act.3
「なんで……」
低く呻いた。
「どうして……」
震える拳を握りしめた。
そして。
「なんでなんだよーっ!?」
「うるさい」
鉄格子に手をかけ、カイが悲痛な叫びを上げる。
そのカイに向かって、ソラが容赦なく言い放てば、くるりと彼が振り返った。
「叫ばずにいられるかよ! イシュカに入って早々、牢屋に閉じ込められてるってのに!」
「誰のせいだと思ってるんだよ」
「う……」
ソラがじとりとカイを見つめる。
途端、憤慨していたカイが気まずげに目をそらした。
ソラはため息をついて、堅い牢屋の壁に背を預ける。
そう、牢屋だ。
まごうこと無く、正真正銘の牢屋。
門での戦いの後、本を破損したとかいうよく分からない罪でしょっぴかれた。
問答無用で頭から麻袋を被せられ、しばらく馬車で輸送された先がここだ。
イシュカに入って早々、こんなことになるだなんて誰が想像できただろう。
出来るわけない。ソラは顔をしかめる。
「というか、カイはなんで、あんなにボロボロの本を持ってたんだよ?」
「だ、だってオーチャードが持ってけ、って言うから……」
「オーチャード……というと、あの風の龍か?」
ソラの隣で、相変わらずリューを膝枕したジンが首を傾げる。
ソラは一つ頷いた。
「そうだよ。ルーサンが契約者。その兄がチモシー。三人は確か、エレミアに行くって言ってたけど」
「ソラの故郷に? 観光か何かか?」
「まさか。あそこで龍によく似た魔物を見たって、僕が言ったんだ。そしたら、竜かもしれないから、見に行きたいって」
「ふむ……?」
「元々、ルーサン達は竜について調べるために旅してたらしいから……うーん、でもオーチャードが本を持っていけ、って言ったのなら、やっぱり何か意味が、」
「ま、俺が受け取ったのは条件反射だけどな」
あるんじゃないか。そうソラが言いかけたところで、カイが自信満々に言い放つ。
なんだか嫌な予感がした。
それでも一縷の望みを持って、ソラは恐る恐る口を開く。
「ちなみに聞くけど、条件反射って?」
「旅人よ、これを持って行きなされ……っていう流れだと思ったんだよ! そしたら当然受け取るだろ! 受け取ってなんぼだろ!」
「……まともな返事を期待するのが間違いだった……」
「ってなんでそんな残念そうな顔するんだよ!? 大丈夫だって! セロリー道理なら、牢屋に入れられるのは王様に会えるフラグだから!」
「なんのフラグだよ!? ていうか、『セオリー』を『セロリー』って言ってる時点で不安しかないし!」
「む。好き嫌いは良くないぞ、ソラ。ちなみに私はセロリよりブロッコリー派だ」
「どうしてそこで、ちなんできたんだよ!?」
ジンのマイペースな発言にソラが突っ込む。
その時だった。
「呑気に会話なんかしてる場合じゃねーのですよ」
鉄格子の軋む音にソラたちが振り返る。
入り口に、あの銀髪の少女と数人の警備隊の男たちが見えた。
ソラは体を強ばらせる。
「なんの用だよ?」
「そんなの決まっているのですよ。裁判なのです」
「さ、裁判って……」
「大丈夫なのですよ。緊張は不要なのです」
銀髪の少女は、にこりとソラに微笑みかけた。
それはもう、天使のような微笑みを浮かべて。
言う。
さらっと。
「どうせ、貴方がたの言い分は聞かんのですから」
「え、ちょ、それって裁判って言わないよね!? 理不尽だよね!?」
「理不尽? 失敬な! 女王様直々に裁いてくださるのですよっ! 立場をわきまえやがれなのですっ!」
「いやいや! こっちだって、ちゃんと言いたいことが……って、女王様……?」
勢いで反論しかけたソラは、そこで、はた、と言葉を止めた。
目を瞬かせる。女王様。その言葉をもう一度反芻してみる。
そんなソラに向かって、銀髪の少女が得意げに鼻を鳴らす。
「この国では、全て女王様が裁かれるのですよ。罪人の身で、女王様の姿を見られること、光栄に思いやがれなのです」
不本意にもカイと目があった。
フラグは見事に回収されたらしい。




