トランクの中の海 ~ぼくは大きな船に乗った~
ポカポカ陽気の午後。
ミナトは古いトランクをひっぱり出して、遊んでいました。
ずいぶん古いものです。
お父さんの、お父さんの、そのまたお父さんのトランクです。
えーと、ひいおじいちゃんと言うんだったかな。
船長さんだった、ひいおじいちゃんが船に乗る時に使っていたのだそうです。
ところどころ、すりきれていますが、しっかりした革でできていて、くすんだ金色の金具がついています。
ミナトのお気に入りです。
ミナトはトランクの中にすわって、いつものようにロケットごっこをしていました。
トランクの中が操縦席です。
ふと。
いつもとちがうことがしたくなりました。
何がいいかなぁ。
そうだ。船長さんのトランクだから、お船にしよう。
「大きな船になれ!」
ミナトがトランクから出て、大いばりで命令すると、突然「ボォ〜」と大きな音がして、トランクの中からザブザブザブと水があふれ出しました。
水は、ミナトのおもちゃを押し流して、部屋の中にどんどん広がっていきます。
魚がピチンと跳ねました。
部屋の中は、潮の香りでいっぱいです。
どうしよう。どうしよう。
あわてるミナトの頭を大きな手がなでました。
「ようこそ、私の船へ」
びっくりしたミナトが見上げると、白くてカッコいい帽子をかぶった、優しそうなおじいさんが目を細めてミナトを見ていました。
白い制服の胸には、勲章がいっぱいついています。
「お名前は?」
おじいさんがたずねました。
「ぼく、ミナト」
少し緊張しながら、そう答えると、おじいさんはもう一度ミナトの頭をなでて、ニコッと笑いました。
「よく来たね、ミナトくん。ほら、向こうを見てごらん」
おじいさんが指さしました。
広い、広い、海の上です。
いつの間にかミナトは大きな船に乗って、海を渡っているのでした。
青い空には白い雲が浮かんで、太陽がまぶしいほどです。
波がキラキラ光っています。
気持ちの良い風がミナトの体を吹き抜けていきます。
すごい!
すごいぞ!
うわぁ!
ミナトのほっぺたが、赤く輝きました。
「ミナトくん、船は気に入ったかな?」
「うん!」
「いつでも遊びにおいで。そうだ、これをミナトくんにあげよう」
おじいさんは、胸の勲章を一つはずして、ミナトの手のひらに乗せました。
「ありがとう!」
ーー気がつくと、ミナトはトランクの中に、ぼんやりとすわっていました。
部屋は、元通りに戻っていました。
日差しが少し傾いています。
「夢、だったのかな」
ミナトがギュッとにぎっていた手をひらくと、そこには白い貝殻が一つ乗っていました。
そっと耳にあてると、ザザァと海の音がしました。




