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『全属性勇者は魔王がいない世界で、殺された勇者の代わりに怒る』  作者: 南蛇井


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4/12

『全属性勇者、裁判にかけられる(本気で)』

 坂上健吾は、法廷に立っていた。


 理由はよく分からない。


 いや、分かってはいる。


「前回は冤罪でしたが」

「今回は“念のため”です」


(念のためで裁判するな)


 被告人席は、やたら豪華だった。


 理由は簡単だ。


「逃げられると困るので」


(信用ゼロの上に、過剰警戒)


 健吾の周囲には、

 封印魔法、結界、聖具、対勇者用拘束具。


(魔王より扱いひどくない?)


 裁判長が木槌を鳴らす。


「坂上健吾。全属性勇者。

 貴殿は“世界に対する危険人物”として告発された」


「……罪名、広すぎません?」


「その力自体が罪だ」


(あ、嫌なタイプのやつだ)


 検察官が前に出る。


「被告は、意図せずとも町を救える力を持つ。

 つまり――

 救わなかった場合、それは罪ではないのか?」


 法廷がざわついた。


(来た。能力者あるある)


 証人が呼ばれる。


「彼は、魔王を倒していない」


(倒す前に終わってたんだよ)


「彼は、事件を未然に防げた可能性がある」


(予知能力はない)


「彼は、力を隠して暮らしている」


(普通に暮らしたいだけ)


 健吾は手を挙げた。


「一ついいですか」


「許可する」


「俺が、昨日救わなかった“世界”って、どこです?」


 法廷は静まり返った。


 弁護人はいた。


 若く、やる気がなく、

 明らかにくじで当たった顔。


「えー……被告は……

 その……働く気はあります」


「無職です」


「はい」


(フォローになってない)


 判決前、裁判長が言った。


「もし貴殿が無罪なら、

 その力を“管理”する必要がある」


「管理?」


「国家所属の勇者として登録だ」


(それ、有罪より重くない?)


 健吾は、静かに答えた。


「それ、俺の人生ですか?」


 誰も答えなかった。


 結末は、曖昧だった。


 有罪でも無罪でもない。


 判決はこうだ。


「坂上健吾は、

定期的に善行を行うこと」


「……宿題ですか?」


「報告義務あり」


(善意のノルマ制)


 法廷を出た後、

 健吾は深く息を吐いた。


(魔王より、制度が怖い)


 空は晴れていた。


 平和で、

 何も起きていない世界。


 なのに。


「……生きづら」


 全属性勇者は歩き出す。


 救わなければ、責められ。

 救えば、縛られる。


 それでも今日も、

 事件は向こうからやってくる。

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