一章‐小さな子供‐
子供は嫌いだ。
無知なのに自己主張が激しい。
身勝手、自己中……
その姿を見ただけで吐き気がする。
――――幼かった頃の自分の言動を思い出して、吐き気がする。
人気が無い此の道に、人がいる。
それも、僕の嫌っ……苦手な子供が。
その子はこんな所でいったい何をしているのだろう?
――――できることなら、関わらずに走り抜けて行きたい…。
しかし、それは「子供」だった頃の自分を思い出して、良い気分がしない。
「(…、っよし!)」
タッ
子供の方へ歩いていく。
そして、勇気を振り絞って声をかけた。
「き、君こんな所でどうしっ「あの此処どこですか?」
「……へっ?!」
教授のときに引き続き、またもや変な声が出てしまった。
自分が言い終わらないうちに、向こうから質問が来たので、若干慌てている自分がいる。身長180センチある男子学生が、小さい子相手に慌てている姿は実に滑稽だ。おもわず苦笑をもらしてしまう。さっき言った此の子の言葉から推測すると、どうやら此の子は、自分がなぜ此処にいるのか、そもそも此処は何処なのか理解していないようだ。
――――迷子か。
しかし、それで片付けるには不可解な点が幾らか残る上に、「なぜ此処にいるのか」というのに当てはまらない。「焼けた」ことで、短くなったような髪と衣類。火遊びをしていたとも考えられるが…、
遊んでいて迷子になった割には、豪華な着物を身に纏っている。こんな服装で、迷子になるような遊びをするとは到底考えられない。
「(う~ん。)」
………
「あっ、あの!!」
「(ハッ)」
また、考え込んでしまっていたようだ。手を腰に当て、上を向いて考え込んでいた顔を、女の子の方へ向ける。少女は、相手がこちらを向いたのを確認してから、
「何度もごめんなさい、此処何処かわかりますか?」
と聞いてきた。
「(あっ、聞かれてんだった。)えーとっ――此処は、×××家の大きな屋敷に沿って通っている道だよ。」
「(…。)そうですか。ということは、此処は外なのですね!」
路頭に迷いまくっていますという顔をしていた目の前の子は、なぜだか瞳を輝かして言ってきた。
「(外っ?)うっまぁ、そうかな…?(汗)」
「そうなのですか!そうなのですか!!」
キラキラキラキラ
「(うう…)」
子供の輝きに若干押されている齢19歳の青年。
しばしの間…
そして、
「君、なんで此処にいるの。」
初め言い切ることができなかった質問を少し変えて問うてみた。
子供は少し考える素振りをしてから、
「わかりません。」
そうキッパリ言った。
「わかりませんって、じゃぁ君何処から来たの。」
「蔵のような場所からです。どうやって此処に来たのか、どうして此処にいるのか、わたしにはよくわかりませんです。……っ本当によくわからないのです。わからないのです……」
言葉の最後の方は、消えそうになるくらい小さかった。よく見てみると、小さな体を小刻みに震わせていた。上を向いていた顔も、今は下を……。
「(…。っ此の子は…!)」
「――――とりあえず、僕ん家来るかい?」
もともと小さい体をもっと小さくして俯いている小さな女の子に、僕は手を差し伸べていた。
―――――――子供が、大嫌いな此の僕が…
小さな女の子の途方にくれている様は、
無知な故に路頭に迷っている様は、
――――いつかの僕の姿と酷似していた。