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お風呂で歌ってたら召喚されました?~合理的な召喚士と始まる異世界生活改善録~  作者: 近藤 博愛


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3/3

第3話

※この作品は全5話、完結予定です。完結までは毎日20時更新です。


異世界での生活が、少しずつ日常になってきます。

「聖女様がご降臨なさったとか。いやー、めでたい。ぜひともご尊顔を拝謁したく」

「貴様のような品のない新聞屋に話すことなどない。帰れ」


玄関先で言い争っているルーフェンと男の声が聞こえるが、正直それどころではない。

両手で自分の毛先を握る。ギッシギシである。

この世界、石鹸はあるがシャンプーはない。洗わないよりはマシと思って使ったところこのありさまだ。


「どうかなさいましたか?」


戻ってきたルーフェンが私の顔を覗きこむ。コイツは顔も髪も綺麗だがどうやってケアしているのだろうか。


「シャンプー、ほしい」

「しゃんぷー、でございますか?」

「髪を洗うための石鹸」

「石鹸ならばこの国最高級のものを……」

「その石鹸で洗ったらこのザマなんだよ!」


この世界、文明があまり進んでいない。魔法で何もできるからか生活の質は高くない。食事もイマイチだし、シャワーもなかった。


「確かに、アマネが生活することを前提の用意した家ではありませんから……できるだけ対処します。しゃんぷーとやらを自分のご説明いただけますか?」

「作れるの!?」

「努力はしてみますが、可能であると明言は出来かねます」


そういうとルーフェンはペンと紙を用意した。

ちなみに、ここはルーフェンの自宅だそうだ。王宮のすぐ近くにあるそれほど大きくない一軒家で、リビングとキッチン、お風呂と寝室があるだけの2階建てでそれほど大きくない。まあ、ここは忙しい時に寝に来るだけの場所で、本宅は別にあるらしいが。

そんなことより、今はシャンプーだ


「えっとね、髪を洗うことに特化してて、とろみのある液体で、泡立ちが良くて……」


つらつらと言葉を並べていくとルーフェンはその1つ1つをメモしていく。話し終わる頃にはルーフェンの書いたメモが床中に散らばっていた。


「検討しますので少々お待ちください」


そういうとルーフェンはメモを集めてリビングのテーブルに並べ始めた。顎に手をやり

真剣に考える表情はイケメン好きが見たら喜びそうである。


「検討が終了しました。再現可能であると考えます」

「本当!?」

「少量の試作を行いますので少々お待ちください」


ルーフェンはそのまま材料を集めに家の中をうろつき始めてしまったので私は暇になってしまった。とりあえず、邪魔しないように適当な本を手に取ってみる。


「……読めない」


思わず声が漏れた。

ボソッとした呟きが聞こえたのかキッチンの奥からルーフェンが何か呪文のような言葉を唱える。するとよくわからなかったこの世界の文字が日本語に変化した。


「え!?」

「アマネは文字が読めたのですね。会話ができれば問題ないだろうと言語理解スキルを最低限にしていました」

「……ありがとう」


作業の片手間にできるくらいなら最初からやっておいてほしいものだが、もしかするとこの世界、識字率が低いのかもしれない。


「この世界の人って読み書きあんまりできないの?」

「貴族は一般的にできますよ。平民はそうでもないですが。アマネは読み書きができるのですね」

「計算も簡単なものならできるよ。四則計算くらいなら普通に」


小学生くらいの知識なら何とかなる。……多分。


「貴族と同程度の知識をお持ちでしたか。失礼しました」


どうやらこちらの平均を基準にされたらしい。それであればルーフェンを責めるのは筋違いだ。日本人の識字率はかなり高い。


「……ん? 魔法で読めるようになるならそれを世界中に使えばいいんじゃないの?」

「悪くない着眼点ですが、それほど万能ではないのです。特に言語は」

「ふーん、そっか」


特に追及するほどの興味もないのでそのまま本に意識を向ける。やたら難しい魔法の理論がどうのこうのと書いてあったのですぐに閉じた。


「もっと簡単な本ないの?」

「……いずれご用意しますね」

「あ、じゃあ私、ラブロマンスが読みたい」

「かしこまりました。ロマンス小説をご用意します」


こんな会話の中でもルーフェンは集めてきたものを混ぜ合わせる作業をやめない。その様子に、口約束になるのは嫌だなと思ってルーフェンが出しっぱなしにしていた紙を一枚手に取った。ざらざらしていて、週刊誌の紙みたいなそれにほしいものリストを書いておくことにした。


