表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
顔面で殴る皇女様ズ  作者: 月森香苗


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/18

05 晩餐会にて知らしめる

 絢爛豪華な晩餐会の会場となるホールには招かれた貴族の当主夫妻が緊張の面持ちでそれぞれの席に着いていた。

 二ヶ月ほど前に国賓を招いての晩餐会を行う旨と招待状が送られてきた。通常であれば国賓が誰かというのを察せるような何かしらが含まれているのだが、今回の招待状にそれは一切感じられなかった。

 ただ、余程でない限りは参加するように告げられていたので、葬儀がない限りはどの当主も参加していた。

 誰もが落ち着かず視線だけで周囲を探っている中、国王と王妃が先ずはホールに入ってくる。国賓が同格であればこの時同時にやって来るのだが、その様子は無い。聡い者はその時点で子供から聞いた話しが真実だったのではと感じていた。

 前日、学園に帝国の皇女殿下がお越しになっていたようだ、という話である。

 まさか、とその時は一笑したのだ。何故なら、帝国からともなると盛大な歓迎をしているはずなのに、そんな様子が無かったのだから。

 学園に通う子供の話を話半分に聞いていた者はもっと真面目に聞いておけば良かったと後悔している。

 その一方で、話を聞いていた者たちは別の意味で心の内が荒れていた。今日この晩餐会で大きな変化があるかもしれない、と。

 社交界では王子達を始めとした高位貴族の令息の乱心が話題で、それに伴いその婚約者の令嬢達の名も嘲笑とともに囁かれていた。女としての魅力に負けたのね、と。その大半が特に貶めたかったのが公爵令嬢のローゼルである。

 家門の爵位が高く、本人は美しく、持てる者だからこその妬み。このままでは婚約は解消もしくは破棄となり、ローゼルに瑕疵がつく。若く美しい令嬢の凋落ほど愉快な物はなく、その時が来れば更に地の底に落とせるようにと悪意を込めて噂は広がっていた。広げられていた。


 しかし、そのローゼルを皇女殿下が気に入っていたという。

 それが真実ならば。



 常ならば長テーブルを繋げて四角の形の内短い辺を無くしたような配置になっている会場が、全て丸テーブルとなっていた。

 そして主催と国賓が並ぶ長テーブルのすぐ近くにある一席だけはまだ誰も招かれていなかった。

 十名で一つのテーブルを使う形となっていて、夫婦での参加の為に五組ごと、という事だ。

 派閥等を配慮している事はわかる。


 問題は主催の席で、八名が横並びに座れる中、国王と王妃が客から見て右端二席、反対の左端二席に王弟夫妻が立っていた。

 真ん中の四席が不自然な迄に空けられている。


「アンザス帝国よりアナベル第一皇女殿下、トレニア第二皇女殿下、カルミア第三皇女殿下、ルピナス第四皇女殿下のご入室です」


 宰相の緊張に満ちた声にしん、とホールの中が静まり返る。

 国王が入ってきた時点で全員が立っていたが、アナベルを先頭として中に入ってきた皇女達を見るよりも先に一斉に最上の敬礼をする。

 帝国は王国の宗主国で、国王ですら頭を下げなければならない相手。皇女だからと下に見てはならない絶対的な強者。

 重たいはずのドレスをそうとは思わせぬように歩くのが淑女の基本である。

 中央の二席にアナベルとトレニアが並び、国王とアナベルの間にカルミア、トレニアと王弟の間にルピナスが立つ。


「面を上げなさい」


 凛とした涼やかな声に誰もが恐る恐る顔を上げて、そしてぐわんと脳を揺さぶられた。

 社交界の花と持て囃される夫人は何人もいた。憧れの令嬢と言われて来た者もいた。しかしそれらの輝かしい日々が一気に色褪せてしまうほどの暴力的な美がそこに存在していた。


「今宵はマクスハト国王より歓待の晩餐会に招かれた事、誠に嬉しく思います。今宵、マクスハト国王にはわたくし達の我儘を聞いてもらいました。本来招くのは当主とその夫人のみでしたが、王国に来て友となりました者をわたくし達の名で招きましたの。どうぞ入って来て下さいませ」


 皇女達が入ってきた扉から出てきたのはまだ若き令嬢十名。一人は皇女よりも歳上であるが、未婚の身であるので髪の毛を下ろしていた。

 彼女達を知らない者は居ないだろう。何せ社交界で悪意をもって名を貶められていた噂の渦中の令嬢達なのだから。

 そんな令嬢達を皇女は何と呼んだ?


