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一章‐雨の日‐

 午後の講習を受けていたら、急に天気が悪くなった。

 雨の音で教授の話がほとんど聞こえない。

 雨は嫌いだ。

 戦前から残るこの「歴史ある」校舎をどこらかしら壊して去っていく。

「…せめて、賠償金に値するものを置いていくべきだろう。」

 おもわず思ったことを口に出してしまう。

 この大学は物凄く小さい。従って、校舎の修理をこう何度も繰り返すとお金が足りなくなるのだ。そういった事態になったら、此処に通っている学生から寄付を募る始末。お金の無い学生にとっては、これ以上ないほどの重い出費だ。だから、こう雨に訴えたくならざるおえないのだ。

「君の頭は、私の話より明日の生活に直結する“お金”の方が大切かね?」

「……へっ!?」

 いきなり現実に引き戻された僕は、思わず変な声を上げてしまった。教室にいた全員が、大爆笑している。肘を立て、窓を向いていた顔を、教壇のほうに向ける。其処には悲しそうな目をして、口元はニヤついている教授がいた。

「別にかまわないのだよ。お金は大切だ。しかも、金欠ぎみの学生諸君だ。他の人に比べてその執着は大きいのだろう。―――それに比べ、わったしぃの話なんて! くだらないモノだろうとも!!」

 言葉の最後の方には、涙を流して叫んでいる。どんなに顔上半分は悲しそうでも、やはり下半分はニヤニヤしている。まったく、キモい顔をする教授だ。

「教授、違いますよ。僕はいつも校舎のどこかを壊して去っていく雨に訴えていたんですよ。――――まぁ、お金は大切なのは確かですが。教授の話好きですし、くだらないなんて思う訳が無いではありませんか!」

「――――君、私のこと好きなの?」

「ええ、はい………?」

「私には妻子がいるのだが、それでも…」

「そういう意味じゃないですよ!!」

 ゲラゲラゲラ

 また教室じゅうが笑いに包まれた。

 此処は本当にのんびりしたところだなぁと思う。

 今日の午後分の講習内容の半分も進んでいないのに、タイムリミットが来ようとしている。教授が物凄く脱線しまくっているからだ。いきなり家族の話とかしだすし、しかもそれを一時間以上話すのだ。教授には時間配分という言葉が無いのだろうか?たいての教授や教師というのは、時間の中で上手く雑談を入れてくるものだが、教授にはそれがない。これは僕のなかの感覚的にこうかなと思うことだから、必ずしもそうではないかもしれないが。

 こんなで今日の講習も終わった。


          *


 下駄箱で外履きには履き替え、外に出る。(古い学校のため、大学なのに靴を履き替えるのだ。)

 まだ雨は降っている。

 雷の音も聞こえる。



 ―――――――――――!!



 凄まじい音がした。

 どうやら比較的近いところに落ちたようだ。

「(たしかあの方向は、大きな屋敷があったらへんかな。道、通れるかな?)」

 帰り道の心配をしながら、帰路についた。折りたたみ傘を忘れてしまったので、仕方がないから鞄で雨を凌ぐことにした。(頭にしか意味を成さないが…。気持ちということで!)そして、ゆっくり運んでいた歩を少し速めた。


          *


 一人の青年が小走りで石畳の細い道を行く。さっきまでざざぶりだった雨は、小雨になっていた。

この細道は、一日を通して人があまり通らない道だ。この青年以外通る人がいないといっても過言ではなかった。それほどに人気が無かった。理由のひとつに、唯一この道だけに面している大きな屋敷の存在があるように思えた。そこは、あまり人と関わろうとしない人たちが住んでいるようで、その屋敷から出てきた人を見た者は皆無だった。


 道を進んでいると、急にありえないものが視界に入った。

 この道で見ることは、ありえないものが。


 人がいた。

 それも小さな女の子がいたのだ。


「えっ」

 おもわず目をこすって、頬を抓ってみる。

「…痛っ」

 どうやら夢ではないようだ。

 青年は、少女から離れた道の真ん中に立ちすくんでいた。


 その状況をなかなか理解できずにいた。



 小雨は、パラパラと石畳を鳴らしながら降り続いている。




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