『全属性勇者、暇になる』
火の勇者。
水の勇者。
地の勇者。
風の勇者。
光の勇者。
闇の勇者。
そのすべての力を受け継ぎ、転生した男――
**坂上健吾(35歳・元営業)**は、玉座の前で立ち尽くしていた。
「……で?」
王様が困った顔で咳払いをする。
「魔王は、すでに討伐されておりまして」
「はい?」
「昨日」
「昨日?」
「別の勇者が」
「昨日?」
健吾は自分のステータスを見下ろした。
全属性MAX。
歴代勇者の加護、山盛り。
(フル装備で出社したら、会社が倒産してた感じだな)
「つまり俺、何すれば?」
「その……自由に?」
健吾はうなずいた。
「じゃあ、そいつ殴りに行きます」
「えっ」
「逆恨みです」
魔王討伐記念パーティーは、やたら豪華だった。
金色の装飾。
浮かれた音楽。
酔っ払った貴族。
(この世界、平和になるの早すぎない?)
健吾が会場に入った瞬間、悲鳴が上がった。
「勇者様が……! 勇者様が……!」
床に倒れていたのは、
殴る予定だった勇者の死体だった。
泡を吹いている。
(あ、これ毒だ)
「……俺、今日何もしてないのに、もうやること無くなったんだけど」
事情を聞く流れになった。
健吾は探偵役をやるつもりはなかったが、
全属性勇者が黙っていると周囲が勝手に期待する。
「犯人は必ずここにいます!」
「ですよね!」
「ですよねじゃない」
容疑者は多かった。
勇者に負けた騎士。
勇者に説教された貴族。
勇者に惚れて振られた令嬢。
そして――
勇者を祝福していた王子。
健吾はぼんやりと全員を見渡す。
(魔王より、人間の感情のほうがドロドロしてるな)
決め手は、しょうもなかった。
王子が、ヒロインを見るときだけ、
ほんの一瞬だけ安心した顔をしていた。
(ああ……)
「あなたですね」
健吾が言うと、王子は崩れ落ちた。
「彼が……彼がいなければ……!」
「いや、いても無理だったと思いますよ」
健吾は正直に言った。
王子は泣きながら連れていかれた。
後日。
ヒロインが健吾に頭を下げる。
「ありがとうございました。あなたも……勇者様、ですよね?」
健吾は首を振った。
「勇者の予定だっただけの、無職です」
「これから、どうされるんですか?」
健吾は空を見た。
魔王はいない。
世界は平和。
全属性の力は、行き場がない。
「とりあえず、ハローワーク探します」
ヒロインは笑った。
健吾も、少しだけ笑った。
その笑いは、
なんだか湿っていて、でも悪くなかった。