「友」


 特に酷くローゼルを中傷し貶めようとしていたとある侯爵夫人は今にも倒れそうなほど顔色が悪い。

 その中で、令嬢達の両親は落ち着いている者が大半だが、一組の夫婦だけ顔を真っ赤にしていた。

 何故アレがあんな所にいる。アレは外に出られないように普段は閉じ込めていたはずなのに。あんなドレスは知らない。

 しかし声を上げるわけには行かなかった。


「食事を始める前に皆に告げる事があります。この度、ここにいるわたくし達の友となった令嬢達はこれまでの婚約を解消し、新たに我が国より新しい婚約者との縁組を行う事になりました。また、プルメリア嬢に関しては、現在の家との縁を切り、我が国の伯爵家に養子として入るよう手続きを行う事となります。元より生家にて冷遇されてきた身ですので、保護の意味が大きいものです。問題はありません」


 ざぁ、と血の気が引くプルメリアの保護者。公の場で明かされた冷遇の事実に同じテーブルにいる者達からの非難に満ちた視線が向けられる。何かを言わなければならないのに、言葉を発せない。

 それが二人の命を繋いだ。ここで何かを言った時点で彼らが犯してきた様々な罪が暴き立てられる予定だった。


「後継者の令嬢には帝国より婿となる令息を、そうではない令嬢は帝国に嫁いでもらいます。これをもって帝国とショモナ王国の縁は深くなる事でしょう」


 横並びに立つ令嬢達の胸元にはやけに目立つ首飾り。近くに居るものは、それが皇女達それぞれと同じ意匠の物だとわかる上、プルメリアに至ってはアナベルと似たようなドレスを着ていることで、彼女達が皇女に気に入られたのだと一目で理解させられた。


「マクスハト国王、挨拶を」

「畏まりました。それでは皆の者。晩餐会を開始する」


 グラスを手に軽く掲げて始まった晩餐会では明暗がはっきりと分かれていた。

 一組の夫婦以外の令嬢達の親は安堵と輝かしい笑顔で、その対称に彼女達の婚約者であった令息達の親の表情は暗い。

 国王は穏やかな顔をしているが、それは諦めからだった。




 一日で魔道具の効能が判明した。魅了の魔道具なのは確かだが、それには段階があった。

 まず、所持者を魅力的に思わせる効果が発動する。例え好みのタイプではなくても、なんか可愛いな、と思わせる程度なのだという。

 次に、他に好意を持っていた相手がいたらその相手を嫌悪しその分の好意を所持者に向ける。

 そして本格的に魅了されて所持者以外に攻撃的となる。


 これだけならば逃げようがないではないか、となるのだが、最初の段階では対処が出来るのだ。あくまでも魅力的に思わせるだけで、他に絶対的な信頼している相手とか愛している相手がいれば跳ね除けることが出来る。

 二段階目でも、自分の行動に違和感を覚えて距離を開ければ魅了の効果は薄れる。

 しかも、この魅了の魔道具の発動条件は目を合わせる事だが継続するには身体的な接触が必要となる。つまり、プニカから離れて体に触れられなければ問題は無かったのだ。

 王族や高位貴族の子供達はハニートラップの危険性があるので、女性の言動には警戒するように教えこまれる。そんな教育を受けていたにも関わらず、あっさりと魅了の魔道具に絡め取られたのは警戒しなかったということだ。


 王子達の様子がおかしいと気付いた時には既に取り返しがつかなくなっていたということだ。

 最終段階は依存状態となり、周りの声も届かない。

 魔道具を使われたのだから、と言われても、プニカから逃げられた令息もいたのだ。婚約者を深く愛していたから、寧ろ自分の思考が可笑しくなりかけて暫く学園に来ない間に影響が薄れた。

 その間、プニカは複数の令息で試して上手く行ったのを確認した上で王子二人に接触し、魔道具で魅了した。


 プニカはそのネックレスを「好感度をあげる魔法のアイテム」と思っていたと帝国側の尋問で述べたらしい。その他にも聞き出した情報はあったのだろうが、帝国で問題となっている事案に類似している為、公には出来ないとの事で。

 プニカは魔道具とは知らずとも人の心を操る物であり、誰から手に入れることが出来るかを知っていて接触し、王子や他の籠絡した令息や教師のことを知っていて狙ったのだと言う。

