一章‐それから‐
「うっ…。」
目を開けると、其処には井草が広がっていた。何かタオル的なものが掛かっているようで、冷えていた体を温めてくれている。
「(此処はどこ?)」
さっきまで見えていた石畳は何処にもない。体を起こして、よく見てみる。其処には変わりに、井草の畳や座布団、本などがあるだけ。
「(また知らない間に勝手に移動してしまったのかなぁ。)」
眉間にしわを寄せていると、足音が聞こえてきた。
「目、覚めたか。どう?具合悪いとかない?大丈夫?」
長身の青年が膝を折り、幼い女の子に目線を近づけて尋ねた。
「あっはい。……えっえーと?その…。」
言いたい事があるのになかなか言葉にできず、顔を林檎の様にしてあたふたしている。
そんな彼女を落ち着いて話すよう促すために、
「う?」
そう優しい顔をしてみせた。
そんな彼を見た彼女は、先程よりは幾分か落ち着きを取り戻し言葉を紡いだ。
「あっあの、さっきお会いした方ですよね。わたし、あのあとどうなったのですか。気がついたら此処にいたので、何がなんだかわからないです。あなたが、わたしの手を取ってくれた事まではおぼえています。」
「わかった。」
女の子に近くに寄り、落ちてしまったバスタオルを再度肩に掛ける。
「君はね、僕が手を握った事で安心してしまったのか、その場に、正確には僕の方に倒れこんでしまったんだよ。僕は君を抱いて此処僕の家まで運んだんだ。それから、雨にぬれてしまっていた肌をタオルで拭いて、座布団の上に寝かせバスタオルを掛けてた。そんな感じ。」
人の目を見て話しをすることを日頃していない青年は、自然と目を逸らしていた。言い終わってから、話している間逸らしていた目を、再度彼女に向ける。其処には、申し訳なさそうなそれでいて嬉しいような小さな女の子の顔があった。
「あの、ありがとうございます。その…色々と迷惑を………。」
青年の目を真正面から見て、言ってきた。
それに対し、心底どうてことないという顔をして
「別に…良いよ。君くらいの子は、他人に甘えまくるものだし。」
そう言うと、台所へと足を運んで行った。
「?」
急に自分から離れていったから、戸惑いを隠せない。
しばらくして、お盆に二つのカップを乗せてやってきた。
「濡れた服脱いで、其処に置いてある服着な。っんで着たら、ホットココア入れたから飲みな。温まるよ。」
「あっはい。ありがとうございます。」
ペコペコとお辞儀をしきりにする。
それに愛らしさ多少感じながら、苦笑した。
「いや…別に…。服、大きいのしか無かったから…その大分ぶかいと思う。ごめん。」
「いえいえ!貸していただけるだけで…………!」
顔をぶんぶん振って答えてみせる。
「そうか。」
そう言った顔はとても優しいかった。青年は、いつの間にか上げっていた口角を相手に見られないように、そっぽを向いた。それだけだと不自然だから、近くにあった適当な雑誌をコーヒー片手に読み始めた。
隣からごそごそという音が聞こえてくる。