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顔面で殴る皇女様ズ  作者: 月森香苗
南の辺境伯領編

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49 可愛いに全振りした元皇女様④

 雪深き神秘の国ゾルダ王国。

 国を囲うように聳える山脈と溶けずの雪が他者を阻む、極めて限られた人々しか行き来しない未知の国。

 そこでカルミアは魔法に触れた。

 世界が失った魔法には理由があり、二人の人間が千年という途方もない時間を掛けて世界を再生した。

 そして再び世界に魔素が満たされ始めたことで、魔法が使えるようになった。

 偶然の巡り合わせと父である皇帝が持つ『直感』でカルミアと婚約者、親友とその婚約者もまたその場にいることが出来た。

 魔素の奔流、源泉は本来少しずつ蓄積していく魔素を直接叩き込まれたようなもので、無理やり開かれた魔力の器は平均よりも大きなものになっているのだと言う。


 カルミアは魔素とやらはよく分からないけれど、神の加護により何時でも溢れそうになっていた目に見えない力が整うような感覚になっていた。

 カルミアは考えるよりも体を動かしながらの方が馴染みやすかった。それはマディスやバルグスも同じで、ローゼルだけは頭を使う方が楽だからと魔法陣の構築を学んでいた。


「魔法ってすごいねぇ」


 指先に作った水球をいかに綺麗な形で維持出来るか、をやって見るといいとリーチェデルヒという男の人が言っていたのでやってみているが、なかなか形が安定しない。

 帝国に戻ってきてやるべき事が多くあるけれど、夜の寝る前にするこの練習は剣の練習と並んで楽しいと思えた。

 侍女のマキナもカルミアと共に訓練をしている。


「姫様。私、気付きました」

「なぁに?」

「侍女としては魔法は色々と楽になります!」

「ん~?どういうことぉ?」

「今までお水のご用意は、まず井戸から水を汲み上げ、一度沸かしてから冷ます必要がありました。検証は必要ですが、少なくとも井戸からの汲み上げの工程が必要なくなるかもしれません」

「おお!」

「また、掃除の時も!水を汲みに何度も往復する手間を省けるかもしれません。もちろん汚れた水を捨てる場所などが必要になりますが、かなりラクになります」

「他にはぁ?」

「魔導具が開発されたならば、より便利になるかと。例えば、火を使わない調理器具。もしくは、お湯をそのままの温度にしていられるポットなどがあれば好きな時にお茶が飲みやすくなります」


 マキナは普段は落ち着いているのだけれど、考えがぽろぽろと溢れているのだろう、目を輝かせている。

 そんな彼女の様子を微笑ましく思いながら、他には無いかなぁ、と考えるカルミア。


「あ、入浴も楽になりそう」

「魔導具でお湯が出る仕組みが出来れば楽になりそうですね」


 王族でも入浴は二日に一度である。それは、専用の厨房でお湯を沸かしてメイドがせっせと浴槽に溜めているからで、かなりの労力なのだ。

 それが解決出来るならば、メイドは楽になるし、カルミアももしかしたら毎日入浴出来るかもしれない。


「古き時代は魔法や魔導具を戦争に利用したと言いますが、そんな事よりも生活を豊かにする事の方が魅力的ですよね」

「わかるぅ~」


 帝国が強大な国だからこその余裕であるが、しかしだからこそ平和は維持出来ているとも言える。

 絶対的な強者だが恐怖による支配はしていない。

 変化した世界に一番近い所にいるのが、帝国とこれから姉が嫁ぐゾルダ王国となる。

 戦争は必要な時には必要なのかもしれないが、今の平和を壊してまですることでは無いだろう。


「さて、カルミア様。ご就寝の時間ですよ」

「はぁい」


 余程の事がない限り、カルミアは規則正しい生活を送っている。よく食べよく動くからか、体は休息を必要としている。

 健康の為にもそれを維持する事は大事だとダラにも言われているので、マキナに言われたカルミアは夜の練習を終えてベッドに入る。

 マディスは一度領地に戻ると言ってバルグスと共に馬で駆けて行った。ローゼルは王都の公爵邸に残っているので、どうせならこちらに泊まって貰ってもいいのでは?と画策している。





 カルミアがローゼルを気に入っているのは、彼女が過剰にカルミアに反応しないこともだが、一番はやはり己の婚約者から傷付けられ、周りから心無い言葉を言われてもしっかりと前を見ていたところだった。

 立太子はしていないものの、未来の王妃として見られていただろう。そんな彼女は幸いにして、必要最低限の王子妃教育までしかしていなかったから帝国に引き抜けたのだ。

 もしも国の内部に詳しいところまで知っていたなら王国は手放さなかっただろう。

 話をしてみればやはり聡明で真面目すぎるところはあったけれど、楽しい時間を過ごせた。

 親しい友人を作らなかったカルミアが彼女と仲良くなりたい、と思ったのはきっと運命だったのだろう。

 自分の近くに置いておきたいからとバルグスを紹介したが、全く悪いとは思っていないし、寧ろ良い縁結びをしたと思っている。

 ローゼルに花飾りを贈ったのは彼女の身を守る為だが、一番は自分の名を冠した花で彼女を飾りたい、それだけ。

 別にローゼルに恋をしている訳では無い。ただ、初めて出来た友人を大事にしたい気持ちが強い。


 なので、婚約者として距離を詰めながら関係を深めているバルグスと喧嘩に度々なるのは、まあ、自然の流れであったのだろう。

次の話は結婚直後のマディスとのいちゃいちゃになります。

結婚式の話も書いておきたかったので次で。

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