 彼女の目的は見目の良い男性に愛される事。ただそれだけ。

 王妃や王子妃などはおまけに手に入れられたらラッキーで、一番は誰よりも愛されて、他の女性を見下す。それだけ。

 それだけの為に令息達の心と未来は歪められた。

 魔道具だとわかっていたなら悠長に待たなかった。幽閉しようとしても逃げ出す彼らを止めきれなかったし、いつかはどうにか出来ると楽観的であった。

 魅了の魔道具に約一年触れてしまった彼らは皇女達を見て衝撃を受け、魔道具の影響から一時的には解放されたものの、深く侵食された影響で自我の崩壊寸前となった。

 皇女もまさか魔道具が原因とは思い至らず、悠長に構えていた事を詫びたが、全ての原因はプニカであり、皇女に詫びられる理由はなかった。

 当然だけれど、そんな状態で令嬢達に婚約の継続を頼むなど出来ない。

 魔道具の所為とは言え、顔を合わせる度に訳も分からず罵られ続けてすり減った愛情は枯渇してしまっていた。

 例え元に戻っても、信頼関係など築けるはずは無いし、何よりもまだ若い彼女達の輝かしい時期を無為にする訳にはいかなかった。


 そして男性側は被害者と言えど、令嬢達の名誉は貶められてしまっていた。悪趣味で嫉妬渦巻く社交界の中で彼女達を嬲りものにしようと悪評を流していた者達がいた。

 何の落ち度もないのに瑕疵を付けてやろうとする者達から守る方法は無いのかと国王と王妃が悩む前に、皇女達から解決策を提示された。


 帝国の皇女の友人と言う立場と、新たに帝国の貴族令息との縁談の取り成し。

 属国の王国の、ただの貴族令嬢が宗主国の皇女の友人ともなれば貶した時点でそれをした者は社交界から弾かれるほどの強力すぎる後ろ盾。

 国王は己が凡愚であることを誰よりも知っていた。それがこの国の王として求められる素質であることも。だから己の手で守れる範囲を理解していた。


「この子達はちゃーんと帝国が守ってあげるから、大丈夫だよぉ」


 甘い声と甘い言葉は心が疲弊していた国王には毒となるほどの威力があったものの、その差し出された手に縋るしか出来なかった。

 早めに登城した令嬢達とプルメリア以外の親達と令息の家族は、国王から話を聞かされ真実を知り誰もが困惑していた。


 プニカが理解の範疇を超えていたからだ。

 彼女の考えは快楽主義の未亡人が持っているものに近い。

 それでいて責任ある王妃などの座はおまけ程度の扱い。

 王族は国民に対しての責任がある。その命を守る責務がある。それなのに、己の欲望しかないプニカはあまりにも軽く考えていた。

 特に、王妃の怒りは凄まじかった。

 生さぬ子ではあるものの、二人の王子は何れ国を導くものとして邁進していた。勉学にも励み、幼いながらも政策に関心を持ち。

 王族として生まれ、他国の王妃となり、常に責任ある生き方しか知らない王妃を侮辱したも同じなのだ。

 多くの男を侍らせたふしだらな女が王妃の座はおまけ扱い。

 魅了された子供達は隔離された。頑丈な扉が付けられ、窓には鉄格子。錯乱して逃げ出さないように幽閉され、ひたすら影響が抜けるのを待つ日々を過ごす事になる。

 まだ、十代半ばの子供だった。一人は成人していたが、大半は子供で、輝かしい未来があったはずだ。

 それが奪われた。


 令嬢達は魔道具と言う恐ろしい物に翻弄された事は同情するも、婚約の継続は無理だと拒絶した。本意では無かったとは言えども罵倒され続けた日々は心を傷付けた。

 詫びられても許せそうにない。

 女として貶められ、家を侮辱され、プニカよりも劣ると言われた事は決して忘れられない。彼女達を疎ましく思っていたもの達などはそれを利用して散々にこき下ろしてきた。

 その過去を流す事は出来ないし無かった事にも出来ない。

 切々と語る傷付けられ続けた令嬢達の言葉に大人はそれ以上願えなかった。


 その後、皇女達より新たな婚約の話と、令息達に関しては帝国から治療の専門家の派遣、もしも国内にいるのが辛ければ帝国内でも訳ありの者達が生活している町への移住許可などを提示された。

 全ては回復してからの事である。もちろん帝国に利益があるからこその提案だ。

 魅了の魔道具はあまりにも危険な為、今では直ぐに破壊される事が多い。ここまで堂々と地位のある令息を狙うなど無かったので、実際の使用された後の症状などのサンプルが少なかった。

 治療の過程で観察し、少しでも資料を増やすのは今後の為にもなる。


 斯くして算段が整った所で晩餐会の開始である。

 

 令嬢達だけで占められる華やかな一席に近付けるのは皇女と彼女達の親だけである。令息達の親は暗い顔をしているものの、それで貴族の矜恃として何とか取り繕っていた。

 令息達の身に起きた事は皇女の口から公表された。その真実がどうであれ、禁制品として厳しく警告されていたものを使用され、被害者と位置付けられた事で何とか面目を保てた。

 令嬢達は言わずもがな、落ち度のない被害者である。

 つまり、皇女達はプニカのみを加害者としたのだ。事実彼女は疑いようもない加害者だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