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雲のお散歩

作者: 亜実香

主人公、雲の一人称です。

ふわふわふわわ


綿菓子のような体を風に任せてお散歩をしています。

でも、出来たばかりの子どもの雲ですから、体はまだ小さいままです。

その小さい体をのびのびと伸ばして空をゆっくり進んで行きます。




ふと、前の方に、少し大きな雲がいるのが見えました。

走って前の大きな雲まで追いついて、声をかけました。

「こんにちは。」


大きな雲はこちらを振り返りました。


「あら、かわいい坊やの雲ね。」

「はい、この間出来たばかりなんです。」


大きな雲はお姉さん雲のようでした。


「じゃあ、まだ何も知らないのね。これから楽しいことがたくさんあるわよ。」

「楽しいこと?どんなことですか?」

「それは自分で探していかないと。」


ふふふ、と笑ってお姉さん雲は教えてくれませんでした。


「私はそろそろ行くわ。元気でね、坊や。」

お姉さん雲はふわふわの手で頭をぽんぽんと叩いてくれ、そのままどこかへ行ってしまいました。



再び一人になったので、また風に乗って散歩を始めました。






しばらく散歩を続けていると、灰色の体から雨を降らせている雲がいるのが見えました。


「こんにちは。」

「ああ、こんにちは。」

雨雲さんはこちらをチラッと見てたいぎそうに挨拶しました。


「何をしているんですか?」

「見て分からないかい?雨を降らせているんだ。」

雨雲さんは迷惑そうに言いました。


なんだか冷たい雨雲さんの態度に不安になってきました。

「すみません。僕迷惑でしたね?もう行きます。」


その言葉を聞いた雨雲さんは、はっとしたように慌てて言いました。

「悪い悪い。そういうつもりじゃなかったんだ。ただ、雨を降らすのは疲れるからね。」


「疲れるんですか?ではあなたは何故雨を降らせているのですか?」


「体の中に水が溜まってきたら重たくてね。雨を降らせてすっきりしようと言うわけだ。疲れるがね。」

雨雲さんは苦笑いしながら答えてくれました。


「まあ、お前もそのうち分かるさ。ほら、もうそろそろいいだろう。」

雨雲さんの体を見ると、灰色から白色に変わり、雨も止んでいました。


「んー、すっきりした。じゃあ俺は行く。」

雨雲さんは大きく伸びをしたと思うと、身軽そうにふわふわと飛んで行きました。




「やあ。」

雨雲さんが去って行った方向を眺めていると、後ろから声をかけられました。


振り返ると、七色の綺麗な体をした虹さんがいました。


「うわぁ!綺麗ですね。」

思わず感嘆の声を上げると、虹さんは得意そうに言いました。

「そうだろう?そうだろう?私達虹はこの空で一番美しい存在だ。」


ずいぶん自信満々な言い方でしたが、そんな風に言うのも頷けるほどの美しさでした。


「僕もそんな風になりたいなぁ。」

思わずそんな風に呟いてしまいました。


「ん?そんな雲もいると聞いているぞ?

たしか、彩雲と言ったかな?我々のような虹色をした雲だそうだ。我々の美しさには及ばないが。」

虹は、はっはっはと笑って言いました。


「すごい!!僕も彩雲に成れますか?!」

そんな雲がいると聞いて、わくわくしながら言いました。


「それは分からんよ。まあ、可能性はないわけじゃない。」


彩雲になれるかもしれないと思うと胸がいっぱいになり、思わず彩雲になった自分の姿を想像してしまいました。



「む、もうそろそろか…」

想像に夢中になっていると、ボソッと虹が呟きました。虹の方を見ると、なんと美しい体が透けて向こう側が見えているではありませんか!


「虹さん、どうしたんですか?!」

思わず叫んでしまいました。


「そう慌てることはない。我等の命は長くは保たないのだ。美しいものの命は短いと言うだろう?美しいものに与えられた運命ともいえる。」

虹が落ち着いた様子で言いました。


「そんな…」

落ち着いた虹の姿を見て、それ以上なにも言えなくなってしまいました。


「そんな顔をするな。私に後悔はない。なにせこんなに美しく生まれてこれたのだからな。最後にお前と話が出来てよかったぞ。」

そう言い残して、虹はついに消えてしまいました。



しばらくその場で呆然としていましたが、風が吹いてきたので、流されるままにふわふわと漂い始めました。





「雲さん、雲さん。」

風に流されてどこまで行ったのでしょうか?

突然優しそうな声が聞こえてきました。。


ハッとして周りを見渡しますが、誰もいません。

しばらくキョロキョロしていると、再び声をかけられました。


「ここです。私です。風ですよ。」

「ああ。風さんでしたか。どうりで姿が見えない訳だ。」

声の正体が風だと聞いて納得しました。


「雲さん、どうされたんですか?」

突然の風の問いかけに驚いてしまいました。


「どうした、って言われても…」

「先ほどからとても悲しそうなお顔をされていますよ?何かあったのではないですか?」


「…僕、そんなに悲しそうな顔をしていますか?」

「はい、とても。」

ここまで見抜かれてしまえば話したほうがいいような気がしてきて、虹のことを話しました。


「そうですか、それはとても悲しかったでしょうね。」

風はそれっきり黙ってしまって、二人の間に沈黙が流れました。

しばらくそうしていましたが、ふと気になって風に聞いてみました。


「あの、風さん。どこへ向かっているのですか?」


「ふふふ。いいところに連れて行ってあげます。楽しみにしておいて下さい。」

風はそう言ったっきり、何度行き先を聞いても教えてくれません。

とうとう諦めて、黙って風に身を任せていました。




ふと、どこからか優しい良い香りが漂ってきました。

「風さん。良い香りがしますよ。これは何ですか?」

気になって風に聞いてみました。


「そうでしょう?ほら着きましたよ!下を見てください。」

風に言われて下を見てみると、そこには色とりどりの花が一面に咲いていました。

先ほどの香りはこの花のものだったのです。


あまりの美しさに声も出せないでいると、風が声をかけてきました。

「どうですか、雲さん?美しいでしょう?」


「ええ、とても…」

花から目を離さずに答えました。


「……元気、出ましたか?」

風が遠慮がちに聞いてきました。

ここでようやく風が落ち込んでいる自分を元気づけるために、この花畑を見せてくれたのだと気がつきました。

虹のことを思う気持ちと、風の優しさで心がきゅっと締め付けられました。


「とても、綺麗で、心が洗われるようです。でも……僕は虹さんの方が、綺麗だと、思います。」

そういいながら、いつの間にか自分が雨を降らせていることに気づきました。

しかし、気づいたところで止めることが出来ません。


「はい、でもこちらも綺麗でしょう?虹さんも花も見ていると元気が出ます。」

風が優しい声で言いました。


「はい、その通りですね…」

花を見つめながら、自然に任せてさあさあと雨を降らせていました。

その雨が止まるまで、風と共にその場でじっと花を見つめていました。


「風さん、ありがとうございました。」

雨が完全に止まってから、風にお礼を言いました。


「いえいえ、元気になられたようで良かったです。それでは私は失礼しますね。雲さん、お元気で。」

風はそう言うと、辺りにふっと風が吹きました。それっきり風がやんでしまったので、風がいなくなったことが分かりました。






ふわふわふわわ

柔らかな体を風に任せてお散歩しています。

いろいろな場所を巡ったせいか、なんだか自分の体が一回り大きくなったような気がしました。



ふわふわ

ふわふわ

ふわふわふわわ


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