「この動画を見ている頃には俺は死んでいるだろう」から始まる動画を上手く撮るための講座
終活という言葉がある。
自分の死んだ後のことを考えて生前から準備を行っていくことらしい。
「いざというときのことを思うと俺も考えた方がいいんだろうな」
特に病気は無いし直近で何か死にそうなことがあるわけでもない。
だが突然死はもちろん何かあって動けなくなってからでは遅い。
「ってなると……。あれを……『この動画を見ている頃には俺は死んでいるだろう』ってやつ。やっぱやっておきたいよな」
『この動画を見ている頃には俺は死んでいるだろう』とは物語の中盤から終盤にかけて見る演出だ。
作中もしくは作品が始まる前に死んだキャラが残した動画を主人公が見る。
基本的に盛り上がり展開になるそれを俺もやってみたい。
というわけで早速本屋で特集していた雑誌を買って取りかかることにした。
『☆特集☆ 『この動画を見ている頃には俺は死んでいるだろう』におけるテクニックを全解説!! これを読むだけでイカした動画を撮れること間違いなし!!』
『まず撮影場所について! いつも仕事をしていた書斎だとかこの人ならこの場所! という馴染みの場所で撮影すると生前のことに思いを馳せさせることが出来て間違いないよ!』
「やっべえ……俺にそういう場所無いな。どうするか……」
『馴染みの場所が無い人は無地の背景が一番ベスト! 余計な情報量は減らす方向で行こう!』
「なるほど……じゃあ何か白い布でも買ってそれをバックに撮影するか」
『話し始めはもちろん『この動画を見ている頃には俺は死んでいるだろう』から始めよう!! その後はちょっと昔を振り返ったり、今の尊さを語ったりして情緒を高めていくけどここで一つ注意!! あまり前置きが長すぎるとだるいなあって印象を与えてしまうからほどほどにね!!』
「ふむふむ」
『続いて本題だ!! 世界の秘密、謎について暴露を始めよう!! 過去の画像なのにどうしてそんなことを知っているんだ!? 意外な新情報判明!! そういうギャップこそが動画を至高の物にするからね!!』
「そうか。世界の秘密……うーんどれにするか。迷うけど……そうだな、第三次世界大戦の火種になった事件、その黒幕についてでいいか」
『さて締めに向かってあと少し!! 次はこの動画を見ている主人公に対してアドバイスだ!! この動画を見ている主人公は大体色々な状況に巻き込まれて現状に悩んでいるはず!! そんな状況を解決するための金言を授けよう!! 『現状がまるで見えているかのようだ!?』って驚いてくれるはず!!』
『どんなアドバイスをすればいいか分からない人は『悩むな。自分の信じた道を真っ直ぐ行け』と言っておけば間違いなし!!』
「『悩むな。自分の信じた道を真っ直ぐ行け』……おお、これいいな」
『最後に動画の終わり方についてだけど、これに関しては二つのパターンがあるね!!
一つは綺麗に締めるパターン!! お涙頂戴で感動させよう!! 『未練があるとしたら大きくなったおまえの姿……見たかったなあ』と言っておけば間違いない!!
もう一つは途切れさせるパターンだ!! 『ああそうだもう一つ伝えないといけないことがあったんだ。それは――』とまで言ったところで唐突に動画を締めよう!! 一体何を伝えたかったんだっていい感じに興味を引けるよ!!』
「二つのパターンか……うーんこれは迷うな。まあとりあえず撮影しながらどっちにするか考えるか」
その後、撮影は長時間に渡って行われた。
動画の時間は10分前後、なのに長くなったのには理由があった。
まずは一発通し撮りであるからだ。『この動画を見ている頃には俺は死んでいるだろう』において途中でカットが変わることはありえないので10分一気に撮る。
もちろんミスや言い間違えもありえないので、その場合は最初からやり直しだ。
そうやって頑張って撮った映像も、後から実際に見てみると細かいところでこうした方がいいなあという粗が見えてきてまた撮り直す。
「出来た……」
昼から始めた撮影が終わった頃にはもうすっかり夜になっていた。
「疲れた……とりあえず今日はここまで。後のことは明日考えよう……」
疲れた身体を引きずって部屋を出る。そのときの衝撃で雑誌が机の上から落ちて……特集の最後のページが開かれた。
『最後に一番大事なこと!! それは動画をどんな場所に隠すか!!
『この動画を見ている頃には俺は死んでいるだろう』において一番重要なのは再生されるタイミング!! 死んですぐに再生されたら味気ない……でも見つからなかったら意味が無い!! ちょうどいい場所に隠そう!!
でも見つからなかった場合以上に最悪のパターンがあってそれが――』
ガチャ。
「ああもう……あの人ったら部屋を散らかしっぱなしで……。デカい布に……雑誌に……カメラ? 何か撮っていた……? 確認してみようかしら?」




