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顔面で殴る皇女様ズ  作者: 月森香苗
南の辺境伯領編

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47 可愛いに全振りした元皇女様②

 カルミアが辺境伯家に嫁ぐのはほぼ確定となっていた。バドシュラ辺境伯領は特殊な地域で、南の森から定期的に巨大化した獣が現れる。

 治安が良い場所とは言い難く、皇室から皇女が嫁ぐ際には胆力がある者が選ばれる程だった。

 その為、カルミアは他の姉妹とは異なり少しだけ教育が異なっていた。

 アナベルすら他国の王妃になれるような徹底した教育を受けていたが、カルミアはその時間を剣の鍛錬に費やすことが認められたのだ。

 戦う力がある者は戦うのが辺境伯領での不文律で、「武」の加護を得ているカルミアがその責務を果たさないのは怠慢以外の何者でもないだろう。



 カルミアの剣の師はダラという女性で、顔に大きな傷を持つ女性騎士だ。彼女は今よりももっと若い頃、彼女の親が治める領地に冬を越えて飢えた熊が降りてきて人を襲い、それを退治する事となった。

 ダラは領民を逃がすことに専念していたのだが、熊が逃げるようにダラの方に向かってきて、領民を守る為に盾となった。

 結果として彼女の顔には消えない傷跡が残った。

 貴族の娘としての幸せをダラはその時点で諦めた。

 ダラは弱かったから傷を負ったのだと己を責め、体を鍛え、騎士の道を選ぶ事にした。

 顔に傷のある女が使用人や女官になれるわけもない。ならばいっそ、体の傷が可笑しくない場所に行こうと初めは傭兵になる事を考えたが、それだけは止めてくれと両親や兄、妹に泣かれて騎士の道を選んだという。

 顔に傷のある貴族女性のダラが帝立騎士団にやって来た時、多くの者が彼女を嘲った。しかし、笑わなかった者がいた。それが皇太子トラディアスと皇太子妃フィオレンティーナであった。


「飢えた獣を前にして民を守る為に、我が身を差し出せる者がどれだけいる」

「彼女を笑った者は、冬眠明けの熊の害に悩まされている地域に派遣しましょう。笑うくらいなのですから余裕で討伐出来るでしょう?」


 ダラはただの少女でしか無かった。無力な少女が我が身を顧みずに立ち塞がった。それを笑うならば、それ以上のことが出来るのだろう?と言われ、彼女を笑った者たちは黙るしか出来なかった。

 女性騎士が集まる第四騎士団に配属されたダラは、体を鍛え、剣を降る日々を苦とは思わなかった。弱かったから傷を負った。咄嗟に守った領民に罪悪感を植え付けてしまった。家族を泣かせてしまった。

 弱かった自分が全ての原因だと思い、強くなることを目指した。ただ我武者羅に強くなる事だけを望んでいたダラを止めたのは、文官のリュールという男だった。

 彼は一人で鍛錬するダラの無謀さに呆れ、効率の悪さを指摘した。最初は剣も振れない癖に、と思っていたダラだったが、リュールの考えた鍛錬のやり方に変えたら、体への負担が軽減した。

