序章‐私の「普通」‐
私の世界には何もなかった。
在るというのならば、寝ることが着替えることができるものとたくさんの物。それだけ。
家族は、おかあさんとおねえちゃんが双子で2人。
今、家族がどうしているのかなんてわからない。
私の世話役を担っているおばさんがいるけれど、家族については何も教えてくれない。
教えてくれたことは、私の誕生日と名前、それと私が「普通」じゃないってこと。
誕生日は月は教えてくれたけれど、日時までは教えてくれなかった。
名前は××××なんだって。
ここまでは私の頭でも分かったのだけれども、「普通」ではないってことについてはよく分からない。
そもそも私は、どれが「普通」でどれが「普通」ではないのかが、よく分からない。
私の世界には、かすかに記憶の中に残る3人の家族と毎日一定時間に来るおばさん、それと周りにあるたくさんの物しかないのだから、判断のしようがないのだ。
『どう、「普通」ではないのか』
私にとっては今の生活が「普通」で、それ以外の何物でもない。
その現実が、事実があるだけ。
それでも、知りたいとは思う。
けれど………私はそのための術を知らない。
どうすれば、知ることができるのか分からない。
分からないことだらけの私。
何も知らない私。
でも、それが私の世界の「普通」。
「当たり前」のこと。
ただそれだけ。