40 【26階層】火山地帯と火喰鳥
ダンジョン内は特殊な構造をしていて、神の力により、建物よりも遥かに広い土地と、ありえない環境が作り出されている。
26階層に初めて足を踏み込んた【美食の卓】の四人は、先行しているクランメンバーから情報を貰い装備などを万全にしていた。
この階層は「火山地帯」と呼ばれるとおり、火山が存在している。時折、火口から溶岩が流れてくる上、ここに生きる魔物は総じて熱に強い。
対策をしていない人間はまず熱さでまともに歩く事も出来ないだろう。
「耐火薬ってすごいねぇ~」
「ミア、肌を出さないようにね」
「ロゼもだ」
「ええ、分かっています」
甲斐甲斐しく己の妻の装備を確認する男達は、それでも周囲の警戒を怠っていない。
四人の役割は大雑把には決まっている。盾を持って魔物の攻撃を受け止める役割はバルガスが、後方支援や回復をするのはローゼルが、剣を手に切りつけに行くのはカルミアとマディスが担当している。
また、移動の際に敵がいないかの探索魔法を展開するのはローゼルの役割であった。
「探索」
ローゼルが魔導書を開くと、緻密に描かれた魔法陣が目に入る。
魔法陣の構築は使用者が使いやすいように変える事が可能だが、構成の原理はルールとして定まっている。
円や三角や四角などの図形は必ず「閉じる」こと。これは魔素を魔力に変換した後、魔法陣に読み込ませた際に「循環」させる為である。
ただの直線は「放出」を表現し、方向を指示する言葉か記号を組み込む必要があった。
魔法陣の外枠は円形で、角を作らないことでその中に留め満たすと言う役割となる。
円形の層を重ねる事で難易度が高い魔法を行使出来る代わりに消費魔力は大きくなり、層が少なければ簡単になるものの魔力消費は抑えられる。
サーヤに教え込まれたローゼルは、時間がある時には魔法陣の構築をしている。そして余裕があれば女性に限るものの、同じ魔法陣を使う者達に簡単な講義が出来る程になった。
探索魔法はサーヤから教わったのだが、原理を理解すれば自ずと使う単語が定められる。この単語を魔法陣に組み込み、詠唱を破棄して単語一つで術を発動させる分、魔導書を使う魔法使いの攻撃速度は速いのだが、如何せん理解力が必要になる。
考えるよりも体を動かす方が先なタイプには向いていない。
「魔物は全体的に点在していますが、小さく数が多いのは北西方面ですね」
四人は明確な目的があってここに来た。初めて足を踏み入れる階層の為、上手く行かなければいかないで下見が出来ればいいのつもりで来ている。
「火喰鳥って燃えてらしいけどぉ、お肉部分は無事なのよねぇ?」
「燃えているのは表面だけらしい。捌いた奴いわく、肉部分は鳥と変わらんそうだ」
「カラアゲというものをまた食べたいな」
「わたくしはチキンロールというものがおいしかったのでまた食べたいです」
食にこだわりがあまりなかったローゼルも、カルミアと付き合うにつれて美食に目覚めた。沢山動いた後に食べる料理の魅力を知ったローゼルは、母国にいた時よりも健康になっているのを実感していた。
異世界の料理を定期的に学ぶレーグにより、貴族生活をしていた時よりも遥かに美味しいものを知った四人が26階層に来たのは、火喰鳥が食卓に出る鳥よりも段違いで美味しいと聞いたからだ。
岩が多く、生えている植物は火に燃えず熱にも弱くないものだけで、赤と黒と熱に満ちた場所である。空には外とは違う重い雲が何故か浮かんでいた。
だが、食欲旺盛な二十歳前後の若者の前ではそんなものはどうでも良い事である。
彼らの頭の中にあるのは、上手く獲物を持ち帰ったあとの食卓にならぶ料理のことなのだから。
「いたぁー!」
歩いて二時間ほど。道中で「フレイムリザード」という火の魔法を口から吐き出す大トカゲを何頭も狩りながら奥へ奥へと歩いて来た。
光、闇、聖属性に適正のあるローゼルは、光魔法で歩く速度を速め、闇魔法で疲労軽減を定期的に掛けていた。
光は活性、闇は鎮静の効果があり、長時間移動に向いている。聖属性は体の怪我を治すものだが、疲労は怪我ではないので闇属性の魔法の扱いになる。
三人が戦う事に専念出来るのも、ローゼルが一人でサポートが出来るからだ。しかも、闇魔法の使い方次第では相手の攻撃を阻害出来る。
