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顔面で殴る皇女様ズ  作者: 月森香苗
ゾルダ王国編

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22/22

21 「雪の王」と「夜月の女王」③

今回は短めです。

 帝国において砂糖とはそれなりに高級品の部類である。金貨とまではいかなくとも、平民が口にするには敷居が高く、貴族もたまの贅沢に使う程度。

 皇族だから、カルミアの料理人がふんだんに砂糖を使ったお菓子を出すことに違和感はなかった。だが、それは広大な土地を持ち、属国も多く、そこから交易品として安い税で入手出来るからだ。


「これ、砂糖ですわよね……?」

「サトウ?ああ、この甘い粉のことですか?帝国ではそのような名前で呼ぶのですね。こちらではソケリと呼ばれていますね」


 トレニアの目の前にはポットに適当に砕いたと思われる少し茶色味を帯びた砂糖が特に違和感もなく置かれていた。


「あの、こちらではその、ソケリは当たり前のものですの?」

「はい。作るのは少し時間がかかりますが、どの家でも作っていますね」

「そうですの……」


 本日の予定は雪が降る気配もないので外に視察に行くことになっているが、その準備をしている為、トレニアとベイセルは団欒室で呼ばれるのを待っている。

 国王と王妃は執務を行い、ジャスミンとモーゼルは家庭教師による勉強となっていて、ベイセルと二人での視察にトレニアは少しばかり心弾んでいたのだが、それが吹っ飛んだ。

 トレニアは皇女として生まれ育ってきた。興味を抱くのが美容と芸術であっても知識はある。

 ルピナスから樹液の話は聞いていてカルミアも北部の樹液に興味を抱いていたから、新たなる甘味としてそちらを交易品として取り扱ってこの国と帝国との間に流通を生み出していくのが早いと思っていたのだが。


「ソケリはどうやって作っておられますの?」

「根菜なのですが、ソケリユリカスと言う野菜がありまして、それを刻んで煮て濾過するを繰り返していたら出来ますよ」

「量はあまり作らないのですか?」

「いえいえ。結構作りますよ。そもそもソケリユリカスを育てているのは葉が家畜の餌に丁度良いからなんですよね。ソケリは祖先がつくるようにと言っていたのを守っているだけですし」


 ベイセルの何の特別感もない物言いにトレニアは悩む。この国で砂糖は特別なものでは無い。生活に当たり前のように根付いているもので、買うものではなく家で作るものなのだ。

 これは己の手に余る、と判断したトレニアはそれ以上の追及を止めた。一度皇室に持ち帰り、父に相談すべき案件である。


 トレニアは気持ちを切り替えると、お茶が注がれたカップを手に取る。が、ベイセルが温めたミルクをお茶に注ぎ、砂糖を入れて混ぜているのを見てトレニアも真似をしてみた。

 ジューノが手を出そうとしたのを止めて自分でしてみる。淑女は重たいものを自ら持つことはほとんどない。だが、皇女は身の安全のために鉄の棒を仕込んだ扇子を持っている。それなりに重いが、その扇子は打撃にも咄嗟の防御にも使えるので重宝している。

 ミルクの入ったポットくらい簡単に持ち上げられる。


「美味しい……ミルクが濃厚ですわね」

「毎朝新鮮なミルクが届くからですね」


 安心するような温もりにお腹の中がポカポカとする。お茶だけでも充分なのだが、ミルクが混ざるとまろやかになり、そこに甘味がある事で心が解れていく気がする。


「これから視察に向かうのは雪山牛を飼っている一家のところです。トレニア様に召し上がっていただきたいものがあります」

「楽しみですわ」

「きっと喜んでいただけるかと」


 トレニアは家畜を間近で見た事はない。そういった場所はまず帝都近くには無いからだ。

 こちらに来るにあたって外出着は帝国北部を参考にしたのだが、帝国に滞在している大使に助言を求めたところ、汚れても問題がなく厚手の服で、トラウザーズを履き、足元はヒールのないブーツが良いとの事だった。

 その為、見栄えはある程度考えながらも防寒に徹した姿となっている。

 帝国では遠い異国より輸入した絹のドレスを着ているが、こちらでは羊の毛のドレスが一般的とのことで、着てみたが中々に暖かい。コートもゾルダ王国に入ってから最初の街の貴族向けの店でジューノに購入してきてもらったけれど、作りはしっかりとしていて簡素ながらも温かみがあるところが気に入った。

 皇女が着る服は本来店で購入することは無い。しかし、今回は帝国民の目は無いし、多少はお目こぼしがある。ジューノも色違いのを着ているが、トレニアがそう命じたからだ。

 仕える主と同じものなど恐れ多いと断る彼女に対してトレニアは「貴方が体調を崩して倒れたらワタクシが困るわ」と言って了承させた。

 ジューノはトレニアの輿入れに際して着いてくる。彼女には帝国には滅多に帰れない事などを語り、よく考えるように告げたのだけれど、彼女の意思は固かった。

 伯爵家の三女として生まれ、持参金は姉二人までは用意出来てもジューノの分までは難しかった。そこでジューノは皇城の侍女として働く道を選んだ。

 初めこそ皇城内勤務だったのだが、トレニアの離宮に回され、トレニアが彼女の働きを評価して専属に変えた。

 忠誠心はあるが盲目的ではなく、トレニアが意見を求めれば追従するのではなく考えた上で返答する所を気に入った。

 頭の回転も早く、気も利くので彼女が共に来てくれる事に心の中で安堵していた事をまだ告げられてはいない。


「トレニア様、準備が整いましたので行きましょうか」

「ええ。お願いしますわ」




 馬車にはトレニアとベイセル、ジューノとベイセルの侍従のノクトが乗っている。トレニアとベイセルが並び座り、その向かいにすわるジューノとノクトはスン、と表情を消して、ついでに気配も出来るだけ消している。

 彼らの主達はお互いを尊敬し合っているが、まだ恋慕という段階には至っていない。だが、二人とも美しい見た目をしている上に、トレニアが妖艶な事もあり普通に振舞っているのにやけに艶かしい。

 ジューノからすればトレニアは慣れた主なので「あら、はしゃいでいますね」で済むのだが、慣れていないノクトには刺激が強いらしい。

 ジューノは帝都の多種多様な素晴らしい貴公子達で目が肥えているつもりだったが、そんなの甘かったと思わされる神秘的な雰囲気のベイセルの方が刺激が強かった。

 第四皇女ルピナスの侍女から、ルピナスがベイセルを「雪の王」、トレニアを「夜月の女王」と例えたと聞いたが、なるほどなーと目の前で見て納得した。

 ただ、初めて見た時よりも緊張が和らいだのか、トレニアと共にいることを喜んでいるのか、ふわふわとした笑みを浮かべる瞬間を見ることが多く、その時は「雪の王」よりも「銀雪の精霊」のようだなと思えた。


 二人の会話が弾んで楽しそうなのは大変良い事なのだが、その正面で息を潜めて静かにしている侍女と侍従はこっそりと、早く着かないかなー、と思っているなど、彼らの主はきっと気付いていないだろう。

トレニアは普通にしてるだけでお色気が凄く、ベイセルは(他国の人間的には)神秘的で大人びているので、二人が隣会って話しているだけなのに中身を聞いていなければとても艶かしいです。

会話の中身は結構ほのぼのしてます。


侍従の名前間違えてたので直しました。

コルトではなくノクトです。

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