



おおむね(・・・・)人類が暮らすこの大陸は、小さき庭(ミズガルド)と呼ばれている。

誰がいつ、何処でそう呼びだしたのかは分からない。

だが、(あなが)ちその表現は間違ってはいないということは分かる。


有史以来、千と四百年以上経った今でも大陸の全貌は未だ明らかになっていない。

境界線(デッド・ライン)以北の怪物達が住まう前人未到の領域は、形状、気候、性質、その全てにおいて未知数である。

今の所有力な説は、人類の生活圏である大陸の南部の測量から予測すると、ミズガルドは南北に大きく伸びた卵型の大陸である、というものだけ。

そこにミズガルド自体は外海囲まれた所謂、超巨大な島のようなものだと注釈が付く。


但し、それはあくまでただの予測に過ぎない。


やはり実際に誰も北端に到達した事も、見たことも無いのだから当然であった。


小さき庭(ミズガルド)か……」


「あん?なんだ急に」


いつからその小競り合い(・・・・・)が始まったのかは分からない。

ただ一つだけ分かるのは、遥か昔から人類と異形の怪物達は戦い続け、今も尚、境界線付近で争いが繰り広げているという事だけだった。


「いや、上手く表したもんだなって思って」


そこでリュージは一度思考を放棄し、少し後ろを歩くレオンに向き直る。


「……?」


頭にはてなを浮かべたレオンは首を傾げた。


今、三人は街道を歩き隣町へと向かっていた。

距離にして約三時間の行程ではあるが、王立魔導学院のある王都行きの馬車も昼過ぎまで出ないので、のんびり徒歩で向かっているのだ。

もっとも三人にとって優先すべき事は明日の入学式より、暫くこの地に戻れない為とある人物への挨拶だった。


「でもリュージって時々変な事口走るよね。聞いた事もないような言葉とか。あと、独り言も多いし」


隣を歩くアリスが言った。


「そうか?」


「ああ、そうだな。前も……『びいる』が飲みたいとか言ってたな確か。お前が酒の一種だって教えてくれたけどな」


ふむ、とリュージは顎に手を添えた。

——やはり二十数年生きた前世の記憶は中々忘れられぬものらしい。


(……気を付けてはいるが、ふとした拍子に出るものだな)


勿論リュージは、アリスとレオンを含めた全て人間には、自分が前世の記憶があるという事を話していない。

普通そんな事誰にも信じて貰えない。

明確に証明する方法もなければ、運が悪いと、気の違った人というレッテルを貼られるかも知れない。

もしかしたら二人なら信じてくれるかも知れないが、別にそれで三人の関係が変わる訳でもないし特に話す理由にはならなかったのだ。

現状は、もしも深く聞かれたら話す、と簡単にリュージは考えてた。


「まあ気にしないでくれ」


「かーっ!!出たよその子供を相手にするような態度。大人ぶってんじゃねえぞリュージ。お前まさか歳誤魔化してるのか?そこのババ「まさか、そんな訳ないだろ」」


続くレオンの言葉を無理やりリュージが遮った。

アリスの右腕が少し上がっていた。

危うく、レオンがまたのたうちまわることになっていただろう。


「そう言えばレオン、貴方——」


少し後ろを歩くレオンにアリスは振り返る。


「あ?なんだよ」


「課題はやってきたの?」


寸瞬、レオンは歩みを止め、また再び元の速度で何事も無かったかのように歩き出す。

本人は平静を(つくろ)ってはいるが、顔は何処か遠くを見つめた真顔である。


「…………」


感情の起伏の多い表情豊かなレオンが珍しく真顔。

恐らく一周回って却って冷静になった、というやつだ。


「……課題って、何でしたっけ?」


普段の覇気のある荒々しい声ではなく、雛鳥のようなか細くも殊勝な声がレオンの口から出てくる。

その刹那にもレオンは自らの脳内で先程の言葉を復誦する。


(課題……課題……課題……課題?)


レオンは自分の記憶を省みても憶えがなかったのであろう、額から冷や汗が零れる。

それを見てリュージは苦笑した。


「レオン。課題なんて無いぞ。明日は実技と筆記の試験だけだ」


明日は三人にとって記念すべき入学式の日でもあり、同時に入学試験の日でもある。


『王立魔導学院』

その名の通りコスタリカ王国の王都に鎮座する、王国随一の高等教育機関である。

その教育レベルの高さは周辺国にも一目置かれ、毎年国内外問わず数千以上もの少年少女が試験を受けにくる。

その為入学試験は入学式日まで二週間に渡り実施される。

大体村や街規模で試験日は一纏めにされているため、リュージ達三人は試験最終日であり入学初日の明日に受けることになっていた。


入学条件は12歳から15歳迄。

学院は5年次で卒業、つまり5年制を採用している。

卒業後の進路は国に務める騎士団なり、近衛なり研究者なりはたまた一介の冒険者なり傭兵なり、選び放題である。

というのもコスタリカの魔導学院を卒業した、というだけで引く手数多なのだ。

何十倍もの倍率を潜り抜けた優秀な子供達が、5年間に及ぶ高度な教育を受けて卒業する。

その証明があるだけで将来は安泰なのだ。


「あ、ああそうだよな!課題なんて無いよな!……って嘘つくなよこのクソエルフ!!」


安心したレオンはようやく騙された事に気付き、アリスに声を荒げる。


「そんな記憶力で明日の筆記は大丈夫かしら?一人だけ落ちるとかみっともないからやめてよね」


「なんだと!」


よく言い争いをする二人だが、案外相性が良いのかもしれない。


「まあレオンも一年もこの日の為に勉強してきたんだから大丈夫だろう」


リュージは気楽に言った。

それは無責任な発言ではなく、レオンなら受かるという確信があったからだ。


試験は筆記と実技の二つ。

シンプルだがそれ故に非常に狭き門となる。

通常では点数配分は半々であったが、三年前のあの日以降実技に重きを置く配分となっていた。

それは前線で戦える兵士が足りていないからだ。

コスタリカ王国は今、文官よりも力を求めていた。


「有難うリュージ!やっぱお前良いやつだな!」


アリスに関しては間違いなく合格する。レオンも同じく落ちないだろう。

となると一番危ないのは俺かも知れないな、とリュージは改めて思った。


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