減速させたり攻撃力を下げたりなど、大物相手では難しいけれど、小さい魔物にはばっちりとはまる。
鳥系の魔物の厄介な所は、飛んでいる事と、上空から猛スピードで滑空して嘴などで攻撃してくるところなのだが。
「減速」
停止ではなくあくまで動く速度を遅くするだけなので威力は強くない代わりに、広範囲指定が出来るので空を飛んでいた十数羽の鳥の魔物がその魔法に絡め取られて動きが遅くなった。
ローゼルが狙われるよりも先に、バルグスは挑発の魔法を使った。身体を強化する魔法に詠唱は不要で、そこに自分を狙わせる挑発を使う事と合わせて結界の魔法を体に纏わせて一人要塞状態にバルグスはなった。
ローゼルでは持つ前に押し潰されそうな大盾を構えたバルグスは、火喰鳥からの攻撃をものともしない様子で受け止めていた。
十数羽の内、八羽が襲いかかり、残りは警戒したように空に留まっている。
「おっにくぅ~!」
細身の剣はドワーフに鍛え上げてもらった後に魔法を付与してもらったものである。魔道具とは異なり、刃に直接魔法を刻み込んだ剣には幾つもの効果が追加されている。この剣には、軽量、耐久、凍結の効果が出るように付与がなされている。
付与と言うのは一つの魔法技術で、誰でも出来るものではない。才能が必要なもので、ゾルダ王国の魔法学園に留学した者がその際を見出されて戻って来たのだ。
影響力のあるカルミア達が来て有用であると証明されるや、その付与魔術師の元には多くの依頼が舞い込んだ。
シャツ、トラウザーズ、ブーツ、胸当て全てに適切な付与がなされた装備を身につけているカルミアは舞うように剣を振るっては火喰鳥の首を落とそうと狙っていた。
マディスも負けじと飛び出して火喰鳥の首を狙うのだが、彼はどちらかと言うと大型に慣れていて、小型の魔物は苦手としている。
軽やかに逃げられて悔しそうに唸る姿にカルミアは笑ってしまった。
マディスは見た目こそ貴公子だが、辺境伯領で生まれ育って来た「強さこそ全て」の頭の中まで筋肉なタイプだ。カルミアも可愛いを凝縮した、子供の頃から男の子の初恋を奪ったと言われるほどの可愛らしさだが、神の加護が武力に偏った頭の中まで筋肉なタイプなので、マディスのそんな所がかなり好きである。
着飾った姿ではなく、戦闘訓練の後の姿を見て「結婚して下さい」と言ってきたマディスへの好感度は高かったけれど、婚約期間の間にもっともっと好きになった。
カルミアが皇女らしく振舞っているのもいいけれど、剣を持っている時の方が好きだなんて言ってくれるのはマディスだけだったから。
「マディ、わたしがするからぁ♡適材適所♡」
足の裏に力を込めると、地を蹴ってふわりと飛び上がったカルミアは剣に魔力を通す。氷の刃が勢い良く鋭く纏わりついて大きな大剣のようになった。
「形が綺麗なのは八羽いればいいよねぇ♡」
そう言いながら空中で大剣を横薙ぎに振るうと、刃に付いた氷が容赦なく火喰鳥に吹っ飛んで行った。
逃げる間もなく氷に貫かれた火喰鳥は地面へと落下していき、下で待っていたマディスが確実に仕留めた。
小さいと言っても、そこそこの大きさの火喰鳥なので、足りないということはないだろう。
生きている間は体表が燃えていたので赤かった火喰鳥は命を失うと茶色の羽の鳥だと分かる。
指につけた収納の魔道具にそれを納めたマディスは軽やかに降り立ったカルミアの近くに寄った。
ローゼルはバルグスの所へ向かって怪我がないかの確認をしている。
「ごめん。俺が小型を苦手としてるから」
「大丈夫だよぉ♡今回はほら、綺麗な姿じゃないと駄目だったからぁ。叩き潰していいならマディの方が早かったと思うよぉ」
間延びした話し方は結婚しても変わらない。そんなにカルミアがマディスは何時でも愛おしくてたまらないのだ。
目的の物を狩り終わったので、上の階に向かう階段を探す。そこには1階層に移動出来る転移陣がある。警戒を怠ること無くその階段を見つけた四人は、上には登らずに1階層へと戻った。
今日の夕飯に間に合うように早く戻ることが彼らの最優先事項であった。
この位の階層はまだまだ余裕です。
ローゼルは旦那様が必ず守ってくれると信じてるので怖くないです。