「ペン……書くものある?」

「こちらを」


ようやくこちらを向いたルーフェンがさっきまで使っていた羽ペンとインクをテーブルに置く。手へのフィット感といい書き心地といいどうやら高級品のようだ。


「いいの?」

「はい。アマネ用に一式注文しておきましょう」


値段は聞くのが怖い、と思ったが、この世界の金銭価値がいまいちわからないのでとりあえずスルーしておいた。


「じゃあ、欲しいものの一覧作っておくね」

「かしこまりました。自分はしゃんぷーを作るための買い出しをしてまいります。くれぐれも外には出ませんようにお願いしますね」


言われなくても怖くて外出なんてできそうもない。この家に来た時は夜中だったので何も見えていなかった。ひとりで外に出ようものなら迷子まっしぐらである。


「人が来ても対応は不要です。先程来ていた男が自分の不在を狙うかもしれませんので一切出なくて大丈夫です」


そう言えば、ルーフェンは新聞屋と言っていた気がする。あの言い方では新聞というより恐らくゴシップ記事を狙う輩だろう。あまり関わりたくはない。


「できるだけ急ぎます」

「いってらっしゃい」


ルーフェンを見送ってほしいものリスト作成を再開する。恋愛小説にシャンプー、髪が洗えるならドライヤーもほしい。とにかくほしいものを書き連ねてさすがに難しいだろうと思うものは線で消す、という作業をしていると玄関から物音が聞こえた。

ルーフェンが帰ってきたのだろうかと玄関先まで行くとルーフェンの声がした。


「すみません、両手がふさがっていまして……開けて頂いても?」


完璧に見えるあの男にしては珍しいが、ルーフェンとて人間なのだ。そういう時もあるかと少しうれしくなって「しょうがないなぁ」と笑いながら扉を開けると、そこにはオレンジ色の髪をひとつに束ねた見知らぬ男が立っていた。


