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Intermezzo - for Doll-
かち、かち、かち、かち。
規則正しいその音は、わたしが生まれた時からずっと鳴り響いていた。
音と一緒に、たくさんのことを覚えている。
昼でも夜でも薄暗い部屋。
埃っぽい空気にぽつんと揺れる蝋燭の灯火。
壁一面が本棚で、収まりきらない本はあちこち床に乱雑に置かれている。
そして、あの人の広い背中。
ほんの少し背中を丸めて、一心不乱に机に向かって物語を書いている。
万年筆の先が紙に時節ひっかかる、その音が好きだった。
あの人が腕を動かす度に、さらさらと鳴る衣擦れの音も好きだった。
静かな世界で、あの人の指先から途方も無い物語が生まれる。世界が生まれる。そんな瞬間が、好きで。
だから、わたしはいつだって願う。
少しだけ開けた扉の隙間から、あの人の背中を眺めながら。
どうかどうか。
いつかあの人の描いた夢のある物語が現実になりますように。




