『全属性勇者、宗教対立の原因にされる』
坂上健吾は、知らない宗教同士が自分のことで喧嘩していると聞かされた。
(いや、もう俺、神じゃないって言ったよな)
片方は、全属性教団。
「勇者は現世神である」
もう片方は、純光正統会。
「人が神になるなど冒涜」
どちらも、健吾の名前を連呼している。
(使うな)
街は分断された。
井戸の前で、
水を汲む列が二つに分かれる。
「勇者派はこちら!」
「冒涜反対派は向こうだ!」
(井戸は一つだぞ)
健吾は両方から呼ばれた。
「声明を出してください」
「沈黙は敵対です」
(沈黙の自由、無い)
会談の場。
左右に宗教代表。
中央に健吾。
配置が、もう悪い。
(これ、裁判より緊張する)
「あなたは神か、人か」
健吾は即答した。
「無職です」
空気が凍る。
純光正統会が怒った。
「ふざけるな!
神性を否定するなら、
奇跡を起こすな!」
全属性教団が反論する。
「奇跡は、勇者様の慈悲だ!」
(慈悲じゃなくて善行)
健吾は、深く息を吸った。
「じゃあ、どっちも満足する方法」
二人が身を乗り出す。
「何もしません」
その日から、健吾は一切力を使わなかった。
井戸は濁る。
畑は枯れる。
橋は軋む。
人々は、祈る。
でも、何も起きない。
「神は、沈黙した……」
「いや、元から人です」
誰も聞かない。
数週間後。
争いは自然に収まった。
理由は単純だ。
信仰しても、得がない。
残ったのは、気まずさだけだった。
「……勇者様」
「様、やめてください」
「じゃあ、健吾さん」
(それはそれで照れる)
夜。
健吾は井戸を覗く。
そっと、水を澄ませる。
誰にも見られないように。
(信仰されない善行が、一番安全)
全属性勇者は、宗教対立の“原因”だったが、
解決策ではなかった。
世界は、神がいなくても回る。
ただ、人が理由を欲しがるだけだ。