「おーいたいた。ようやく会えてうれしいよ。オレはレイっていうケチな新聞屋なんだけど、君が聖女で間違いない?」

「い、いま……ルーフェンの声……」


そう呟くと同時にレイと名乗った男が「ふべぁ!」とか妙な声を上げながら吹っ飛んだ。


「アマネ、無事ですか」

「私は平気だけどあの人生きてる?」

「カイエンなら生きています」

「一般人と騎士団長比べんなバカ!」


平和主義者の日本人としては下手にケガでもされた方がその方がいろいろ怖い。

思わず木に引っかかっているレイの元まで走ってしまった。



「大丈夫!? 自分で降りられる!?」

「容赦ねーな、ルーフェンの旦那……」


ボソッと呟きながら降りてきたレイは傷だらけだったが、ちゃんと自分で立てている。


「アマネの安全が第一ですので。あと普通に殴りたくなった」

「魔法で吹っ飛ばすことを殴るとは言わねーだろ!」


叫ぶように言ってからレイは改めて私に頭を下げた。


「騙すような真似してごめんね。でも興味あったんだよ、王国全土を浄化した聖女様」

「あ、そう! 声! びっくりしたよ! ルーフェンそっくりだった!」

「昔から得意なんだよ、声真似。でも今回は悪いことしちゃったね。反省してる。だからルーフェンの旦那は詠唱やめろ!!!」


そんなレイの叫びもむなしく、ルーフェンの魔法によって今度こそレイは遠くへ飛ばされていったのだった。


「……よし、切り替えよう!」


庭の木に引っかかっても元気だった男だ。きっと大丈夫だろう。

それと同時に私は「ルーフェンを怒らせてはいけない」と心に刻むことになった。


「材料は揃ったの?」

「はい。髪のダメージが気になるとのことでしたのでポーションなども使ってみようかと」

「難しいことはわかんないからとりあえず作ってみよう」

「そうですね」


そんな会話から数時間後、ルーフェンが魔法なのか化学名のかわからない技術で透明なシャンプーらしき液体を作ってくれた。


「ありがとう! 早速今夜使ってみる!」


とウッキウキで夜まで待って使ってみた。


「……無臭」


シャンプーの香りすらしないそれの使い心地は最高だった。

しかし、やはり物足りない。好き嫌いは分かれるだろうが。多少の香り付けはしてあったほうが私は好きだ。

お風呂から出て濡れた髪をタオルドライしながら、私の作ったほしいものリストを見ているルーフェンに言ってみる。


「もう少しいい匂いとか付けられない?」

「機能としての不足はないと思いますが」

「うん。シャンプーとしてはこれでいい。でもいい匂いがするとテンション上がる」

「気分的な効能ですか」

「そうそう。私的には花とか果物の香りがついてると嬉しい」


そう言うとルーフェンが考え込んでしまった。無茶なことを言ってしまっただろうかとドキドキしていると、ルーフェンはおもむろにリビングの戸棚を開いた。

中から手のひらと同じかそれより少し大きいくらいの布袋がたくさん出てくる。なんだろうと首をかしげているとルーフェンが言った。


「この中にお好みの香りはございますか?」

「え? 何これ?」

「香袋と言いまして、異性であれば想う相手に送って好意を伝えるもので、同性の場合は決闘を申し込む際に投げつけるものです」

「そんなものがどうしてこんなにあるの?」

「大半がカイエンに投げつけられたものです」

「仲いいね」

「よくありません」


否定の言葉は無視して香袋をひとつ手に取ってみる。甘いバニラの香りがした。次のはちょっと酸っぱい柑橘の香り。ひとつひとつ香りが違うらしい。

いくつか試して悩んでいると、薄い黄色の袋をルーフェンが差し出した。受け取った袋からはフローラル系のみずみずしくて爽やかな香りがする。入っているのはスズランかユリの系統だろう。

ファンサのために使っていた淡いいい香りの香水を思い出す。私が好きなタイプの香りだ。


「これ好き」


素直にそういうとルーフェンは「そうですか」と言って、他の香袋を戸棚に戻した。


「では、この香りをベースに調合してみます。明日までお待ちください」

「わかった。ありがと……くしゅん」


小さくくしゃみが出てしまい恥ずかしくなる。そう言えば、まだ髪が濡れたままだ。


「ねえ、ルーフェン」

「はい」

「無理かもしれないけど言うだけ言ってみてもいい?」

「どうぞ」

「髪を乾かすためのあったかい風が出る道具が欲しい」

「なるほど。確かに道具にしてしまえば効率的ですね」


何かに納得したような顔のルーフェンに思わず尋ねる。


「ちなみにだけど、ルーフェンはどうしてるの?」

「自分の髪ですのであまり気にせず火魔法と風魔法で乾かしています」

「ずるい! 私もそれやりたい!」

「いけません。アマネの髪の長さでは焦げる可能性があります」

「髪乾かすのになんでそんな命がけなの!?」

「自分は大丈夫です。ですが、何か考えましょう」


そういうとルーフェンは私をソファに座らせて背後からタオルで髪を拭いてくれた。その手つきは優しく気持ちがいい。


「力加減、大丈夫でしょうか? 痛みなどはありませんか?」


思ったよりも近い位置で聞こえたルーフェンの声に驚いて思わず叫ぶ。



「近い!」


悲鳴じみた声になってしまったが、私の声にルーフェンの少し後ずさった。


「っ……失礼しました」


呟くように言ってからルーフェンが片手で口元を覆う。その顔は少しだけ赤くなっている気がした。

しかし翌日、お風呂場に置いてあったドライヤーらしき魔道具を見た私は、そんなことがあったこと自体、すっかり忘れてしまったのだった。


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