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『全属性勇者は魔王がいない世界で、殺された勇者の代わりに怒る』  作者: 南蛇井


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12/12

『全属性勇者、魔王がいない世界で戦う理由』

 魔王はいなかった。


 最初から、もう。


 坂上健吾は、名もない町の外れを歩いていた。


 誰も彼を呼ばない。

 誰も期待しない。


 それが、今の彼の居場所だった。


 世界は、平和だった。


 争いはある。

 不満もある。

 でも、滅びはない。


(守るもの、でかすぎなくて助かる)


 それでも、

 小さな戦いは、毎日起きていた。


 怒りと、

 不安と、

 勘違い。


 誰かが殴られ、

 誰かが疑われ、

 誰かが信じすぎる。


(魔王いなくても、忙しいな)


 健吾は、川のほとりに座った。


 水は、少し濁っている。


 昔なら、

 迷わず澄ませていた。


 今は、考える。


(俺がやる理由、あるか?)


 答えは、

 ずっと前から出ていた。


 夜。


 村で火事が起きた。


 大きくはない。

 でも、放っておけば広がる。


 誰も、健吾を呼ばない。


 健吾は立ち上がった。


 名はない。

 肩書きもない。

 期待もない。


 それでも、

 火を止める理由は一つだった。


 そこに、困っている人がいる。


 健吾は、力を使った。


 火を抑え、

 風を散らし、

 水を落とし、

 地を固める。


 派手さはない。

 拍手もない。


 翌朝。


 村は無事だった。


「助かったな」

「誰のおかげだ?」


 誰も、答えない。


 健吾は町を出る。


 背中に、何も背負っていない。


 魔王はいない。

 勇者もいない。


 でも、

 やらずにいられない人間は、いる。


 坂上健吾は、戦い続ける。


 敵がいるからじゃない。

 称号があるからでもない。


 ただ、

 見てしまうから。


 それが、

 全属性勇者が

 魔王のいない世界で戦う理由だった。

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