『全属性勇者、別の“偽勇者”が現れる』
坂上健吾は、自分より勇者っぽい勇者を見た。
(負けてる)
町の広場。
マント。
光る剣。
決めポーズ。
群衆が沸いている。
「勇者様だ!」
「今度こそ本物だ!」
(今度こそって何)
名乗りはこうだ。
七属性勇者・アルディオス
(増えてる)
アルディオスは派手だった。
火を噴き、
雷を落とし、
光で空を裂く。
演出が、うまい。
(俺、演出ゼロだもんな)
健吾は後ろで井戸を澄ませていた。
誰も見ていない。
(まあ、いいか)
噂は広がった。
「前の勇者は偽物だったらしい」
「無職だったしな」
(事実だけど、悪意ある)
役所が来た。
「坂上健吾」
「はい」
「比較のため、立ち会ってください」
(嫌な単語)
公開検証の日。
観衆、満員。
アルディオスは堂々としている。
「この世界を、俺が導く!」
拍手喝采。
「次、坂上健吾」
健吾は一歩出た。
「……何すれば?」
「奇跡を」
(雑)
アルディオスが言う。
「君は、もう終わった勇者だ」
健吾はうなずいた。
「はい」
(否定しない)
検証は進む。
アルディオスの魔法は――
全部、見た目だけだった。
火は熱くない。
雷は痛くない。
光は眩しいだけ。
(あ、これ……)
健吾が水を澄ませると、
観衆は初めて静まった。
効く。
ただ、それだけ。
真実はすぐ割れた。
アルディオスは、
魔道具と話術の塊だった。
「なぜ、勇者を名乗った」
健吾が聞く。
アルディオスは笑った。
「勇者は、需要だからだ」
(正論やめろ)
群衆は去った。
誰も、謝らない。
次の期待を探している。
夕暮れ。
健吾とアルディオスは並んで座った。
「君、本物なんだろ」
「はい」
「損な役だな」
「慣れてます」
アルディオスは言った。
「俺は、派手な嘘を売った。
君は、地味な本当を出し続けた」
「どっちが正しかったと思います?」
健吾は少し考えた。
「……まだ分かりません」
偽勇者は去った。
本物は、残った。
名前は呼ばれないまま。
全属性勇者は知った。
人は、救いより“物語”を信じる。
だから今日も、
物語にならない場所で、井戸を澄ませる。