 効率とはこういうことか、と感動したダラはそこからリュールとよく話すようになって言った。

 リュールから求婚された時には、顔の傷のことや女らしくない体付きなどを理由に断ろうとしたが、それだからこそダラが良いのだと逆に説得された。

 リュールは美しい女性を醜いと感じる感性らしい。つまり、ダラは大勢から見れば醜いと思われているが、リュールからしたら一番の美女に見えるとのことで。

 大変な奴だな、と思いながらもダラは最終的に頷いた。


 そんなダラはリュールのおかげで効率よく鍛錬のメニューを組むのが得意になった事もあり、カルミアの剣の師に選ばれた。

 リュールは皇女全員の顔がアウト判定に引っ掛かっていて「うわ、無理、その顔恐ろしい……吐きそう」とまで本人達に言ってのけたことがある。

 皇女達は怒ること無く、寧ろ愉快であると不敬にも程があるリュールを許した。

 愛する妻の鍛錬姿は見たい。しかしそこにはカルミアがいる。悩み苦しんだリュールはカルミアの顔の耐性をつける努力をした。

 何故なら、ダラはカルミアの輿入れに着いていくつもりだから。リュールがついて行かないわけがない。ならば慣れるしかないのだ。

 大変失礼な思考だが、リュールは真面目にそう思っていたし、カルミアにもそう宣言した。


「ねぇ、ダラ。リュールって変ねぇ」

「それが可愛いのですよ」


 楽しそうに笑うダラと、カルミアの顔に慣れる為に遠くから覗き見ては具合を悪くするリュールに囲まれた鍛錬場で、カルミアは呆れた顔をした。


 カルミアはダラが好きだ。顔にある傷は彼女の強さの源だ。その傷が無ければ今頃カルミアの師となる事はなく、どこかに嫁いでいたはずだ。

 彼女の苦痛や苦悶を承知の上で、こうして師となってくれている事をカルミアは嬉しく思っていた。



 カルミアは自分の傍に置く者を厳選していた。いや、皇女ならば皆そうだろう。顔に惑わされる事の無い信念を持つ者。故に、少数精鋭になるのは無理もなかった。

 その中でカルミアが特に自慢に思っているのは料理人のレーグである。

 「武」と同じ比重でカルミアは「食」にも強い拘りがあった。

 八歳の時に引き抜いた彼は初めこそ反発心が強かったが、次第に慣れてきたし、姉達だけでなく皇族全体に自慢し過ぎてうっかり奪われそうになった事が何度もある。

 加護のおかげで毒殺の心配はないと言えど、心置き無く食事が出来るのは大事な事だ。

 カルミアは専属侍女のマキナとレーグを必ず連れて歩いた。公務の一環で遠くに視察に向かう時は特にレーグを連れていたのは、そこでしか食べられない物を覚えてもらう為だった。

 カルミアは自分が可愛いと言う自覚を持っていた。興味はこれっぽっちも無かったけれど、可愛すぎてどうにか手に入れようとする不敬極まりない者が少なからずいることも知っていた。

 食事や飲み物は効果がないと言えど、余計な物を混ぜられていることが多々あり、何度拳を振り上げそうになったか。

 滞在中の部屋は内外に騎士を置いておかねばならない。反撃は出来るが、騎士に委ねた方が楽だったので任せていた。

 皇女相手に夜這いなど命が惜しくないのかと思う事は多々あった。何人かの腕は護衛騎士により飛ばされた事もある。

 第一、バドシュラ辺境伯家の子息マディスとの婚約は公にされていて覆る事は無いのに、何故行けると思っているのか。

 マディスとは仲良くしているし、婚約の解消などない。むしろ横槍を入れる意味を理解していないのか。

 それだけカルミアが可愛すぎるのがいけないのだろう。

 これがそこらの令嬢が言えば自意識過剰となるのだろうが、カルミアは男から見ても女から見ても可愛いを詰め込んだ顔だ。事実でしか無かった。


 視察で新しい料理に出会えるのは嬉しいが、それ以外は何も楽しくもないと思いながらもそれがお役目なのだと割り切るしかない。

 民は滅多にお目にかかれない皇族を遠目からでも見る事が喜びであり、また、国はその地を気に掛けていると言うアピールにもなるのだ。

 遊び気分では駄目だと切り替えるしか無かった。




「ミアお姉様。相談に乗って欲しい事があるのですが」

「ルーちゃん♡どうしたのぉ?」


 何時もであれば図書館に籠っている妹からの声掛けに、カルミアは笑顔で答えた。

 ルピナスはピンクゴールドのふわふわとした髪の毛と小柄な背丈がまさにお人形のようで、とても可愛い。ドレスを着ていてもカルミアであれば抱き抱える事が出来るのだけれど、周りから止められるから人前でしたことは無い。

 人前で無ければするけれど。

 可愛い妹からの相談にカルミアは二つ返事をして己の離宮に招いた。今の時間ならばレーグがお菓子を作っている頃だったので、丁度良いと思ったのだ。


 ルピナスは最近婚約者が決まった。ドラスニト王国の大公子息ジェレミーで、カルミアと同じ年。

 背の高いジェレミーと背の低いルピナスは並ぶとでこぼこに見えるが、ルピナスが話をしようと背を伸ばし、聞こうと体を傾けるジェレミーは随分と仲が良さそうに見えた。

 さて、ルピナスがわざわざカルミアを指名して相談するからには、姉二人では解決出来ない事なのだろうと気合を入れてきいてみた。


「あの、ジェレミー様に剣帯を贈りたいのです。でも私は詳しくなくて、ミアお姉様にお話を聞けたらと思って」

「そっかぁ♡そうだよねぇ♡それならわたしが一番だよねぇ♡」


 姉二人には聞けないだろうし、兄達にも聞き辛いだろう。

 兄弟姉妹の中で一番詳しいのは間違いなくカルミアだ。何せいくつも作っているし拘りもある。

 可愛い妹もすぐ上の姉と同じく国外に嫁いでしまう寂しさはあるけれど、普段は無表情なルピナスがほんのりの頬を染めて照れながらプレゼントに悩む姿が可愛かったので、カルミアは必ず喜ばせてみせる、と気合いをいれて相談に乗った。

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