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『全属性勇者は魔王がいない世界で、殺された勇者の代わりに怒る』  作者: 南蛇井


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8/12

『全属性勇者、宗教対立の原因にされる』

 坂上健吾は、知らない宗教同士が自分のことで喧嘩していると聞かされた。


(いや、もう俺、神じゃないって言ったよな)


 片方は、全属性教団。


「勇者は現世神である」


 もう片方は、純光正統会。


「人が神になるなど冒涜」


 どちらも、健吾の名前を連呼している。


(使うな)


 街は分断された。


 井戸の前で、

 水を汲む列が二つに分かれる。


「勇者派はこちら!」

「冒涜反対派は向こうだ!」


(井戸は一つだぞ)


 健吾は両方から呼ばれた。


「声明を出してください」

「沈黙は敵対です」


(沈黙の自由、無い)


 会談の場。


 左右に宗教代表。

 中央に健吾。


 配置が、もう悪い。


(これ、裁判より緊張する)


「あなたは神か、人か」


 健吾は即答した。


「無職です」


 空気が凍る。


 純光正統会が怒った。


「ふざけるな!

  神性を否定するなら、

  奇跡を起こすな!」


 全属性教団が反論する。


「奇跡は、勇者様の慈悲だ!」


(慈悲じゃなくて善行)


 健吾は、深く息を吸った。


「じゃあ、どっちも満足する方法」


 二人が身を乗り出す。


「何もしません」


 その日から、健吾は一切力を使わなかった。


 井戸は濁る。

 畑は枯れる。

 橋は軋む。


 人々は、祈る。


 でも、何も起きない。


「神は、沈黙した……」


「いや、元から人です」


 誰も聞かない。


 数週間後。


 争いは自然に収まった。


 理由は単純だ。


 信仰しても、得がない。


 残ったのは、気まずさだけだった。


「……勇者様」


「様、やめてください」


「じゃあ、健吾さん」


(それはそれで照れる)


 夜。


 健吾は井戸を覗く。


 そっと、水を澄ませる。


 誰にも見られないように。


(信仰されない善行が、一番安全)


 全属性勇者は、宗教対立の“原因”だったが、

 解決策ではなかった。


 世界は、神がいなくても回る。

 ただ、人が理由を欲しがるだけだ。

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