『全属性勇者、裁判にかけられる(本気で)』
坂上健吾は、法廷に立っていた。
理由はよく分からない。
いや、分かってはいる。
「前回は冤罪でしたが」
「今回は“念のため”です」
(念のためで裁判するな)
被告人席は、やたら豪華だった。
理由は簡単だ。
「逃げられると困るので」
(信用ゼロの上に、過剰警戒)
健吾の周囲には、
封印魔法、結界、聖具、対勇者用拘束具。
(魔王より扱いひどくない?)
裁判長が木槌を鳴らす。
「坂上健吾。全属性勇者。
貴殿は“世界に対する危険人物”として告発された」
「……罪名、広すぎません?」
「その力自体が罪だ」
(あ、嫌なタイプのやつだ)
検察官が前に出る。
「被告は、意図せずとも町を救える力を持つ。
つまり――
救わなかった場合、それは罪ではないのか?」
法廷がざわついた。
(来た。能力者あるある)
証人が呼ばれる。
「彼は、魔王を倒していない」
(倒す前に終わってたんだよ)
「彼は、事件を未然に防げた可能性がある」
(予知能力はない)
「彼は、力を隠して暮らしている」
(普通に暮らしたいだけ)
健吾は手を挙げた。
「一ついいですか」
「許可する」
「俺が、昨日救わなかった“世界”って、どこです?」
法廷は静まり返った。
弁護人はいた。
若く、やる気がなく、
明らかにくじで当たった顔。
「えー……被告は……
その……働く気はあります」
「無職です」
「はい」
(フォローになってない)
判決前、裁判長が言った。
「もし貴殿が無罪なら、
その力を“管理”する必要がある」
「管理?」
「国家所属の勇者として登録だ」
(それ、有罪より重くない?)
健吾は、静かに答えた。
「それ、俺の人生ですか?」
誰も答えなかった。
結末は、曖昧だった。
有罪でも無罪でもない。
判決はこうだ。
「坂上健吾は、
定期的に善行を行うこと」
「……宿題ですか?」
「報告義務あり」
(善意のノルマ制)
法廷を出た後、
健吾は深く息を吐いた。
(魔王より、制度が怖い)
空は晴れていた。
平和で、
何も起きていない世界。
なのに。
「……生きづら」
全属性勇者は歩き出す。
救わなければ、責められ。
救えば、縛られる。
それでも今日も、
事件は向こうからやってくる。




