序章
小さな手で目を覆って世界を見てみた。
けれど、其処には何も無かった。ただただ真っ白なだけ。
手をどけ、目を開けてみる。
けれど、其処には何も無かった。ただただ真っ白なだけ。
真っ白な世界が広がるだけだった。
其処は質素な部屋だった。
人が住むところにしてはとてもお粗末なもので、物があちこちに置いてある。
―――それも尋常とは言えないほどの量が。
どうでも良いような「ガラクタ」と呼べるようなものが乱雑に幾つもの段ボールに詰め仕込まれている。また、捨てるには惜しいが日常ではけして使わないようないわば「家宝」などといったものも、一緒になってこちらはしっかりとした木箱にしまわれている。そのたくさんの段ボールやら木箱やらが此処に山のように積み重なっている。
どれも“人が生活する場”に置かれているのは不自然なものばかりなのは、言うまでもない。
しかし、こんな物置の片隅で生活している人間が、しかも小さな女の子がいるのだ。
この物置はどのようなのか説明するならば、「蔵」といえば一発に分かるだろう。
よく大きな日本の伝統的な創りの屋敷にあるような蔵。(―――まぁ、例えるも何も、此処は今言ったような「日本の伝統的創りの屋敷」そのものなのだが。)
その少女がいったいどのように生活しているのかという話に戻す。
蔵の入り口から少しはなれた隅に彼女はいるのだが、其処にあるのは小さな布団(意外にもきれいで清潔そうなもの)とちゃぶ台、それと簡単な衣類がなどが入れられた小さな桐箪笥。食料などは毎日一定の時間になると蔵が開き、届けられる。(言い忘れていたが、蔵はいつも厳重に締められている。)
そんな「軟禁」のような生活をしているのだから、この少女の容姿は酷い様だろうと思われるが、奇妙なことに普通の生活をしている子となんら代わりの無い様子なのだ。ぷるぷるとしたみずみずしい白い肌に、淡い水色の瞳は凛としている。髪には美しい艶があり、その白に青みがかった床に引きずるほどの長髪は一時でも視界に入ったのならば、そのまま見入ってしまうほど本当に美しい。
――――前言撤回しよう。普通の生活をしている同年齢の子に比べたらはるかに美しい様をしている。
“美しすぎて、もはや人形のような容姿をしている”
そこから不思議なオーラが醸し出される。それは、人によっては……否、ほとんどの人は彼女を「恐れる」そんなオーラだ。「軟禁」されていることで、顔から表情が、心から「嬉しい」という感情が抜け落ちたのか、随時無表情であるのもそれに拍車をかけている。
そんな不思議な小さな女の子の物語。
儚い小さな希望を其の胸に宿した………